二度と地球から資源を取らない!アトリエデフの家づくりへの思いとは

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健康や豊かな暮らしへの意識が高まってきている昨今、長野県上田市に本社を置く株式会社アトリエデフの家づくりが注目されています。同社は、自然素材の住まいを提案するだけでなく、環境問題やサーキュラーエコノミー(循環経済)、SDGsなどの活動にも積極的に取り組んでいる工務店です。

 

今回は、株式会社アトリエデフの空気環境対策とウェルビーイング実現に向けての取り組みなどについて、代表取締役社長の大井明弘さんと、社長室 室長兼環境事業チーム チームリーダーの植松和恵さんに話を伺いました。

 

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資源を循環させる家づくりを目指して

 

――御社では自然素材の住まいを提案されているということですが、事業内容や環境への考え方について教えてください。

 

大井:株式会社アトリエデフは、1995年創業の工務店です。自然素材だけを使った家づくりを行っており、健康な暮らしと自然環境の改善に取り組んでいます。

 

――SDGsにも積極的に取り組んでいらっしゃるようですね。

 

大井:はい。ただ、私たちはSDGsを意識して事業を行ってきたわけではないんです。創業以来、家づくりとともに環境問題にも取り組んできました。今でこそSDGsと呼ばれていますが、私たちにとってはこれまでずっと取り組んできたことで、その取り組みにSDGsという名前がついて認識されるようになったというだけのことです。

 

――御社が取り組んできた環境問題とはどのようなものでしょう?

 

大井:日本は戦後、積極的に植林を進めてきました。資源となる木を生産するために、杉や檜、松などを植えていったのです。ところが、木材の輸入自由化によって外国産の木材が安価に手に入るようになり、日本の木材は使われなくなってしまったのです。結果として、日本の森林は荒れ放題になり、土砂災害などのさまざまな課題が出てきています。

 

――そういった森林の課題を何とかしたいという思いから、日本の山の木をはじめとする自然素材だけを使って家づくりを行っているのですね。

 

大井:そうですね。家はいつか朽ちるものです。ですので、私たちはこれまで自然素材を使って「土に還る家」を造ってきました。しかし、現在では、家が朽ちた後に素材を土に還すのではなく、その素材でもう一度家を造るという考え方にシフトしているのです。

地球から取った資源を地球に返し、また地球から資源を取るのではなく、もう二度と地球から資源を取らない家づくりを目指しています。例えば、一般的な柱よりも5mm厚くしておくことで、再利用の際に表面を削って新しい木材として使えるようにしていますし、ウッドファイバーという木の素材を使った断熱材は接着剤などを使用していません。土壁も土を練り直して再度使えるようにするなど、100%再利用とまではいかなくとも、できるだけ資源を循環できるようにしています。

 

――一度使った資源を循環させて利用する、まさにサーキュラーエコノミーですね。

 

大井:弊社では、サーキュラーエコノミー委員会を設立し、「100年後も使える家づくり」により具体的な取り組みを進めています。その家の材料となった木を誰が切ったのか、誰が家を造ったのか、どんな方法で加工したのかなど、100年後でもわかるようにしておきたいのです。その情報を書面にしておくとなくなってしまうかもしれないので、情報をQRコードにしてプレートに残し、家の壁などに埋め込む仕組みを作っているところです。

コロナ禍をきっかけに住む場所への考え方が変わってきた

 

――世の中は、コロナ禍によって働き方や生活が変わってきましたが、御社の事業にはコロナ禍による影響はあったのでしょうか?

 

大井:コロナ禍は、事業にも働き方にも大きな影響がありました。弊社は上田市の本社以外に八ヶ岳営業所、関東営業所、山梨営業所などの営業所があります。これまでは、各営業所をスタッフが訪れたり、2ヵ月に1回、全社会議で従業員全員が本社に集まったりしていたのですが、コロナ禍でそれができなくなりました。そのため、打ち合わせなどはオンラインで行うようになりましたが、顔と顔を合わせることの大切さをあらためて実感しましたね。

 

――お客様との打ち合わせも、やはりオンラインで行っているのでしょうか。

 

大井:はい。弊社から現地の写真や動画を送って確認していただくようになり、現地を訪れずに契約されるお客様も増えました。

 

――それだけ御社がお客様に信頼されているということですね。

 

大井:家に対するお客様の意識が高まってきているのを感じています。コロナ禍になって弊社の事業は成長しており、新規の注文が受けられないほどの状況です。

特に多いのは、首都圏のお客様ですね。コロナ禍によって、多くの企業がテレワークを導入したことで、住む場所に対する考え方が変わった人も多いのでしょう。

 

――考え方がどのように変わったのでしょうか?

 

大井:テレワークが浸透し、インターネット環境さえあれば家でも仕事ができるようになりました。それなら、都会のマンションに住んで、満員電車のストレスに耐える必要もないということがわかったんですね。田舎には土があり、きれいな空気があり、豊かな自然があります。家で仕事をしつつ、畑を作る、薪を割る、川で釣りを楽しむ、山に登るといった暮らしを実現したい人が増えてきているのです。そういった方々が、私たちが造る自然素材の家を求められているのだと思います。私たちは「家づくり」をしながらお客さまの理想の「暮らしづくり」をお手伝いしているのです。

 

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独自の厳しいチェック基準で「空気環境」にこだわった家づくりとは

 

――自然素材を使った家は、一般的な家と比べて空気環境が異なると思いますが、御社は空気環境対策についてどのような取り組みを行っているのでしょうか?

 

大井:私たちが創業以来取り組んできたのは、室内の空気環境問題です。具体的には、化学物質を使わない家づくりですね。実は一般的な家では、化学物質が多く含まれる材料が使用されているんですよ。

 

――どのような材料でしょうか?

 

大井:接着剤や塗料などがそうです。例えば、ベニヤ板は薄く切った板を接着剤で貼り合わせた合板が使われています。また、海外から輸入される木材は、薬剤を塗布して防虫・防カビ処理を施しています。こういった接着剤や薬剤、塗料などには、VOC(揮発性有機化合物)が多く含まれており、少しずつ室内の空気中に漏れ出てきているのです。空気中の化学物質が多くなると健康を害してしまい、いわゆるシックハウス症候群になってしまいます。

 

――家に使われている材料が室内の空気環境を悪化させているのですね。気づかずに住んでいる人も多いのではないでしょうか。

 

大井:もちろん、VOCの量には基準が設けられていますが、一般的な建物のVOCについては、国土交通省が定めたホルムアルデヒドの基準さえクリアしていれば認められるのです。

しかし、VOCはホルムアルデヒドだけでなく、主なものでも200種類以上の成分があるとされています。例えば、幼稚園を管轄している厚生労働省では13種類のVOC基準を定めており、この基準をクリアできなければ幼稚園を開園できません。

 

――幼稚園のほうが一般的な家よりもVOCの基準が厳しいのですね。

 

大井:私たちが造る家は、厚生労働省よりも厳しく、56種類の物質をチェックしています。どこでどのような工程を経ているのかがわかるようにトレーサビリティを導入し、化学物質が発生する処理をしていない材料だけを用いて家を造っているのです。

 

――御社が造られた家と都会のマンションでは、空気の感じ方が変わりそうですね。

 

大井:まったく違いますね。例えば、化学物質が含まれる洗剤で洗濯した服を着たり、化粧品を使ったりしている人が、弊社で造った家に入るとにおいでわかります。なので、弊社の社員は化粧品も洗剤も自然由来の物を使うようにしているんですよ。

 

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個人、組織、社会が幸せになるウェルビーイングを実現したい

 

――御社の考え方は、身体的にも精神的にも社会的にも幸福である状態、いわゆる「ウェルビーイング」の実現にもつながりそうですね。

 

大井:はい。私は「幸せ」には3種類あると思っています。個人としての幸せと組織の幸せ、そして社会の幸せです。個人としての幸せを重視する人は多いのですが、組織の幸せや社会の幸せについて考えられる人はまだまだ少ないと思います。弊社ではウェルビーイングについての勉強会を開催しており、さらにほかの企業でもウェルビーイングについて考えていただくために、講師を派遣する試みを行っています。

 

――社内外へ、積極的にウェルビーイングについて働きかけられているのですね。これまでに、どのような反響があったのでしょうか?

 

大井:こうした取り組みはまだ始めたばかりなので、反響としてはまだ多くないのですが、勉強会を通して少しずつ意識が変わってきたという報告を受けています。どの企業も、ウェルビーイングに取り組みたいという気持ちは持っているのでしょう。社会の問題解決のために、今後も私たちから取り組みを提案していきたいと思います。

 

 

環境問題を事業化することで、取り組みの継続を図る

 

――取り組みを提案していきたいということですが、環境問題やウェルビーイングについてどのような取り組みを行っていくのか、今後の展望を教えてください。

 

植松:私の所属する環境事業チームでは、1年程前から竹林整備に取り組んでいます。背景にあるのは、放置された竹林が周囲の自然環境に悪影響を及ぼす竹害です。この竹害が全国的に問題になっていることから、私たちは竹林整備の活動を始めました。

 

――具体的にどのような活動を行っているのでしょうか?

 

植松:竹林整備のイベントです。普通の木は重くて硬いので女性やお子さんは切ったり運んだりすることが難しいのですが、竹は軽くて切りやすいので誰でも気軽に参加いただけるんですよ。

イベントでは、最終的に竹を竹炭にして希望者に配布しています。こうしたイベントを通して、多くの方に環境問題にふれていただきたいですね。

 

大井:今後は、竹に関するビジネスを展開していくつもりです。すでに、竹薪を障害者の方に作っていただく事業も始めています。キャンプブームもあって竹薪のニーズは多く、竹薪が足りない状況です。また、竹でペレットを作り、猫のトイレやストーブの燃料などに活用しています。

これらをビジネスとして行っているのは、自己満足で終わらせないという理由です。環境活動は少しだけやって終わりではありません。継続するためには、事業として成立させなければいけないですからね。

 

――御社の事業や活動が広がっていけば、世の中はより良くなっていきますね。

 

大井:はい。現在も、私たちの活動に共感いただいたつながりが、どんどん広がっているのを感じています。だからこそ、私たちは家づくりについても特許を取得していません。私たちの家づくりや環境活動を真似してくれる人が増えてほしいからです。みんなでつながって、知恵を出し合っていくことで環境の課題を解決していきたいと考えています。

私たちにとって、サーキュラーエコノミーやSDGsは手段のひとつであって、決して目標ではありません。これからも弊社は、目の前の課題に一つひとつ真摯に取り組んでいくことで、みんなでウェルビーイングの実現を目指していきたいと思っています。

 

 

<プロフィール>

大井明弘

株式会社アトリエデフ 代表取締役社長

家づくりを通じて、日本の山と地球環境の大切さを伝える活動に取り組んでいる。特定非営利活動法人エコラ倶楽部の理事長、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパンの理事も務める。

 

植松和恵

株式会社アトリエデフ 社長室 室長兼環境事業チーム チームリーダー

建築学を学んだ後、建築・農業など幅広い分野の仕事に関わる。現在は4児の母でもあり、「みらいの子どもたちのために」という思いのもと、環境事業チームで竹林問題を中心に環境活動に携わっている。

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