FC大阪は、大阪府東大阪市をホームタウンとする、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に加盟するプロサッカークラブです。
FC大阪の名前に込められている「FC」の意味とは、実は、「フットボールクラブ」の略称としてだけではなく、また、その活動はサッカークラブの枠にとどまりません。
「F」には、さまざまな領域を示す「Field」、基礎・基板の「Foundation」、人々のためにという「For people」。 「C」には地域貢献の「Communitycontribution」、協働の「Collaboration」、信頼の「Confidence」、創造の「Creation」、挑戦の「Challenge」、そして変化の「Change」と、「F」「C」それぞれに独立した意味を含めており、クラブは、地域に貢献するためにさまざまな物事をつなぐコンテンツとしての役割や、地域発展の新たな取り組みをクリエイトする結節点・発信地の役割を担っていくことを目指しています。
サッカーというスポーツが持つ力と可能性を通じて、地域の新たな価値・魅力を創造することや、SDGsが掲げる世界共通の社会課題解決に向けて、脱炭素やダイバーシティにも積極的に取り組む FC大阪の代表取締役社長 近藤さんにお話を伺いました。
クラブチームのこれからと、社会での存在意義
―――2024明治安田J3でのご活躍を拝見していました!
プロサッカーチームとしての試合結果はもちろんのこと、御社の活躍は幅広いですよね。
近藤:まず、私たちFC大阪は、クラブに関わるすべての人が、‟すべては勝利と感動のために!”というクラブ哲学の下に活動しています!選手、フロント、スタッフ一丸となり、何よりも勝つことに拘り、絶対に諦めない心を持ち続け、J2リーグ昇格に向けて邁進しています。
その一方で、同じくらいに大切にしていることは、我々が地域と共に地域社会の成長と発展に向けた原動力になるというミッションです。「クラブ活動を通じ大阪を盛り上げよう」をコンセプトに、大阪を世界へ広めていくこと、世界に誇れる都市にするんだということを考え続けています。
また、国際社会の一員として、SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成に取り組む活動も行っています。
―――近藤さんは選手としても活躍されていたと思いますが、2021年にFC大阪の代表取締役社長に就任されています。現在のお仕事はどういったことが中心ですか?
近藤:なんでしょうね、なんでもやります。(笑)
例えば、ゲームの調子が悪ければやっぱり現場を見る機会も増えますし、チームが通常運行していれば、スポンサー様界隈に注力することが多くなりますし、決算の時なら決算でやることが多くなりますしね。
中長期計画というのももちろん作ってはありますけど、僕の仕事は、瞬間的な勝負の方が多い気がします。予定通りのことというのは、あまりない感じです。(笑)
ただ、パートナーシップをいただいている企業様とのコミュニケーションは、ほぼ毎日と考えて大切にしていますね。
―――もうすっかり「経営者」のお仕事が板についてらっしゃる感じですね。
近藤:一応プロにはなりましたけど、サッカー選手って僕の中の定義では、やっぱり何百試合も出た人がサッカー選手なわけですよ。そのくらいの試合での活躍なくして元プロですっていうのは、僕の中ではなんか違うなと思っていて。
このビジネス界で一人のビジネスマンとして認めてもらいたいという気持ちが強かったんで、元サッカー選手と言われたくない時期はありました。
今は、特にサッカーが好きな人たちには、ある程度良いイメージで見てもらえるので、スポンサー様を含めたさまざまな方とお会いする機会には、元サッカー選手という肩書きを有意義に使ってはいますけどね。(笑)
プロ選手の健康とパフォーマンスを支える管理術
―――企業としての「健康経営」にもつながりますが、選手にとっては健康が資本ですよね。選手の健康管理はどのようなことをやってらっしゃるんですか。
近藤:健康のデータ管理というのが、スポーツの世界って実はめちゃくちゃ進んでいるんです。
今で言うと「デジタルブラジャー」という装具があり、サッカー界で採用が拡大していますね。そこにGPSデバイスを固定装着するんですが、選手がどれぐらい走ったか、走行スピードや加速・減速、体の傾き、その時の心肺がどうなっているか、スプリント回数が何回か、などのデータ取得が可能ですから、どこを強化していくかというのを決めるのに利用します。データを取る機能はたくさんあるんですけど、それをどう活用するかというのが大事で、うちのチームはしっかり活用している方だと思います。
―――ちなみに、これまでの取得データの中で、パフォーマンスに直結する!と思われるデータとは?
近藤:パフォーマンス向上という点ですと、重点的に取り組んでいるのが水分量チェックです。脱水症状って、脚が攣る原因にもなるじゃないですか。
水分の摂取タイミングが大事なんですよね。一般的にも脱水症状に気づいていないって話はよくありますが、特にそれが激しいスポーツ中となると、その目には見えない変化によるパフォーマンス低下は絶対にあります。
―――選手の食事の管理などもしているんですか?
近藤:定期的に選手と栄養指導の先生とで面談をして、日頃の食生活などを確認しています。やろうと思えば、何を食べたのかっていうのを全部データに入れてチェック管理することもできなくはないんですけど、選手たちの意識のほうが大事だと思っていますし、選手のそういった作業量が多くなると、それもストレスですからね。
SDGsをキーワードにした クラブチームの社会貢献活動
―――では、経営者として、「ウェルビーイング」についてはどうお考えですか?
近藤:「ウェルビーイング」に取り組みはじめたいちばん最初のきっかけは、大阪・関西万博なんですよ。僕らの本拠地である大阪で万博があるわけですから、万博を機にSDGsを広めましょうと。SDGsの目標の中で、スポーツ=健康関連は誰にでも取り組みやすいですよね。
SDGsの3番にあたる「全ての人に健康と福祉を」という課題です。
従業員・選手の健康をより良いものにすると共に、そのノウハウを地域にも広げるなど、スポーツを通じて大阪を健康にするということも僕らのミッションと考えています。
スポーツ選手と一緒にみんなで運動しましょう!というのは、良いアクションになります。他にも、僕らのスポンサー様には「健康」にかかわる企業も多いので、一緒になって健康経営に取り組む企業様のサポートなども実施してきています。
―――良いですね、そういった地域との関わりについても教えてください。
近藤:ホームタウンにある小学校全校にサッカーの授業をしに行くことになっています。プロの選手と直接触れ合う機会は中々ないですし、小学生の子どもたちだけでなく、先生方も喜んでくれています。
他の地域では、部活動を外部委託にしていくような流れがでてきているそうで、東大阪でもそんな取り組みを実施する可能性があるのであれば、僕らがお手伝いしたいなとは思っています。
また、そういう関わりの中から、「脱炭素」のこととかを僕らがもっと一般の方々に発信することで、どんどん広めていきたいと考えています。
僕らだけが「脱炭素アクションしてます!」と言っても、点で終わってしまうので、それをどう線につないでいくかが大事になります。
例えば「この試合でカーボンオフセットしました!」って、世間的に見たら「おぉすごいな」って思われるかもしれないですけど、じゃあ社会課題に対して普段の取り組みって何してるの?みたいな…。一時的にお金で解決するだけでは、グリーンウォッシュですよね。そうはなりたくないので、僕らが活動している中で、本当の意味での脱炭素社会に貢献できるよう努力していきたいですね。
持続可能を目指すためのビジネス視点
―――これらの取り組みは、投資かコストかという議論がよくあります。 御社では、どうお考えですか?
近藤:僕らも一企業として、従業員や関係者、その先には世の中のために、ウェルビーイングや健康経営、脱炭素などの取り組みをやろうと考えるんですけど、きれいごとを言ってもやはり中小企業にとっては、コストになってしまうんですよね。
だから、僕としては、やはりそれらもビジネスにもつなげていけるものにしたいと考えています。その考えが良いかどうかは別として、それでもやはり中小企業に広まらないことには、日本全体に広がっていくなんてまずありえないと思っています。
ウェルビーイングなどの取り組みも、ビジネスのひとつの素材として発展させることで社会貢献につながればいいなと思っています。
―――なるほど、面白い視点ですね。御社にとっての「健康経営」に取り組むメリットは?
近藤:「健康経営」は誰のために?となると…もちろん、まずは自社です。
次がサッカーのクラブで、その先がサッカー界です。
おかしな話だなと思うんですけど、サッカークラブってコーポレートとしての価値となると評価が低い場合があります。有名なサッカークラブであっても、商社に十数億円で買われてしまうんですよね。サッカークラブの価値自体は、もっとあるだろう…という認識でずっとやってきたんですけど、結局買った後のランニングコストがめちゃめちゃかかるんですよね。買った側の投資効果があるのかというと、こういう結果になってしまう。それが悔しくて。
だから、サッカークラブ自体の価値をちゃんと上げる=コーポレートとしての価値を上げるというのが僕らの仕事だなと思っているわけです。例えば、いざバイアウトや上場などと考えた時も、社会的な価値がどのくらい高いかは重要ですよね。
「健康経営」「脱炭素」などを含むウェルビーイングへの取り組みは、注目度は上がってきているものの、まだまだ浸透しきっているものではないのが実態です。サッカー界が積極的に発信していくことで、もっと社会への広がりが期待できると共に、僕らクラブチームの企業価値を上げるという目的にも近づくことができると考えています。
真のダイバーシティへ 僕らだから出来ること
―――今、会社として注力していることはなんですか。
近藤:「ダイバーシティ」と「脱炭素」の二つですね。
クラブとして「ダイバーシティ推進本部」を立ち上げています。
ダイバーシティに関しては、僕らのスポンサーをしてくれている株式会社ノーサイド様が、障がい福祉サービス、地域生活支援事業をやっていらっしゃって、そこから僕らの意識も活動も広がっていきました。
そういった施設の環境は、どうしても社会とのつながりが薄くなりがちです。しかも、働いている方々はホスピタリティあふれる人たちの集まりで、奉仕の心でサービスしてしまうところがあるので、対価で考えると新しい人だって入ってこないんですよ。
ノーサイド代表の中西さんは、‟ひとつなぎプロジェクト”というのを立ち上げているんです。地域のみなさんや企業、学生、スポーツ選手など、たくさんの人達がつながることができるイベントやワークショップを行ったりもしていて、僕らも参加しています。
この関わりの中で、きっと日本中には同じような環境の方がもっとたくさんいらっしゃるんだろうと思って、自分たちに何かできることはないかと考え始めたのですが、ただ、それらの施設を全部回ろうと思っても、そこはやっぱり資本やいろんな人の協力がないとそもそも無理だよねという話で。でも、僕らであれば社会とのつなぎ役にはなれるなって思うんですよ。そこから、中西さんと一緒にオンラインで「FC大阪ダイバーシティ塾」というのを始めました。
―――オンラインで行う、FC大阪のダイバーシティ塾! 近藤さんの言葉で発信されるわけですね。
近藤:「障害」って漢字にすると「害」ってとてもネガティブな文字に感じるんですけど、疑問ですよね。そこは絶対ひらがなにするとか。そもそもの障がいの考え方ですが、人に障がいがあるんじゃなくて、環境が障がいを作っていて、だからそれを気遣える人たちさえいれば環境が改善され、障がい者じゃなくなるわけです。
そのことを知らない、気づいていない人たちが世の中には多いわけですから、それをもっと僕らが発信したいし、彼らの手助けになることをクラブとしてできればと思っているんです。
僕も知らないことがたくさんありました。知らないから、出来ないことが多いんです。だから、知るためのきっかけづくりを僕らがやりたいし、できると考えています。
初めて施設に行った時は、なんか可哀想って思ってしまって。抱っこをするのもすこし抵抗がありましたけど、やりとりしていると彼らもすごい文句も言ってくるし、怒ったりもするし、(笑)めちゃくちゃ普通なんですよ。
逆になんか、勝手にこちらが可哀想と思うことだったり、気を遣ったりすることが良くないんだと思って。今は普通に仲良くできるようになりましたけど、そういうきっかけも施設に行ってみなければ分からなかったですし、何かしら交流があるから初めて気付けるわけです。
だからこそ、もっとみんなにも交流の場を持てるような機会を増やしたいなと思っています。試合にも必ず来てくれるんですよ、そこでみんなでボッチャしたりとか、そういった時間も今の僕らにとってものすごく大切な時間です。
―――「脱炭素」についても、Jリーグクラブの中でも先進的な取り組みをされてきましたよね。
近藤:そうですね、僕らの脱炭素の第1歩としては、事務所や選手寮の電力は「再生可能エネルギー」を選んでいます。
それもやはり、自分たちだけがやって満足、で終わらせたくはないんですよ。
2023年10月には「FC大阪 脱炭素ウォーク」として約1カ月間に渡り、クラブ・サポーター・地域住民が一丸となって日常的なCO2排出量の抑制に取り組むJリーグ初のプロジェクトを実施しました。
FC大阪をHUB(結節点)として様々ステークホルダーが関わって取組みを実施することで、意識向上が促され、企業・地域・サポーターの行動変容の実現に向けた1歩を踏み出すことが出来ました。
ダイバーシティと同じように、僕らのアクションが誰かの‟知ってもらう“きっかけになったら良いなと思っています。
今後も、クラブチームのSX化を推進すると共に、サポーターや地域、パートナー企業への再エネ導入促進や脱炭素化に役立っていきたいですね。
―――クラブチームとして良い意味で、サッカーの領域に縛られないで活動されていますね。
フィールドが広くて驚かされます。
近藤:そうですね、僕らの強みってフットワークが軽いことなんで!
一般企業に比べたら、注目度も高いわけで、影響力もあるはずだからこそ、先を見て進んでいくのは使命でもあると思っています。
サッカークラブだから、「スポーツだ!健康だ!」っていうのは、もう当たり前というか。もっと、社会の多様性を一緒に学べるとか、お金のことが学べるとか、僕らをHUB(結節点)にして周りを巻き込みながら一緒に成長していけるようなアクションを提供していきたいですね。
ただ、もちろん。僕らはどこまでいってもやっぱりサッカークラブとして、大事なのは勝ち負けなので。強くあるべきですし、チームが強くないとやっぱり僕らの言葉にどこか説得力が欠けちゃいます。(笑)
社会に影響力を持てるチームであり続けるために、「強さ」は譲れないミッションです。
<プロフィール>
株式会社F.C.大阪 https://fc-osaka.com/
代表取締役社長 近藤 祐輔
OSAKAゼロカーボン・スマートシティ・ファウンデーション 理事
東大阪市国際戦略アンバサダー