株式会社イトーキは明治23年(1890年)に、伊藤喜商店として創業。明治の時代にゼムクリップやホチキスの輸入、ゼニアイキ(金銭記録出納機)の発売をするなど、常に世の中にないものを生み出し続けてきた日本を代表する老舗オフィス家具メーカーです。
現在では、祖業のオフィス家具製造はもちろんのこと、オフィス空間全体のデザインを手掛けるほか、設備機器・パブリック事業など扱っているものも幅広いことで有名です。例えば国立博物館の空間・美術工芸品を美しく演出する新型展示ケースの開発なども行っており、イトーキの巧みなその技術は多くの人の目に触れられていることでしょう。
また、オフィスづくりのプロとしての豊富な実績、自社の実践で培ったノウハウを活用して、企業様向けに健康に働ける「空間づくり」と「働き方コンサルティング」の支援を行うなど、健康経営実現のサポートもしています。
自社の健康経営実践では社長自らが健康推進委員会の委員長を担い、2017年2月に健康経営推進宣言を制定。同年には『健康経営優良法人ホワイト500』に認定されており、初年度の認定より8年連続、オフィス家具事業を展開する企業としては初となる輝かしい実績を更新しています。
まさに、日本の企業発展と健康経営をリードする株式会社イトーキの人事部の大井さん、産業保健師の大森さんにお話を伺いました。
従業員が働きやすい空間設計で、「健康経営」もサポート。
人事部部長 兼 安全衛生管理室室長 大井 卓爾さん
―――大井さんと大森さんの業務の内容や健康推進での役割をうかがえますか?
大井:私の肩書きは人事部部長ではありますが、安全衛生管理室の室長も務めています。健康経営推進の体制としては、安全衛生管理室に健康推進チームと健康管理チームがあり、グループ会社を含むイトーキ全体の健康経営の推進および管理・統括をしています。
大森:私は健康管理チームの産業保健師です。東京本社(ITOKI DESIGN HOUSE)に常駐していて、従業員の皆さんへの健康に関する適切な指導・相談対応で心身の健康管理をサポートしています。2024年11月に実施した、オフィス11階フロアのリニューアルでは、より従業員の皆さんに寄り添うことを目的に、健康管理室を執務エリアの近くの13階へ移転しました。さらに利用促進をPRした結果、従業員の方からの相談件数も増えています。来室もありますが、電話やメール、チャットなど気軽に相談できるような環境を整えています。
―――具体的にどのような相談がくるのでしょうか?
大森:内容は幅広くて、「靴擦れした」、「咳が止まらない」といった日常的なことから、病気になってしまった際の具体的な治療に関することや、手術・入院、休職・復職についてなど幅広い相談があります。
大井:後者のようなことに関しては社内に人事労務チームがあるので、すぐに連携するようにしています。
東京には産業保健師が3人おり、大阪のオフィスと滋賀の工場にも駐在しています。
―――気軽に相談できる環境づくりも大切にされているわけですね。
―――ワークプレイス事業を主軸とされているだけあって、最先端で開放的な空間ですね。
大井:ここ日本橋のITOKI DESIGN HOUSEは、従業員が‟働きやすい“空間設計という点にこだわっています。3フロアでさまざまなスペースや席を用意しており、単に机と椅子を並べただけの場所ではなく、快適さや働き心地を重視し、生産性を高めるような空間づくりを目指して工夫しています。
ABW(Activity Based Working)*の考え方をベースとして、自己裁量の最大化と自分で働き方をデザインするということに着目し、活動に応じた選べる空間を10種類用意しています。具体的には、ある程度の人数でも講習ができる・受けられるエリア、少人数でのミーティングに最適なエリア、1人で集中して資料作り等に専念できるエリアなどを設け、従業員が常に同じ場所にいるのではなく、仕事内容によって最も生産性が高まる場所を自分で選びながら自立した活動を行っています。
*ABW(Activity Based Working)10の活動は、オランダのワークスタイル変革コンサルティング企業 Veldhoen + Company の研究により作られた考え方です。イトーキは同企業とABWのビジネス展開について業務提携を結んでいます。
実はこの仕様は「健康経営」にもつながるのですが、仕事中にも座りっぱなしにならないという点がポイントです。
そのため、移動のしやすさも大切で、このオフィスにはフロアの中央に階段を設けています。オフィスの中心に往来が増えることで自然とコミュニケーションがうまれたり、意識しなくても軽い運動習慣ができたりします。座席を固定にしている会社に比べると、弊社従業員は皆さん活動量(歩数)が多いと思いますよ。
また、これは本社以外のオフィスでも同様にしていますが、従業員が働いている様子をお客様にもご見学いただけるようになっています。
健康経営宣言の制定による従業員の意識向上。定期健診受診率100%!
―――御社は2022年に「CASBEE-スマートウェルネスオフィス」認証制度において「最高位Sランク」の獲得や2024年には世界最大のワークプレイス・エクスペリエンス評価サーベイ「Leesman Survey」で「Leesman(R)+ Excellent」に認証されるなど、健康経営に対するリテラシーが非常に高い印象があります。ブランディングとしてしっかりと確立されていますが、ここに向かっていこうというタイミングや当時の課題はありましたか?
大井:私どもは常に「人」を中心に据えた思考を持ち、つまり、我々のノウハウやイノベーションをもってお客様の心身の健康に寄与することが重要だと思っています。そこから生産性や価値創造がうまれ、お客様の「働く」という活動を支援できると考えているからです。それにはまず、私たち自身が心と身体の健康を維持し、自分たちで価値のあるオフィス空間を作り、創造的かつ生産性高く働くことを体現する必要がある。それが必然的な流れですよね。
イトーキには‟明日の「働く」を、デザインする。“というミッションステートメントがあり、ここに全てが集約されていると思います。
社内でマインドフルネス(瞑想)を行うための専用スペース
―――2017年に健康経営宣言を制定され、すぐに健康経営優良法人認定「ホワイト500」にも選出されていますが、以前からそういった思想や活動があったということですよね。さらに、宣言をされてから変わったことはありますか?
大井:そうですね、以前から従業員の健康に関しては力を入れていましたが、健康経営宣言をしたことであらためて社内体制を整えたのが企業成長の一つだったと思います。健康経営推進委員会を設置し、従業員の意識も高めることができました。
健康経営優良法人認定への挑戦は、私どもの活動内容が適正なものかどうかを客観的に評価してもらいたいという考えが、まずありました。またその多くの評価項目と向き合うことで、従業員のリテラシーもさらに高まったと感じています。健康経営優良法人のチェック項目は毎年進化していきますので、常に前向きに取り組むことで実績を上げていきたいと思っています。
―――評価項目が多いですよね。会社が健康経営に取り掛かろうとすると、現場とのハレーションが起きることもあるという話をよく聞きますが、御社はいかがでしたか?
大井:イトーキの従業員は非常に協力的で特にハレーションは起きませんでした。それは定量的な数字としても結果に表れており、定期健康診断の受診率が100%、二次検診受診率も85%となっています。ここまで協力的なのは、やはり先ほどのミッションステートメントの‟明日の「働く」を、デザインする。“をしっかり理解して、そこに共感できる仲間が集まっているからだと感じています。まさに私たちの事業と健康経営は直結していると思いますね。課題に関して強いて言うならば、二次検診受診率が85%に留まっているので、残り15%をアシストしていきたいですね。
大森:弊社はヘルスケア休暇も設けています。定期健診で再検査が必要になったときなど、特別休暇を取れる制度もありますから、二次検診受診率も100%目指して取り組んでいきたいと思っています。
健康経営への注力が、従業員エンゲージメント・業績の向上に!
大井:会社として、従業員のエンゲージメントスコアにもこだわっています。これは「自社に誇りを持っているか」という質問の肯定回答率の結果を指標にしています。業績が厳しかった2019年はエンゲージメントスコアも40%くらいに低迷し、半数以下という非常に危うい状況でした。しかし、オフィス投資や教育訓練の充実、インターナルコミュニケーション、そして健康経営やウェルビーイングを含むさまざまな施策に注力していくにつれてエンゲージメントが明らかに上昇し、2024年には過去最高の82.5%、回答率は99%という結果になりました。約40%も向上したことになるのですが、着実に上昇していると思います。
実は相乗するように、会社の業績も2021年から伸びているのです。人的資本投資はしっかり業績にも連動していくのだなと感じています。
―――健康経営の取り組みが、業績にも現れているのですね!
大井:健康経営推進委員会は、私たち人事だけではなく開発系の部門などもメンバーになっていて、従業員のパフォーマンスを上げるための施策について部門をまたいで共有したり、検討したりしていますね。
その他、具体的には、不調者対応や労働時間指導などは全社一体となって取り組んでおり、特にメンタルケア対策としてはセルフケアや管理職に向けたラインケア、内部・外部EAPといった4つのケアも行なっています。心の健康問題などで休職した場合の従業員向けには復職支援プログラムも用意しています。
ストレスチェックも定期的に行っており、回答率も約97%と高く、全社的にも浸透していると実感しています。
このように私どもは、さまざまな切り口から健康経営に戦略的に取り組む手法を体系的に確立してきました。これらのノウハウをいかし、お客様へのご支援でも的確なアドバイスが可能であると考えております。
働くすべての人がお互いのバックグラウンドを尊重し合える職場づくり
人事部 安全衛生管理室 健康管理チーム チームリーダー 大森 彩華さん
大井:弊社では女性の活躍も応援しています。2022年には女性活躍推進コミュニティ「SPLi(サプリ)」を始動して、女性のキャリアデザインやステップアップのサポートをしています。これまでに交流企画や講演会なども数多く行っています。
2023年には、「FEMCLE(フェムクル)」という女性の健康支援サービスもスタートしました。女性特有の健康課題を改善して、女性が働きやすい環境を作ることを目的としています。無料でオンライン問診を受けられたり、全従業員向けに女性の健康課題動画も配信したりしています。
大森:女性従業員からは、「男性にも分かってもらえると助かる」、「会社がこういった取り組みをしてくれるのは嬉しい」という声が上がっています。
大井:先述の動画は全管理職が視聴しているのですが、男性陣からも「知らなかったことが多くて勉強になった」という感想をもらいましたね。
弊社は直近ですと新卒採用の男女比が3:7、そして20代従業員の女性の割合はほぼ半分になります。女性の活躍なくしてイトーキの成長はないと思いますので、女性も働きやすい環境を整備することで、男性・女性隔たりなく誰もが活躍できるような支援を会社として積極的に行っていこうと考えています。
サプリのイベントでのグループワークの様子。
―――最後に、今後御社として重点的に取り組んでいきたいことを教えていただけますか?
大井:人事制度では基本方針が3つありまして、「Professional」「Pay for Performance」「Retention」になります。一つひとつの施策が最終的にはこの3つの方針に帰結していきます。この中で「Retention」では、社内各所の人材が生き生きと働き続けられる環境・制度はもちろんのこと、物理的な条件だけでなく「ひとの働きやすさ」にこだわっていきたいと考えています。そのための施策はさまざまで、とにかく愚直に頑張り続けることが重要です。これだという何か一つやればいいよねというわけではないんです。
健康経営では、もちろん全社的なサポートもしますが、弊社独自のサーベイツール「PerformanceTrail(パフォーマンストレイル)」を有効活用し、従業員一人ひとりの状態を見える化することで具体的に寄り添い、最終的には経営指標の達成が私たちの目指すところです。それこそが“明日の「働く」を、デザインする。“という会社のミッションを自分たちで体現していることになると考えています。
<プロフィール>
株式会社イトーキ https://www.itoki.jp/
人事部部長 兼 安全衛生管理室室長 大井 卓爾
人事部 健康管理チーム チームリーダー 大森 彩華