富士通株式会社は、日本を含む世界各地で事業を展開しており、グローバルにデジタルサービスを提供しています。これまで高度な技術力と豊富な実績で、大規模かつ先進的なシステムを構築し、ITサービスにおいては国内売上高1位、世界でも上位クラスに位置しています。
富士通グループは、ITサービスをはじめとするサービスソリューション、またサーバーやネットワーク機器といったハードウェアソリューションなどを提供しており、従業員は11万3000人にものぼります。
富士通にとって「人材」が最も重要な資本であると位置づけ、パーパスの実現に向け、「社員の心とからだの健康と安全を守り、すべての社員が心身ともに健康でいきいきと働くことができる環境をつくりだす」ことをグローバル共通のサステナビリティ重要課題として設定し、さまざまな活動を推進しています。
健康経営®️に関してはいち早く取り組み、「健康経営優良法人 ホワイト500」に9年連続で認定されています。人事部門が主管となり、健康推進本部や富士通健康保険組合と連携して三位一体で進めています。今回は人事部門であるEmployee Success本部Employee Relation統括部の高安俊輔さんと土肥由莉さんに、その取り組みについてお話を伺いました。
「健康経営®︎」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
早くから健康分野に投資し、2009年には健康推進本部を設置
――まず健康経営に関してのお二人の役割を教えていただけますか?
Employee Success 本部 Employee Relation 統括部 土肥由莉さん
土肥:私たちが所属しているEmployee Relation統括部は人事のCoE機能として中核を担うような役割を果たしています。会社の生産性の向上や、社員のウェルビーイングの向上に目を向けて、富士通社内全体の人事施策の戦略の設計や企画立案を実行しています。
特に私たちは、富士通全体の健康経営の取り組みを企画・立案するチームとして活動しています。
――これまで御社内では健康経営をどのような位置付けで推進されてきたのでしょうか?
Employee Success 本部 Employee Relation 統括部 高安俊輔さん
高安:富士通では以前から社員やその家族の健康支援を目的として健康分野に投資をしており、2009年には健康管理に特化した健康推進本部を設立し社員の健康増進を行ってきました。その過程で、世の中でも健康経営や働き方改革などの動きが強まっていき、その中で当社は本格的に健康経営の取り組みをスタートしました。2010年代には社会的に働き方改革やワークライフバランスの時流が強くなったことを受け、働き方に関しても柔軟に対応しながら健康経営の取り組みを行い、現在に至ります。
富士通では、健康経営を単体で捉えるのではなくて、会社全体として掲げているサステナビリティ経営における重要課題として、グローバルレスポンシブルビジネスのうちのウェルビーイングの取り組みという位置づけで、健康経営を推進しています。
――「健康経営優良法人ホワイト500」にも9年連続で認定されるなど、健康経営に関してはトップを走られている印象ですが、認定を取得されようとしたきっかけを教えていただけますか?
高安:健康経営に取り組んでいる企業として、外部にもその取り組みを示したい、また人材の採用にも影響があるとの考えが主なきっかけとなりました。また外部評価を受けることで、社内での健康経営の取り組みをより良いものにしていきたいという考えもありました。
具体的には富士通の「イノベーションによって社会に信頼をもたらし世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスの実現のために、サステナビリティ経営の一つとして、健康経営の取り組みをより良いものにして、社員が健康的に働ける会社となるよう環境を整備しています。
従来の怪我や労働災害防止などの安全衛生だけではなく、健康経営の職場風土醸成として、健康に関するメンタル・フィジカル両面の相談窓口の設置や、労働時間の適正化、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病対策など多岐にわたって取り組んでいます。
eラーニングで健康リテラシー向上、9割の社員が受講
――健康経営、ウェルビーイングのための具体的な施策について教えていただけますか?
高安:まずメンタルヘルスの取り組みとして、年に一度ストレスチェックを行い、面談希望者には社内の保健師、産業医といった医療職が面談をして、メンタルヘルス疾病の未然防止に努めています。また、ストレスチェックの組織全体の結果を組織長にフィードバックして、職場環境の把握と改善に努めています。
毎年のストレスチェック以外にもメンタルヘルスの相談対応体制を確立していて、社員が必要に応じていつでも相談できるように、社内サイトなどを通して社員全体に幅広く周知したことで、実際に産業医や保健師に体調面の相談などをしている社員もいます。
身体的なところでは、定期健康診断の実施はもちろんのこと、富士通クリニックという社内クリニックがあり、歯科検診や婦人科検診といった検診も実施しています。
また健康教育としてはeラーニングを毎年実施していまして、9割以上の社員が受講し、健康に関するリテラシーを高めています。テーマは頭痛や腰痛、がん対策、歯の健康、睡眠など毎年変えています。
――9割の方が受講されているのはすごいですね。どのように告知をされているのですか?
高安:全社員にメールで送付しています。皆さんに興味を持ってもらえるような、身近な悩みである頭痛や歯の健康や睡眠をテーマにして受講を促しています。これは業務時間内に受けてもらうもので、期間を決めてその間に受講するよう案内しています。内容は大体30分位の長さのものです。また期間外でも申請をすれば、以前のテーマを見られるようになっていて、朝や終業後の隙間時間に見てもらえるように工夫もしています。
eラーニングを視聴した後にアンケートの記載欄も用意していて、そこにフリーでコメントを社員に書いてもらい、今後の課題などを抽出して、次年度の取り組みに活かすようにしています。コンテンツは基本的に内製していて、外部の医師などに監修してもらっています。
ウォーキングイベントでは組織ごとに盛り上がる工夫を
――身体的な健康という点ではどのような施策をされていますか?
高安:春と秋にそれぞれ1ヶ月間ウォーキングイベントを実施し、基礎的な運動習慣の定着、生活習慣病対策の一つとして利用してもらっています。多くの社員に参加してもらえるよう、社内SNSやポータルサイトで呼びかけをするのと同時に、組織ごとにイベントとして盛り上げるような仕組みとしています。具体的には、参加者がウォーキングへのモチベーションを保てるように、インセンティブとしてデジタルギフトをプレゼントしたり、組織ごとの表彰制度を取り入れたりしています。各組織の取り組み事例を社内ポータルサイトに掲載して、社員の皆さんが楽しく参加できるように工夫しています。
土肥:実際に私もこのイベントを通じて、同じ組織でもそれまであまり接点がなかった方と仲良くなったことがありました。多くの社員もそのように利用してくれているようです。参加者も年々増えており、2018年の開始当初のウォーキングイベントの参加者は数%ほどだったところが、現在約4割の社員が参加するイベントになりました。
健康経営の重要性を広く認知させるために
――健康経営の取り組みの中で、ハードルに感じたことはありましたか?
土肥:大きく三つありまして、一つ目は行動変容の促進です。多くの社員が改善していますが、健康行動に興味があっても実行に移せない社員もいることがわかっています。そのような人たちにフォーカスをあてた取り組みも行なっています。先ほどお伝えした健康教育としては、今年はヘルスリテラシーというテーマで外部の先生をお招きしてセミナーを実施したのですが、健康診断の問診で健康を普段意識することが少ないと回答した社員に特に意識してもらえるよう、メールの案内を工夫するなどしています。
二つ目は、現場の健康経営の取り組みへの理解に時間がかかっていたことです。この点は毎年各組織長に健康データやストレスチェック、健康診断のデータなどを組織レベルで分析をして、その結果をフィードバックする際に感じました。健康でないことが、いかにその組織の生産性低下に繋がってしまうかという部分を、なるべくデータで見せるなど説得材料になるようなものを集めて、理解してもらうように働きかけています。
最後に三つ目として、健康経営の各施策の効果を可視化することが課題になっています。各アウトカムにどれくらいインパクトがあるのかとか、どの施策が効果的だったかを可視化しきれていないのが現況です。これに対しては社内のデータを用いた分析を行なってきた富士通Japan株式会社ヘルスケア事業本部とも連携をとって、健康経営の取り組みの効果をデータドリブンに可視化することを進めているところです。
――これらは大体何年スパンで考えているのでしょうか。
高安:大きなフェーズとしては3年毎ですが、基本的には1年毎でサイクルを回しています。健康経営の取り組み自体が社長をトップにしたプロジェクトになっていまして、年間の活動計画を立てて、それを実施して、また課題を振り返ってというように、年間でPDCAを回しているイメージです。 まさに経営層とのやり取りは私たちの仕事で、人事部門の本部長が年に一度は必ず社長に報告をし、討議を行うなどしています。
また年に2回サステナビリティ経営委員会というものがありまして、経営層全員が参加している場で、ウェルビーイング全体としての取り組みなどを報告する体制をとっています。
今後は社会全体のウェルビーイング向上への貢献を目指していく
――これからの健康経営やウェルビーイングの実現に向けて、重点的に取り組んでいきたいことや実現したい姿についてお聞かせください。
高安:富士通では、2023年の5月に発表した中期経営計画においてマテリアリティを改定しており、その中の「必要不可欠な貢献分野」として、「人々のウェルビーイングの向上」を掲げています。所属する社員一人一人が心身ともに健康で充実した状態であるということは非常に重要であるとともに、身体的な健康だけではなく、メンタル面にもアプローチして、社員のウェルビーイングの向上に取り組んでいきたいと考えています。
また、会社が個人の健康に投資をしたときに、それが企業としての生産性にどう影響していくのか、健康と経営を結びつけていくということを次のステップとして取り組んでいきたいと考えています。当社ではデータドリブンな健康経営施策というものを重視しており、データに基づいた効果的な施策展開に努めています。元々電子カルテなどのサービスを提供してきたため、ヘルスケア関連の事業には力を入れており、現場で使える健康管理のシステムやソリューションを持っています。その知見を利用して、自社の健康経営や顧客のサービスに対して活かしていきたいと考えています。
土肥:ウェルビーイングの向上が私達の中で重要なテーマになっており、その中でもポジティブメンタルヘルスの一つとして、仕事から活力を得てポジティブで充実した心理状態であるワーク・エンゲイジメントにも目を向けて、今後取り組みを強化していきたいと考えています。
当社では、勤務場所を柔軟に選択できるハイブリッドワークを導入しており、多くの社員が自宅やシェアオフィスなどからリモートで働いています。在宅勤務が主流となる以前から在籍している社員には元々の人間関係があるため、在宅でもコミュニケーションを図りやすいと思いますが、新入社員やキャリア入社者など入社年次が浅い社員はその繋がりが薄いため、孤独感を覚えやすいこともあるかと思います。働く環境の変化に応じて、社員のマネジメントやメンタルケアの方法もアップデートをして、社員一人一人が心身ともに健康で自律した働き方を実現できるように努めていきたいと考えています。
プロフィール
富士通株式会社 https://global.fujitsu/ja-jp/
Employee Success 本部 Employee Relation 統括部 高安 俊輔 土肥 由莉