昭和30年に東京都江東区で創業し、運送業・倉庫業を営んでいるサイショウ・エクスプレス株式会社。従業員が健康で、豊かに、しあわせに、笑顔で働ける環境であることと、その家族が安心できる企業であり続けるために、健康経営を推進しています。その取り組みが評価され、2021年から4年連続で「健康経営優良法人・ブライト500(中小規模法人部門)*」に認定されています。
今回は、積極的に活動を行っているサイショウ・エクスプレス株式会社の健康経営やウェルビーイングへの取り組みについて、代表取締役の齋藤さんにお話を伺いました。
*「ブライト500」とは、健康経営優良法人の中から「最も優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。
「きれい・健康・かっこいい」の新3Kを掲げ、従業員と共に企業価値を高める
ーーー サイショウ・エクスプレス株式会社の事業内容についてお聞かせください。
齋藤:今年で設立69年目を迎える一般貨物輸送事業者です。現在は車30台、従業員34名体制で、イベントや建築関係の荷物を関東圏中心に配送しています。わたしは祖父からの3代目で、創業時は江東区千田を拠点に、建築資材などの木材運搬をしていました。時を経て、新木場のベイサイドエリアに移ってきて、高度成長期と共に発展し、お客様の信頼を得て今に至ります。
ドライバーのなかには親子2世代で働いてくれている従業員もいます。この業界、どうしても過酷なイメージがあると思いますが、やはり従業員やその家族にも安心してもらえる企業を目指したいと思うんですよね。だから、サイショウ・エクスプレスの新3Kとして「きれい・健康・かっこいい」を掲げて、事業推進しています。
ーーー 新3Kにも「健康」が入っていますね。 「健康経営」を始められたきっかけはありますか。
齋藤:きっかけは2つありました。2016年のことになりますが、わたしの母と義母が立て続けに亡くなったことと、従業員に大きな病気が見つかったんですよね。当時、そのほかにも健康起因によるツアーバスの事故などもニュースになっていましたし、細かなきっかけはいろいろと積み重なってはいたんですが…。
母が会社の経理とドライバーたちの健康管理をしていたので、自分がその責任を引き継ぐ立場になり、従業員の健康状態をこれまで以上に意識するようになりました。
当時は「健康経営」という言葉はなかったと思うんですが、「社員の健康をサポートする会社」をテーマにした新聞記事を読んだことから関心をもつようになって、大手企業のセミナーに参加し知見を深めました。とにかく、従業員の大きな病気はなくしたいという一心で、2017年の1月から健康プロジェクトをスタートしました。
ーーー 最初に始めた施策はどのようなことでしたか。
齋藤:まずは、すぐにできるような小さなことから自分でやっていきました。例えば、社内にある自動販売機の商品を糖質オフのものに変更したり、各商品のカロリー表示をしてみたり。あとは、血圧計の設置やウォーキング活動の実施など、なるべくコストのかからないものから始めました。
ただ、半年ぐらい経って、自分だけでやるには限界を感じてしまい…。そこで保険会社の担当の方に、健康管理士を紹介してもらいました。その方も「健康経営」の実践を重視されていたので、当時いろいろ教えてもらい、今では顧問を務めてもらっています。施策の検討も手当たり次第ではなく、医学的な視点からスタートしたほうが良いというアドバイスで、健康診断をベースにして考えていくようになりました。
また、従業員に対しては「健康講習会」も行ってきました。他業種に比べると、ドライバーに対して教育の時間を作るというのはなかなか難しいものですが、新型コロナウイルスの流行期にイベント規制の影響が大きく、我々の仕事も激減してしまっていたのでそのタイミングを利用し、従業員への教育機会を取り入れました。
志を共にする企業と学び合い、より実践的な健康経営に
ーーー 健康経営優良法人認定制度にチャレンジされた経緯を教えて下さい。
齋藤:健康経営施策を実施してきた目に見える成果として、認定制度で確認したかったというところがあります。経済産業省の健康経営優良法人については2019年から認定を受けたという経緯ですが、始めた当時はまず健康保険連合会の健康優良企業「銀の認定」を目指しました。これは、健康づくりに取り組む職場環境を整えることが条件で、「100%検診受診」をはじめとする6項目を満たせば認定を取得できるのですが、この認定を受けるのにも半年から1年ぐらいかかってしまいました。今もそうですが、さまざまな認定がありますが、いざ申請しようとすると課題は多くて…。
健康経営優良法人認定は2019年から取得していますが、そこからがスタートラインだと思っていて、チェック項目はとにかく地道に確認し続けていくということを今もなお続けています。特に「ブライト500」になると、申請項目が毎年新しくなるんですよね。目の健康や睡眠、花粉症なども幅広くケアしていかなきゃいけないので、年間計画を立てながら一つひとつ丁寧に確認しながら進めています。
今もちょうど、健康優良企業「金の認定」の手続きをしているんですが*、項目の一つである従業員の両立支援の課題があって。まだ社内の体制作りの段階でして、これから発信もしていかなくてはならないし、やることが多くて大変です。でも、それが従業員にはものすごく響いているようなんです。従業員が「会社が両立支援のことも考えてくれてるんだ」となんとなくでも感じてくれたら、私はもうそれだけでプラスだと思っています。
*2024年9月30日付で健康企業宣言東京推進協議会より「健康優良企業(金の認定)」に認定されました。
ーーー 健康優良法人約16,000社の中から上位500社に選ばれています! 「ブライト500」に向けて工夫された点はありますか。
齋藤:「ブライト500」の認定や健康経営のさらなる推進を目指して、会社の垣根を越えた活動にも取り組んでいます。セミナーなどのきっかけで繋がった異業種さんたちと『合同健康研究会』を行うようになり、2024年11月からは「建設・運輸 健康を考える会」を始めました。みなさん「健康経営」への意識が高く、各社のチェック項目に刺激を受けますし、取り組み事例も非常に参考になります。中小企業の取り組み事例はまだあまり多くはないですし、中には認定の取得だけで終わってしまって日々の営業活動では実践されていないという会社さんもあったりして、非常に歯がゆいというか…。
一昨年ですかね、厚生労働省(スマート・ライフ・プロジェクト)、スポーツ庁主催の『健康寿命伸ばそう!アワード』にも参加しまして、弊社は厚生労働大臣賞をいただきました。
その他には、中小の同業3社でチームを組んで「委員会」も行っています。産業医をシェアしたりするなど協力体制をとっていて毎月集まっています。そもそも、産業医自体は従業員数50名以上の事業者に義務付けられているものなので必須ではないのですが、すごく意味があるなと思っていて。例えば、江東区では地域産業医に健康診断の結果を見てもらう場合、無料なんですが予約に3ヶ月とか半年待つんですよ。産業医がついていれば従業員の検診結果もすぐにチェックしてもらえます。病気の早期発見につながるのはもちろんですが、我々は運送業なのでいつでも運転が伴っているわけです。万が一にも健康起因で事故が発生してしまうようなことはあってはならないことですから。会社を守るためにも、従業員の健康を守るためにも必要なことだと感じています。産業医とコミュニケーションをとることで知識も増えますし、検診結果に関するコメントをスピーディーに従業員に届けられれば、みんなの健康意識を高めるのにも良いのではないかと思っています。
「魂は細部に宿る」 健康経営の追究が人材確保の好機に
ーーー 健康経営を推進されているなかで、周囲の反応はいかがですか。
齋藤:スタートした当初は「ちょっと走り過ぎでは…」みたいな意見は社内でもありました。ただ、健康管理者による定期面やフィードバックを確認していると、みんなの目線が合ってきたように感じています。常々、先を見据えてやっていくのがわたしの仕事ですし、みんな分かってきてくれている。コンサルタントの先生を通じて幹部研修も行っていて、お互いを知る努力も出来てきている、それぞれの役割を確認し合うことも大切だなと感じています。
ただ残念なことに、外部からはたまに「ちょっと健康オタクだね」みたいなことを言って茶化されることもあります。我々が、何のためにやっているのか話をするんですが、まだ業界や会社規模によっては健康経営に目を向けられる企業というのは少数派かもしれません。でも、実際のところ採用にも良い影響が出てきていると思うんですよね。「ブライト500」を取得された他社さんにも採用状況どうですかって聞くと、応募がきているそうですが、やはりトラック協会全体では動きが少ないそうです。採用に多額を投じても、やっと1人というような状況とか…。
ーーー 健康経営をコストだという声もありますが、お考えを聞かせていただけますか。
齋藤:私も最初はコストだと思っていました。でも、こうやってやり続けていると投資だと感じるようになりますね。採用がひとつの契機だったかな、応募者の志望動機に目に見えて増えたんですよ、健康経営の取り組みに注目されているんだなと効果を実感しています。
ーーー 素晴らしいですね、どのような方から応募がきていますか。
齋藤:医療業界の方から応募がくるようになって。他には、塾の先生、ホテルマンなど、なんと9割は異業種からです。健康経営を進めてきたからこそ、会社の方向性に賛同できる人が集まってくることの強さを実感しますね。また、最近はリファラル採用も増えています。優秀な人材を確保できることは健康経営の施策メリットの一つでもあるので、着実に歩めているんだなと感じています。
従業員みんなでつくり上げる会社のビジョンと人事評価制度
ーーー 法改正により時間外労働の上限規制が定められましたが、どのような対策をとられていますか。
齋藤:いわゆる2024年問題ですよね。幣社ではその2年ほど前から、従業員と共にキャリアアップ制度のための人事評価を一から作ってきていました。2024年問題に対する悩みや意見もヒアリングしていたところ、収入が減ることや不安定になる心配が多くあげられたので、ドライバーを含めた全従業員の意見を取り入れながら人事評価制度を見直したんです。重要なのは、わたし個人の意見ではなく、みんなの意見でつくり上げたところです。「ドライバーさんに求める基準」として社内に掲示しています。
実は、15年ほど前の話ですが、大手企業が提供している評価ツールを導入してみたんです。でも、評価結果がしっくりこなくて、運用がうまくいきませんでした。そういった背景もあって、今回の法改正を従業員と向き合うチャンスだと思い、不安感の払拭や納得のいく評価制度の構築を目指して、賃金形態をすべて見直すことができたんです。
ーーー 業界としてもかなり先進的な取り組みではないでしょうか。
齋藤:この土台はやっぱり「健康経営」だったと、本当にそう思います。 変化にしっかりと目が向くようになっていたと感じますし、健康経営の取り組みがなければこんなことできなかったかもしれないと思います。
ーーー もっと働いて稼ぎたい、という声はあがりませんか。
齋藤:そうですね。これまで、ドライバーさんたちの給与体系が日給・月給制で、「出ないと稼げない」「残業しないと稼げない」というストレスもあったと思います。今は月給をある程度保証しつつ、評価で上乗せしていくという工夫をしています。
残業時間については一定のルールを私の方で提示し、順守してもらっています。意識化してもらえればボーナスが上がるような仕組みにして、管理者にもドライバーたちにも徹底してもらっています。
また、評価基準には1つ星から3つ星を設定していますが、今後はさらに上まで5つ星のドライバーがでてきてもいいなと思っています。レベルに応じて、年収600万円を超えているドライバーもいますから、さらに上を目指していくことも可能です。こういった制度も自分たちでつくり上げるのは大変な作業ですけど、企業価値の一つだと感じています。
これから目指す道は5つのK 「きれい・健康・かっこいい・貢献・稼げる」
ーーー 健康経営のほかにも、力を入れている取り組みはありますか。
齋藤:ホームページには新3K、「健康、綺麗、かっこいい」を掲げているんですが、事業として目指しているところは5Kなんです。従業員には伝えていますが、残り2つは「貢献と稼げる」です。
貢献というのは、例えばトラック協会の活動に街頭指導があります。基本的には、どこの会社も社長が出ているですが、弊社は従業員を2人連れて毎月街頭指導に参加しています。10月9日のトラックの日には、小学校で安全教室を開いたりするなど従業員と一緒に地域貢献することで、事故防止だけではなく双方の意識向上にもつながると思っています。
ーーー 社内のユニークな取り組みや福利厚生などはありますか。
齋藤:1つ目は「サンクスカード」です。毎月1回、社員同士で感謝の気持ちを伝えあう取り組みで、社員同士お互いの良い仕事をしていることを見て気づき、純粋に褒めることや感謝を伝えることでその質を高める目的で始めました。毎月集計していって、賞与のタイミングにはもらったカードの枚数に応じてインセンティブがもらえるんですが、それでも面倒になっちゃったりすることもあるじゃないですか。続けるコツはズバリ義務です!(笑)毎月ちゃんと出さないと評価に影響するよっていう仕組みに今はしていて、意識化をはかっています。
2つ目は『ライトミールの支給』ですね。毎朝、点呼のときに1人2つ選んで車に持っていってもらっています。朝が早いというのもあって、朝食を摂り損ねているドライバーさんも多くて。事故防止を目的に始めました。朝食を抜いた状態で昼食をがっつりとってしまうと、血糖値の急な上昇で運転中に眠気が出るリスクがありますから。
ーーー最後に、今後取り組んでいきたいテーマなどはありますか。
齋藤:やりたいことはいっぱいありますが、そうですね、今年の3月に「令和5年度東京都スポーツ推進企業」483社の中から上位10社の「スポーツ推薦モデル企業」に選ばれたんですよ!次年度も目指して、2年連続で選ばれたいですね。トラック運転席でもできるオリジナル体操をというのを作って、毎週ドライバーと一緒に取り組んできたことが評価されました。またみんなで意見交換しながら次の施策を考えていきたいと思っています。
その他にも、健康エキスパートアドバイザーなどの勉強をするなど、社内メンバーの資格取得も目指しています。健康経営アドバイザーは4人いますが、健康意識を高めて、もっと人数も増やしていきたいですね。
会社として今後やっていきたいことについては、妻と話す機会が多いんですが、代々続いている運送業という軸は絶対にぶらさないでいきたいです。ひょっとしたら、2人の母が亡くなっていなければ健康経営にここまで取り組んでいなかったかもしれません。家族の闘病生活を支えるのってとても大変で、もし従業員が当事者になってしまったら、離職の可能性も高まるだろうなと感じていて。最近ようやく、従業員の家族の健康サポートに関する取り組みも少しずつ始められるようになりました。
やはり、我が社のモットーとして、従業員とその家族の安心と幸せを守っていける企業でありたいですね。
<プロフィール>
サイショウ・エクスプレス株式会社 https://saishoex.com/
代表取締役 齋藤 敦士