利益は社員のために使いたい!
健康で元気に働ける「満足度100%」を目指す、新郷運輸の健康経営

1996年4月にトラック5台から創業し、大手家電量販店の商品や大手お菓子メーカーの商品、ホテルへのリネン配送などをメインに運送事業を営んでいる有限会社新郷運輸。会社にとって働く社員こそが「宝」と考える代表の思いが、和気あいあいとした社風、助け合いの文化、新郷運輸にかかわる全ての人に感謝する、社員一人ひとりの思いやりのある行動にあらわれています。

家族のような社員の健康や安全を守るためにという数々の取り組みは、全日本トラック協会の「安全性優良事業所(Gマーク)」をはじめ、ドライバーの働き方改革に取り組む 「ホワイト物流推進運動」への登録など、社内のみならず外部からの高い評価も得ており、2019年から6年連続で健康経営優良法人認定、2022年からは「ブライト500」*にも選出されています。

今回は、社員の健康を軸に積極的に活動を行っている有限会社新郷運輸の代表取締役赤城義隆さんと健康推進室室長の赤城伸子さんに「健康経営®」に取り組むメリットなどについて、お話を伺いました。

*「ブライト500」とは、健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定企業の中から「最も優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。

「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

 

ドライバー人口減少、高齢化も進行。深刻さを増す物流業の人材不足

 

―――有限会社新郷運輸の事業内容についてお聞かせください。

 

赤城義隆当社は今年で創業29年目を迎えました。保有車両は、2tと4t車です。近距離輸送がメインで、その日のうちに帰って来られる仕事がほとんどです。川口本社の他に栃木県宇都宮市にも営業所がありまして、全35台で営業しています。

時代の変化に対応しながら、事業戦略を見直して仕事の中身などを変えてきました。

コロナ禍までは、冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの家電製品輸送のシェアは半分くらいだったのですが、コロナ禍にステイホームの行動制限がある中で給付金の利用もあってか家電製品が一気に売れましてね、この部署だけは多忙を極めました。しかし、コロナが収束すると家電製品の需要が激減、配送が減って売上げが低迷しました。

このとき、ひとつの業種に偏るのは駄目だと反省しましてね、リスク分散として多様な業種を扱うことにしたんです。引き続き家電製品の輸送もありますけど、プラスチック、大手量販店や大手ドラッグストアのセンター便、リネン、食品、菓子など幅広く扱っています。現在はそれぞれのシェアを10~15%に維持しています。

会社の全売上げの半分近くをひとつのお客様に依存してしまうと、運賃交渉をしたくてもトラックの台数を減らされたり、仕事を失ったりすることを恐れて、運賃を上げてほしいと言い出せなくなる。売上の構成比を分散させておけば、採算の合わない仕事はお断りすることもできるし、運賃交渉して納得のいく金額でなければ他の仕事に切り替えやすくなります。いろんな意味で雇用を守っていかなければならないですから。

―――確かに特定の顧客に依存するのはメリットもあるけれどリスクもある。収益構造を変えるというのは勇気のいる判断でしたね。

 

赤城義隆:まあ、会社を続けていくために必死の転換でしたが、その後、少しずつですが業績は良くなっていきました。とはいえ、近年は業界としても課題が尽きないわけで、「物流の2024年問題」への直面もありました。

国土交通省によると2015年には76.7万人いたトラックドライバーが、2030年には51.9万人まで減少する*¹と予測されていて、ただでさえトラックドライバーの平均年齢は全産業の平均年齢と比べて約3~6歳高い*²といわれているのに、この先、若い人が入ってこなければ平均年齢はどんどん上がっていくわけで。

日本が直面している少子高齢化による労働人口減少に運送ビジネスが抱える構造的問題が作用した「ドライバー不足」がすでにある上に、この2024年問題ですからトラックドライバー不足はさらに拍車をかける可能性があります。このまま減少が進めば国内の輸送能力を維持することは困難といわれています。

*¹ 参照:物流を取り巻く 現状と課題 | 国土交通省

*² 参照: 統計からみる運転者の仕事 | 厚生労働省

 

―――物流業界は、代表的な労働集約型産業ですもんね。

人が集まらないのは、やはり長時間労働や賃金など待遇面が厳しいという運送業界のイメージでしょうか。

 

赤城義隆:日本のトラックドライバーは、全産業の平均より2割ぐらい労働時間が長く、2割ぐらい給料が安いと言われています。2割長くて2割安いんじゃ、当然ながら人は集まりません。もちろん、どこの運送会社もこれを改善したいわけですが、運賃は値上げできない、燃料費は高止まりしている、さらにトラックの価格も3割近く上がっていて、どこもギリギリの状況なんです。

国もこの問題を解決するため、標準運賃を示して料金の見直しを指導しています。おかげで以前よりは改善してきましたが、実際に我々がお客様から頂く金額とは、まだ大きな隔たりがありますよ。発注側だって厳しい価格競争の中にいるわけですから輸送コストは抑えたいわけで。何か法的な縛りでもない限り、国が示す標準運賃が定着することは難しいと思います。

 

―――確かに、最低賃金のように法的拘束力が必要かもしれませんね。

 

健康経営につながった、安全と輸送品質へのこだわり

 

―――「健康経営」を推進する理由は、そういった課題への対策でもあったのですね。

 

赤城義隆:運送業にとって安全が第一です。しっかりとした点検整備・点呼を実施し、車両の安全装置を充実させることももちろん大事ですが、やはりドライバーの健康は重要ですよ。この点については妥協せずにこだわってやってきました。

睡眠時無呼吸症候群で運転中に居眠りしてしまうとか、心筋梗塞とかを起こして事故になれば、相手様にとっても、本人にとっても、会社にとっても大変なことになる。そういったリスクをなくすには、日頃から社員の健康状態を把握し、健康起因事故を起こさないようにしなければならない。そのための取組みをしていくと、おのずと「健康経営」に行き着くわけです。

もうひとつ、運送業って物を運ぶだけの仕事ではなくサービス業なんです。運んだ先では必ず人と接することになりますから、ドライバーの対応が良ければクレームがクレームではなくなるんです。

当社では取引先やお客様からお褒めの言葉が届くと、それを掲示するようにしています。褒められた本人もモチベーションが上がりますし、周りの社員の意識も向上します。

お客様に当社を選んでいただくためには、この接客品質がとても大事なんです。接客品質を良くするためには、まずES*を高めることが大事だと私は考えています。「この会社に入ってよかった!楽しい」と思えなければ笑顔で接客などできません。ESを高めることでおのずとCSも高くなると私は考えています。働く環境や心理的安全性など、まだ整備中ではありますが働きやすい職場づくりを進めているところです。

*:CS/顧客満足度(Customer Satisfaction)ES/従業員満足度(Employee Satisfaction)

―――「健康経営優良法人は」認定を取りに行ったというより、御社の長年の取り組みの結果だったのですね。

 

赤城伸子:トラック協会でセミナーを受けた際に、企業方針の見える化は人材確保の点でも必ずプラスになるから、まずは「健康宣言」を掲げてみてはどうかと勧められたんです。アドバイスをいただき「健康宣言書」を出してみると、今度は協会けんぽ(全国保険協会)さんから電話がかかってきて「新郷運輸さんは既にしっかり取り組んでいるから、健康経営優良法人の認定も受けてみてはどうですか」となりまして。

認定の申請では会社で実施していることなどをシートに記入していくのですが、最初はどれが適合しているのかわからなくて、協会けんぽさんに相談しながらの申請でした。

 

―――どの会社も初めは手探り状態でしょうから、協会けんぽさんのサポートは大きいですね。

 

赤城伸子:おかげさまで、2019年から「健康経営優良法人(中小企業小規模部門)」認定を受けて、その後2022年からは「ブライト500」に選出いただくことができています。

 

採用面で大きな効果を発揮 「健康経営優良法人認定」

 

―――ブライト500を含む6年連続というのは素晴らしいですね。認定取得からプラスの効果はありましたか。

 

赤城伸子:採用面が大きいですね!実は応募者の方だけでなく、奥さまやご家族が‟健康経営優良法人認定を受けている会社“を勧めるらしいんです。どちらかと考えた時、ほとんどの人はやはり認定のある方を選ぶと思います。他社さんに比べても、おそらく当社は応募が多くきている方だと思います。今どきの求人サイトは、検索条件にその会社が健康経営優良法人かどうかのチェックボックスも設定されているくらいですから。

また、お客様からの信用にもつながって営業面でもプラスになっています。「健康経営」という一つのかたちで、私たちの企業スタンスを見える化できたという実感があります。

 

―――具体的な取り組みもお伺いさせてください。プラチナ健診という制度を設けているんですね。

赤城伸子:はい、当社では脳MRI検査と心臓エコー検査、頸動脈エコー検査を総称してプラチナ健診と呼んでいます。55歳以上の社員全員と、健康診断結果を見て受けた方がいいと思われる人を対象にして会社が全額負担しています。当社社員の平均年齢が現在50歳となっていて、この年齢になると知らず知らずのうちに健康リスクが増えてきますから、しっかりと健康チェックをしていこうと考えてこの制度を設けています。

また、通常健診もプラチナ健診も、結果を経年で比較できるようにした「経年比較表」を作成して、有所見の人には社長と私がフォロー面談を行っています。健診は受けて終わりでは意味がありません。結果を活用し生活習慣を改善する指導をしたり、「要精査」や「要医療」、「再検査」となった場合には受診を促したりしています。

加えて、特定保健指導*の対象となった人には保健師さんの面談も受けてもらうようにしています。健康診断で気になる点が見受けられた人や喫煙などの生活習慣がある人にも、「健康相談」として保健師さんと面談をして、日頃の生活習慣を振り返るきっかけにしてもらっています。

*特定保健指導:健診の結果、生活習慣の改善が必要であると判断された方に対して実施される保健指導。

―――保健師さんが会社に来てくれるのは良いですね。

 

赤城伸子:面談はオンラインも可能ですが保健師さんと直接対話してもらった方が効果あると思います。たとえば喫煙率を下げる‟禁煙チャレンジ“の取り組みもすごく効果がありました。禁煙だけでなくさまざまな課題に対してアドバイスやサポートもしていただけますから利用しない手はないですよ。

代表の‟社員は会社の宝。利益は社員のために、健康で元気に働いてもらえるようにお金を使っていきたい“という考えの下、こういったプラチナ健診や健康相談サポートのほかにも、各種手当や福利厚生を用意しています。

例えば、社員に対してのSAS(睡眠時無呼吸症候群)スクリーニング検査やインフルエンザ予防接種、3大疾病補償保険と入院保険への加入も会社が全額負担しています。

ほかにも健康診断時の追加検査(オプション)の半額補助、野菜ジュースの支給、夏には熱中症対策にスポーツドリンクを支給、雨の日でも有酸素運動ができる健康器具の設置、禁煙チャレンジでは参加者に禁煙外来の受診料や禁煙パッチの購入補助などのさまざまな制度があります。

また、健康・医療・介護・育児・メンタルヘルスなどについて365日24時間電話相談ができる「こころとからだの電話相談窓口」を設置していて、社員だけでなくご家族も利用できます。これからも安心してもらえるようなサポートを作っていきたいと思っています。

 

SNSによる発信が、採用や職場環境の活性化に!

 

――― 御社らしい取り組みは他にもありますか。

 

赤城伸子:2016年から「Good job!Thanks!カード」を贈り合う取組みを行っていて、「ありがとう!」や「いいね!」を伝え合う社内コミュニケーションとして定着しています。社内の人間関係を円滑にするだけではなく、来社された新規のお取引先様から「こんな素晴らしい取り組みをしている御社とぜひ取り引きしたい」と仕事を受注できたり、金融機関から融資を受ける際にもこの取り組みが評価されて特別な金利で融資を受けることができたりと、外部への影響が意外に大きいことに驚いています。

それから3ヵ月に1度は、社内で健康情報紙「KOTONOHA」を発行しています。健康管理に奮闘する社員をインタビュー形式で紹介するコーナーがあり、会社全体の健康に対する意識を牽引することにつながっていると思います。

また、当社は24時間365日運行しておりますので、さまざまな時間帯の仕事があります。子どもの送り迎えや親の介護など、それぞれの事情に合った時間帯で働ける環境を作っています。また、緊急で休む事情が発生してもカバーできる体制を整えていますし、社内では子育て経験者同士、介護経験者同士が語り合える場があります。

当社の離職率が低いのは、こうした仕組みを充実させてきた成果だと思っています。

―――社会的に介護離職も大きな課題になっていますよね、素晴らしい仕組みですね。

 

赤城伸子: もうひとつ、「健康経営」とは違うかもしれませんが、当社では会社のアピールにSNSを活用しているんですよ。

 

赤城義隆TikTokやインスタグラムで会社の雰囲気が伝わったらいいなぁと思って、会社のみんなの日常的な1コマなどを発信しているんです。再生回数が5万再生にもなってバズったコンテンツもあるんですよ(笑)! 内容は「入社3年目のトラガールの(女性トラックドライバー)路上教習!」とか、「安全性優良事業所として表彰されました!」とか、営業所のみんなで足つぼチャレンジをしたり、ドライバーのおすすめラーメン店などを紹介したり、いろいろ発信しています。

―――いや驚きました!楽しそう!いままでの運送会社のイメージじゃないですね。

 

赤城義隆実はもう2年くらい続けていまして、投稿100回を超え、社内だけでなくお客さまからも好評なんですよ。すべて従業員が撮影して編集して投稿しています。とくに最近、入社した若い世代が、こういったSNSにも詳しくてコンテンツのレベルがぐっと上がりました。

SNSを見て応募してくれた求職者もいますよ!やっぱりホームページだけでは伝えられないことってありますよね。楽しそうな会社の空気が伝えられるし、仲間の雰囲気もわかってもらえる。つまり「顔が見える」ということですよね。会社選びに迷ったら、きっと選んでもらえるんじゃないかなと自信があります(笑)。

もうひとつ良かったのは、コンテンツづくりを通じて社内交流など、社員同士のコミュニケーションが活発になったことです。これが会社の良い雰囲気を作り、活性化にもかなり役立っていると感じています。

 

―――では最後に、今後の新郷運輸さんの目指すところなどをお聞かせください。

 

赤城義隆お客様を笑顔にするサービス、社員が笑顔で働ける職場。人の笑顔こそがわれわれの目指すところであり原動力です。創業から掲げてきた「人材は宝」という哲学をさらに充実させ、これまで以上に社員がいきいきと、幸福に働ける環境づくりに努力していこうと思います。

 

 

 

<プロフィール>                                                         

有限会社 新郷運輸 https://www.shingo-transport.co.jp/

代表取締役 赤城義隆 健康推進室室長 赤城伸子

 

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