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株式会社タニタヘルスリンクは、「日本をもっと健康に!」をスローガンに掲げ、アカデミアと連携しながら科学的根拠に基づいたヘルスケアサービスの提供を行っており、健康トータルコーディネーターとして、主に企業や自治体における社員や住民の健康づくりの取り組みをサポートしている会社です。「タニタ健康プログラム」の導入から健康経営を始める企業や健康経営優良法人認定取得を考える企業からも多くの相談が寄せられ、さまざまな実践サポートを展開しています。
タニタグループのノウハウを結集した「タニタ健康プログラム」は、2009年よりタニタグループの社員向けに実施してきた健康経営の取り組みで、社員の医療費が削減できたことに注目し、企業や自治体の皆さまに向けて社員や住民の健康づくりを目的に2014年より本格スタートしたヘルスケアサービスです。
タニタヘルスリンクではこのプログラムを使った健康経営を推進しており、「健康経営優良法人2024」(中小規模法人部門)および、「ブライト500」の認定を取得。健康経営優良法人としては、大規模法人部門・中小規模法人部門の2部門を通じて2019年から6年連続で選ばれています。その他、「健康優良企業 金の認定」や「スポーツエールカンパニー」「東京都スポーツ推進企業」などの認定を受けており、多方面から評価されています。
今回は、健康経営の最前線を走る株式会社タニタヘルスリンクの健康経営の具体的な取り組みからその成果まで、保健師の島田さん、広報ご担当の山本さんに話を伺いました。
‟見える化”からの行動変容まで 『タニタ健康プログラム』のPDCA
ーーー健康経営の実践を支える「タニタ健康プログラム」について教えてください。
山本:「①はかる→②わかる→③きづく→④かわる」という健康づくりのPDCAサイクルを実践していくもので、具体的には健康計測機器を使って体組成や血圧、歩数などを計測して、今の自分の状態を‟見える化”することから健康づくりが始まるイメージです。
まず、①計測をして、②自分の身体や日々の運動の状態が認識するところからスタートします。次に、どういったことをすれば良いのか。 そこで、③健康コラムやセミナー、ヘルシーレシピなどのコンテンツを使って、生活習慣の改善点に気付いてもらい、④ウオーキングラリーやデジタルバッジなどの楽しみながら続けられるようなコンテンツを通じて、生活習慣の改善を促していきます。
それらをパッケージ化したサービスが「タニタ健康プログラム」でして、「楽しく簡単に続けられる健康づくり」をコンセプトに、現在、約30万人の方々にご利用いただいています。
ーーー「タニタ健康プログラム」が生まれた背景を教えてください。
山本:タニタグループの健康づくりのノウハウを結集した「タニタ健康プログラム」は、2009年よりタニタグループの社員向けに実施してきた健康づくりの取り組みが起点となって生まれたもので、我々の健康経営の集大成とも言えるサービスです。
2008年に特定健診が始まって、メタボリックシンドロームが企業経営において新たなリスクになるという認識をしました。 グループの中核会社であるタニタをはじめとし、グループ全体で社員の健康状態の”見える化”をしよう、継続的に健康づくりに取り組む環境を整えよう、ということで、2009年の1月から社員向けに健康プロジェクトを立ち上げたのが始まりです。
このプロジェクトを通して、社員の医療費が削減できたことに注目し、企業や自治体の皆さまに向けて、社員や住民の健康づくりを目的に、2014年にヘルスケアサービス『タニタ健康プログラム』の本格展開を開始しました。
ーーー「タニタ健康プログラム」を使って御社ではどのように健康経営に取り組んでいますか。
山本:まず、健康計測機器で身体や運動の状態を‟見える化”することから始めています。例えば、歩数や消費カロリーが計測できる「活動量計」を社員証として、オフィスセキュリティやOA機器などさまざまなネットワークに接続できるようにしています。活動量計の中には非接触のICチップが入っていて、カードリーダーに近づけると、個人認証によりセキュリティが解除されたり、コピー機やOA機器が使えたりするシステムです。社員証とセキュリティ、OA機器の一体化した運用をすることによって、常に活動量計を持ち歩いていないと仕事ができないといった環境を作ることで、歩数を常に計測する習慣が身につきます。
社内みんなで実践! ヘルスリテラシ―向上と生活習慣改善
ーーー歩数向上の取り組みは、具体的にどのようなものがありますか。
山本:自然と歩きたくなる取り組みは多数あるのですが、社内で人気が高いのは「ウオーキングラリー」です。歩数ランキングやチーム対抗があり、社員同士で歩数競争をするんですよ!
サイト・アプリ上にて参加者同士が歩数を競いながら、国内外の名所・旧跡などを舞台に、期間内でのゴールを目指すコンテンツで、コースは約30種類もあるバーチャルウオーキングラリーなんですが、社員同士で歩数を競い、上位入賞者は表彰されたり、プレゼントが贈られたりといった取り組みです。
山本:社員同士で歩数を競争することによって、楽しみながら自然とコミュニケーションも活性化、競争という点では「あの人に負けたくない!」なんて目標も出来たりして…(笑)自ら意志を持って、継続的に歩くようになっていたり、気がついたら毎日の歩数が伸びていたり、ゲーム感覚で楽しく歩く習慣がついちゃうという取り組みになっています。
あとは「健康ポイント」も人気です!歩数目標や体組成計の計測回数、健康管理サイトのログイン回数など設定した目標をクリアすると自動で参加者にポイントが付与。付与されたポイントは、例えばデジタルギフトや電子マネーなどに交換することができるんです。「楽しく・お得に・無理せず」インセンティブで、参加者の行動変容を促してくれるのが「健康ポイント」というわけです。
山本:また、毎日午後1時と夕方終業前の1日2回、在宅勤務者も参加できるようにオンラインも交えて職場体操を実施しています。パソコンに向かってずっと座って仕事をしていると、肩凝りや腰痛なども起きてしまいがちですので、エクササイズやストレッチによって、体の疲れや痛みをとり、リラックス、気分転換をしてもらうのが目的です。また、全社員が同時に参加することによって、職場の一体感が生まれているようにも感じます。
ーーー社内での取り組みの結果、数値など具体的に変化してきたことはありますか。
山本:社内で取り組み始めた健康プロジェクトの結果、タニタでは実施前(2008年度)と実施後(2010年度)を比較すると、約9%の医療費削減効果が見られたんです。
また、全体として、最優先課題であったメタボリックシンドロームの解消を目指すにあたって、適正体重者が有意に増加し、そこにも一定の健康効果が認められたと感じています。
このように、仮説・検証を繰り返しながら自社内で取り組んで、成果をしっかりと次に生かしていく。
効果が数値などに明確に現れたからこそ、企業や自治体の皆さまに向けたサービスパッケージにした「タニタ健康プログラム」をリリースすることができたという経緯です。
島田:データとしては、プレゼンティーズムも下がっているなと、効果を実感しています。
弊社の「プレゼンティーズム」の主な原因は、VDT(Visual Display Terminals)作業による、肩こり・腰痛、眼精疲労と分かっていて、そこで、先程の1日2回のストレッチで改善に取り組んでいるんです。この結果、毎年実施している「プレゼンティーズム」に関するアンケート調査結果は改善傾向にあります。
タニタヘルスリンクの健康経営と具体的な取り組み
ーーーあらためて、御社の健康経営方針や施策などを詳しくお伺いさせてください。
島田:私たちタニタヘルスリンクでは、2009年より健康経営に取り組んでおり、毎年新たな施策を追加しながら、先述の健康づくりのPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを実践できる環境を整備してきました。
健康経営推進にあたっては、社長が「健康管理最高責任者(Chief Health Officer)」となり、健康宣言を定め、さまざまな健康づくりに関する取り組みを進めています。
組織として「健康経営」に取り組むんだということを全社員に伝えるために、しっかり旗を振っているので、社員の意識向上になっています。また、健康宣言の2番目には、「従業員は自社サービスの一番のファンであること」とうたっているんです。何よりも私たち自らがファンであり、楽しみながらより良いサービスを創造し続け、自らの健康をつくることで、提供するサービスの価値を向上させましょう!と。そこが私たちの強みであり、健康経営で実践していることです。
山本:より具体的というところでは、健康経営の一環として社員の「ウェルビーイング」を目指し、身体の健康だけでなく、こころの健康づくりや働きがい、自己実現などもテーマに取り組んでいます。
社員のウェルビーイングには、「からだ」「こころ」「はたらきがい」「しゃかい」の4つの軸を据え、どれもが重なり合うことで真の健康経営に近づくと考え、多角的にサポートしています。
例えば「からだの健康づくり」では、AIを活用した生活習慣改善サポートシステム「ミライフ」と「健康シフトプラン」を全社員に実施しています。「ミライフ」では、健康診断や生活習慣のデータを入力すると、AIが自動的に将来の健康リスクまでを提示して、一人ひとりの健康づくりや生活習慣の改善提案をしてくれます。 それに基づき、「健康シフトプラン」というコンテンツを使って、自身の生活習慣を変えていく取り組みを続けていく。これによって、生活習慣の自発的な改善と自己管理の継続ができるようになるというのが一連の流れです。このサービスコンテンツは、社外にも提供していて好評です。
他にも「禁煙対策」として、禁煙セミナーの実施や禁煙外来治療費の補助をしています。
また、人生100年時代を見据えて、高年齢者の健康増進を図りながら働きやすい環境を整えるため、高年齢就労者向けの健康課題に対するセミナーを開催したほか、体力測定や体組成のデータに基づき個別運動メニューの提供や健康相談の実施など、高年齢就労者の健康の維持・増進にも取り組んできました。
「こころの健康づくり」では、コミュニケーションの活性化ですね。前述の「ウオーキングラリー」では、組織横断のチーム同士で歩数競争することで、普段話す機会の少ない他部署の社員同士の距離が縮まったり、社内SNSを使って、ウオーキングの途中で見つけた風景や体験、食事写真などをコメントと一緒に投稿することで、コミュニケーションが生まれたりします。これらによって、健康づくりと絆づくりが同時に実現できていると感じています。このほか、マインドフルネスや睡眠などをテーマにした健康セミナーを実施したり、メンタルヘルス対策では一次予防に力を入れ、ストレスチェックの実施範囲を広げパート社員を含む全社員に行ったりすることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことに取り組んでいます。長時間労働対策についてもしっかり基準を設けており、それを徹底することが重要だと考えています。
「はたらきがいづくり」では、働きやすい職場づくり、多様な働き方促進に力を入れています。例えば、女性の活躍促進プロジェクトを立ち上げ、女性特有の健康課題に対する取り組みを推進するだけでなく、柔軟で多様な働き方にも取り組んでいるところです。
山本:就業規則を改定し、フレックスタイム制や時間有給制を導入するだけでなく、子どもの送迎、近親者の通院やその世話などに対応するため、時差出勤や業務時間内に一時的に仕事から離れたりできるようにする一時外出の制度を導入するなど、やはり今の時代には必要不可欠ではないでしょうか。
持続的な健康づくりに大切なこととは?
ーーー健康経営優良法人認定「ブライト500」に選ばれるという意味合いについてはいかがでしょうか。
島田:まず、最初に健康経営優良法人認定を受けたのは、2019年になりますね。
そこから毎年連続で認定取得していますが、健康経営優良法人認定以外にも「健康優良企業 金の認定」や「スポーツエールカンパニー」、「東京都スポーツ推進企業」など、各方面からも認定・評価をいただいています。
私どもにとって、‟企業の健康経営を支える”というのがサービスの柱であり、使命ですから、私たち自身が健康経営に率先して取り組む会社でなければという想いはあります。自社で取り組み効果を確認しながら、世の中に発信していくためにも、持続的に認定などに挑戦していくことは必要だと考えています。
それから、健康経営優良法人調査票は、すごく良くできているんですよね。調査票にのっとると、PDCAがちゃんと回るようにできていて、より確かな健康経営を実現していけると私は思っています。昨年からは、中小企業にもフィードバックシートが届くようになったので、しっかり参考にさせてもらっています。実際に、足りていないというところがあった場合も、自社にとって本当に必要なのか?を全部洗い出した上で、直接社長(CHO)と話し合いをしています。そこで、どの施策をやっていくのかということを決めていますね。
ーーー健康経営を進めていく上で、ハードルになるようなことは何かありましたか。
島田:やはり、継続させるモチベーションですね。健康無関心層も含めて取り組むわけですので、いかに楽しく続けられて簡単にできるか、どうすれば健康づくりが定着できるかといったところが鍵になると思います。
先ほどご紹介した、活動量計を社員証にして持たざるを得ないという環境を作ったり、歩数競争を通して社員同士のコミュニケーションに繋げたり。気がついたら日々の健康習慣が自然と身に付いて、定着している状態を目指して仕掛け作りをしています。
ーーー在宅勤務の社員には、どのようなサポートをしていらっしゃいますか。
島田:在宅勤務者に限らずですが、社員の自宅には通信機能を備えた家庭用の体組成計と血圧計を各1台ずつ配って、家でも取り組めるようにしています。家庭でもオフィスでも、生活動線の中に「はかる」機会を増やして習慣化させることで、社員の健康づくりをサポートしていきたいと思っています。
タニタヘルスリンクの『健康経営』が目指すところとは
ーーー健康経営はまだまだコストと考えられがちですが、どのように考えてらっしゃいますか?
島田:やはりこれからは、「人的資本経営」というのがキーワードではないでしょうか。
社員の心身の健康状態だけではなくて、企業としては健康のその先までを見据えると、生産性の向上やワークエンゲージメントなどにつながってくるのですから、コストと考えるか、投資なのか。社員が定着して生産性高く働いてくれることによって、企業の将来的な価値向上につながります。それは、上場企業でいえば売上向上だけではなく、株価の上昇や投資家からの高い評価などですね。健康経営とは、企業を成長させていくためには、今後なくてはならない要素であると考えています。
ーーーぜひ、御社の今後の展望について、お聞かせください。
山本:「健康」は、人生をより豊かに前向きに変えてくれます。このため、今後もタニタヘルスリンクでは、健康経営に注力するとともに、その過程で得られたノウハウをサービスに生かし、より多くの企業や団体の健康経営をサポートして働く人々の健康づくりに貢献していきたいと考えています。
<プロフィール>
株式会社タニタヘルスリンク
設立 2007年3月1日
所在地 東京都港区三田3-13-16 三田43MTビル7階
代表者 代表取締役社長 土志田 敬祐
事業内容 「簡単・楽しい・続けたい」をコンセプトとした「タニタ健康プログラム」をはじめとした様々なヘルスケアサービスを提供
URL https://www.tanita-thl.co.jp/
◇インタビューにご協力いただいた島田さん オフィス入口にはサイネージを設置し、歩数ランキングをリアルタイムで表示している
保健師、健康経営エキスパートアドバイザー、健康運動指導士、サルコペニア・フレイル指導士 島田 保子