ウェルビーイングセミナーレポート・前編~睡眠改善で健康経営を実現する方法とは~

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今回は、2024年1月に開催されたウェルビーイングセミナー「睡眠に注目!労働生産性を劇的に上げる睡眠データ活用最前線」 のイベントレポート・前編をお届けします。このウェビナーは、「顔の見えるライフスタイル」の実現を目指す株式会社UPDATERと睡眠改善で未病ケア社会を目指すNTT PARAVITA株式会社が共同で開催したものです。ゲストには、健康経営のためのパルスサーベイを提供する「フェアワーク」の吉田先生をお迎えし、サービスやデータの活用を通して従業員の労働生産性・モチベーションを向上させ、ウェルビーイング経営を成功に導くヒントをお伺いしました。 ※記事公開にあたりウェビナーの内容を一部抜粋・要約しています。

登壇者プロフィール

 

■猪原祥博氏(NTT PARAVITA株式会社 マーケティング部長) NTT西日本の新規事業の創出組織に所属し、複数領域で戦略的子会社を3社連続して立ち上げた社内起業家。社内ベンチャーを推進する「スイミーズ」を立ち上げ、社内起業家の輩出もライフワークにしている。2022年12月17日に著書「会社員3.0」を発売。現在、メンタルヘルスや生産性等の健康経営における企業の課題を支援する、睡眠改善サービス 「ねむりの応援団 」を推進中。

■吉田健一氏(株式会社フェアワーク 代表取締役会長/産業医) 産業医としての豊富な現場経験を活かし、株式会社フェアワークを設立。社員の健康リスクを高頻度に把握し対応するためのサービスとしてフェアワークサーベイを開発し、企業の健康経営と人的資本投資を支援している。経済産業省後援の第6回HRテクノロジー対象において注目スタートアップ賞を受賞。2023年 オンライン社内診療所「 フェアクリニックオンライン」をプロデュース。

■大石英司(株式会社UPDATER 代表取締役) みんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)を設立。世界初の電力トレーサビリティを活用した「顔の見える再エネ100%電力」にて、ジャパンSDGsアワード内閣総理大臣賞受賞。現在はソーシャルアップデートカンパニーとして「顔の見えるライフスタイル」の実現に取り組み、TBSラジオ「サステバ」(サステナブルなニュースや話題を考える場)番組パーソナリティもしている。

ウェルビーイングをさまざまな角度から支援する企業のクロストークが実現!

(司会者)ーーーまずは皆様の事業について簡単に紹介をお願いします。

猪原:私どもNTT PARAVITAでは、従業員の睡眠改善で企業の健康経営をサポートする『ねむりの応援団』というサービスをやっております。睡眠の状態が悪い方に対してオンライン上でパーソナルトレーナーを配属し、センサー計測などを行って睡眠改善を行います。 睡眠は健康や労働生産性に大きく影響します。従業員の睡眠を整えることでウェルビーイングの向上にも寄与し、導入いただいた企業様にも、改善効果を実感したと非常にご好評をいただいております。

吉田:株式会社フェアワークと申します。法定のストレスチェックを請け負うほか、日本全国の社内診療所のオンライン化を提案しています。例えば、ストレスチェックで高ストレスと診断された人に対して、わざわざ外来での対面診察に行かなくても、処方を含む改善策が提案できるものであればオンラインで完結できるのが一番ですよね。このようなサービスをBtoBで展開しています。

大石:弊社UPDATERでは、さまざまなものの「顔の見える化」に取り組んでいます。そのひとつ、ウェルビーイング事業として労働環境の見える化を目指しているのがみんなエアーのサービスです。環境センサーなどを用いて働いている空間の改善を行い、従業員の健康やモチベーション、生産性の向上を促すことで、働く人々・企業・社会のウェルビーイングへとつなげていきます。

 

日本人は世界一眠れていない?睡眠不足と経済損失の関係

 

大石:今回はファシリテーターとして、進行を務めさせていただきます。 まず猪原さん、ある調査で日本が大きな睡眠負債を抱えていて、経済損失がとんでもないことになっているというのを聞きました。日本の睡眠の状況がどうなっているのか、簡単に解説いただけますか?

猪原:はい、わかりました。 これはアメリカのシンクタンクであるランド研究所が2016年に出した調査結果ですね。日本人の睡眠不足が及ぼす経済損失は1,380億ドル、今の為替でいくと約20兆円です 。

大石:20兆!

 

 

猪原:アメリカは4,111億ドルなので数値としては大きいですが、GDPの比率では日本のほうが高いんです。 また、日本人はOECD加盟国の中で最も眠れていないといわれています。さらにですね、睡眠の平均値ではありますが、特に日本の女性の睡眠時間は短い。世界で最も寝ていないといっても過言ではないと思います。

 

 

大石:本当ですか!日本人は世界一寝ていないということですね。

 

 

猪原:これは横軸が各国一人あたりのGDP、つまり生産性を表していて、縦軸が睡眠時間です。日本の睡眠時間が非常に短いことがわかりますよね。 他の国を見ていただくと、睡眠時間が増えるごとに一人あたりの生産性が高まっているように読み取れ、やはり相関性があるんじゃないかと。

大石:なるほど。

猪原:この図で照らし合わせると、日本人が7時間ぐらい寝れば、生産性も世界一になるんじゃないかということが示唆されています。まだまだ日本の生産性を高めていける余地が十分にあるということです。 生産性という点では、例えば集中力を高めるとか、時間内に何か物事を終わらせられるなど指標はいろいろあるのですが、労働生産性以外にも睡眠不足は病気の発症リスクを高めるということがさまざまな研究でわかってきています。生産性の向上とともに健康の基本としても、適切な睡眠が必要だと思います。

 

 

経営者も実感!ビジネスにおける睡眠の重要性

 

大石:吉田先生は産業医としても現場でいろんな方の健康相談にのってこられていると思うんですが、眠りに対しての課題や心身の悩みをお持ちの方は、多くいらっしゃいますか?ここ数年など、長期的に見てどのような傾向があるのでしょうか。

吉田:メンタル不調の方は残念ながら増加傾向にあります。さらに、一貫してよく言われることは、メンタル不調に対して睡眠障害は必発としているということです。睡眠不足に限らず、過眠、早朝覚醒、中途覚醒などいろいろな睡眠障害を伴っています。「よく眠れています!」というメンタル不調の方はまずいないですね。

大石:今日参加されている皆さまのなかにも、自分自身が眠りに対しての課題を抱えているという方が多くいらっしゃると思うんですが、実は私もうまく眠れていないなと思うことがたくさんあったんです。そこで実際に、NTT PARAVITAさんのサービス「ねむりの応援団」を受けてみました。マットレスの下に敷くだけで睡眠データを計測できるんですよね。

猪原:はい、コンセントを入れたら勝手に睡眠データを取得するので、装着や充電は必要ありません。

 

 

大石:データで見てみると中途覚醒していることが多く、やっぱり意外と眠れていないんだな、起きているんだなと明確にわかって。初回の睡眠点数はなんと44点でした。計測期間中にもカウンセリングを受け、いろいろ教えていただきながら入浴方法や運動面で工夫をしてみたところ、生活習慣が整ってくるのか、日々の覚醒している時間帯がほぼ同じになるんですよ。寝るタイミングというのが見える化されてきて、就寝時間がそろってきたんですよね。最終的に90点まで改善しました!

猪原:実は、睡眠改善において一番重要なのは朝なんです。目の上あたりにある視交叉上核という器官が朝の光を認識し、体内時計がリセットされます。そこから14~16時間後に眠くなるよう体がつくられているので、規則的に朝の光を浴びると眠るタイミングがいずれ合ってくる。その眠くなるタイミングで寝つきやすいようにお風呂に入ったりリラックスしたりが大事ということです。

吉田:自分の行動を見える化することって大事なことですよね。大石社長ご自身が、自分の睡眠に目を向けて改善し、なおかつそれがご自身のウェルビーイングにつながったことで、おそらく社員さんにも適切な指導ができるようになってきたんじゃないでしょうか。企業にとってもすごく大きな改善なんじゃないかと思います。

大石:日本人は睡眠時間が短いということですが、仮に寝ていない状態が続いていくと仕事のパフォーマンスにはどのような影響が出てくるのでしょうか?

吉田:睡眠不足はいわゆるプレゼンティズムの大きな原因だと思いますね。皆さんも「昨日よく眠れなかったな」っていう状態で会社に来て、一日調子良く仕事が進んだという経験はまずないと思います。この睡眠プログラムは、データに基づいて1ヶ月を振り返っていったときに、「良く眠れた日=仕事のパフォーマンスも良かった」と自身が実感して、考える習慣がついてくるということがすごく良いんですよね。

大石:徹夜の次の日とか、ちょっとフラフラしたりしますよね。そういうのってパフォーマンスに影響するという何かデータとして出てくるものですか?

猪原:はい、睡眠改善に伴うプレゼンティズムの変化はデータに現れます。睡眠不足は脳の機能を低下させ、イライラや集中力欠如の原因にもなりますから、効果的な睡眠で脳を回復することは非常に重要です。さらに、仕事のパフォーマンスという意味では、創造性をもってチャレンジしていくことや変革していくという時には脳が疲れていては太刀打ちできません。創造性のない仕事というのは、今後はどんどんAIがやっていくでしょうから、人間である私たちは脳の機能がちゃんと働ける状態で働くというのが、非常に大切であると思います。

 

 

ウェルビーイングや健康経営の実現に睡眠改善が有効な理由

 

大石:UPDATERではさまざまな企業様や社会に向けて、脱炭素やウェルビーイング、エシカル調達などのSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)のご提案をしているのですが、最近特に話題に上るのが従業員の満足度向上や、健康改善のプログラムについてです。企業は、投資家や金融の立場の方からそういった具体的な施策として何に取り組んでいるのかを聞かれることが多いそうです。ESGの観点からも企業を判断する一つの軸としてウェルビーイングや健康経営に関心が高まっていると実感しますし、よく相談されます。

猪原:弊社でもお客様からは、「健康経営の施策にかかる予算やコストに対して、経営層から明確な効果を求められることが増えた」とよく聞きますね。健康に対する施策というのは、まさに人的資本にあたると思いますが、例えば100万円使ったならいくらになって返ってきたのかと。短期間で定量的に求められるようになったという声が多いなと感じています。

大石:吉田先生は、従業員のウェルビーイングや労働生産性の向上などについて、企業の担当者の方から相談されるケースも多いのではと思いますがどのようなアドバイスをされていますか?

吉田:分かりやすいところで言うと、福利厚生に関する既存の予算を見直して「健康」という視点に振り向けていくと、ウェルビーイングや従業員満足度の向上につながると考えています。 福利厚生として、これまでも健康促進の施策はいろいろあると思いますが、例えば利用者が一部の人になりがちなフィットネスクラブなどと違って、睡眠は誰にとっても必要で人生の3~4分の1くらいは睡眠が占めていますから。睡眠不足は万病のもとで、さらにプレゼンティズムにも影響するのですから企業としても人的投資になります。従業員の方にとっても、長く健康に働ける会社がいいですよね。そういう意味でも睡眠改善プログラムはおすすめですね。

大石:高齢化社会で社会保障費が高騰していくなか、睡眠改善プログラムが社会保障費を下げる取り組みにもなるっていうのも投資家への説明ネタとしてはいいなと思ったんですがどうですかね。

猪原:おっしゃるとおりです。社会保障費の増大が止まらずこのままでは破綻すると言われていますが、なかなか何も手が打たれていないという問題ですよね。病気の人を少なくしていくという営みは中長期的に日本を救うことになるし、投資先として良いですよね。その流れで、健康な人が増えれば当然のように医療介護が減ってくる。今、医療介護費の分野がどんどん増えていっていることに対して、その対処策を企業が投資することによって行えるということが、まさにESGの観点で素晴らしいと思います。

大石:社会保障費を下げる取り組みをしている企業に、また投資が集まるような循環ができるとすごくいいですよね。

吉田:私も全く同感です。以前日経ニュースにも出ていましたが、日本はOECDから定年制を廃止するよう勧告を受けています。今も65歳まで働ける会社が多いですが、今後は年齢差別が撤廃され、60代のうちは働きましょうという社会になることが予想されます。しかし、男性の場合は50代半ばくらいから生活習慣病がどんどん増えてくるんですよ。 私がこれまで産業医として診てきた会社でも、社員の方々がしっかり睡眠が取れていれば病気のリスクが減り、医療費も少ないです。なおかつ長く働いて活躍してくれますので、社会保障費もみんなで納められるという、良い循環がぐるぐる回っていく。これも究極のESGだと思います。

大石:意外と経営者の皆さんも福利厚生をやらなきゃいけないという課題意識はあるけど、そこと「睡眠」が結びついてない方は多いように感じます。睡眠をとることはコストではなく、結果的に投資だったり、持続的な成長だったりということでいうとプロフィットじゃないかなと。

吉田:あともう一つ。実は、日本人の労働時間は順調に削減されて改善してきているんです!でも、働く時間は減っているのに、睡眠時間はさらにどんどん短くなっているんです。これはものすごく大きな問題だと思っていまして、生活習慣や睡眠の見直しに加え、家事労働などをどのように改善していくかが今後のテーマとなってくるんじゃないでしょうか。

大石:面白いですね、日本人って睡眠に対する意識が低いんですかね。

吉田:日本人は元来勤勉なうえ、寝る時間を削ってでも働くことを美徳としていた期間が長くありましたしね。

大石:まさに現役世代ですね。でも今の時代は「24時間戦えますか!」という会社と「社員の皆さんがよく眠れるように改善プログラムをいろいろ導入していますよ」って会社があったら、後者のほうがいいですよね。人材確保が難しいとどこの業界の人たちも言っていますけど、睡眠改善の施策で抜本的に社員を幸せにしようっていうふうに取り組んでいる企業はまだまだ少ないんじゃないでしょうか。

猪原:そうですね、やはりその効果をもっと体感してもらいたいです。数年前ですが、ハーバード・ビジネス・レビューのなかに「リーダーの睡眠は組織の業績を左右する」という論文が載ったんですよ。睡眠不足のリーダーは、部下に対して辛辣なコメントをしたり、イライラして部下を信用できなくなったりするということに加えて、リーダーが睡眠を蔑ろにしていると部下の平均睡眠時間は20分減るというデータなども。ただ、実は日本では役員クラスはしっかり眠れているケースが多く、中間管理職あたりが、上下からのプレッシャーもあってか睡眠の質が悪いことは往々にしてあります。立場によって差があるということですから、部下の人たちに睡眠の問題があることに気付きにくいですよね。調べてみると会社の4割くらいは不眠症で受診を勧めるレベルだったりします。

大石:上司が朝早く来て夜遅くまでいると自分も帰れない、みたいなのもありますよね。   今日ご参加の皆さんも、特に経営層、中間管理層の人に知ってほしいところですね。 良い睡眠に注力することで従業員の満足度や生産性が上がり、長く健康的に働いてくれることで結果的に社会保障費を下げることにつながる。健康経営やウェルビーイングに取り組む企業としての株価や企業価値、社会的評価も上がっていくというポジティブサイクルができるんだと理解してほしいですよね。ぜひ、取り組んでみてほしいです!

 

(~後編へ続く) 後編では、具体的な睡眠改善の方法について紹介します。ぜひ参考にしてください。

ウェルビーイングセミナーレポート・後編~理想の睡眠時間や睡眠改善の方法とは~

 

株式会社UPDATERではパートナー企業とともに、ウェルビーイングの向上や健康経営の実現に努める企業様をサポートしています。「何から始めたらいいかわからない」「効果測定が難しい」などの課題に適切にお応えします。ぜひお問い合わせください。

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