2024年に創業25周年を迎えた株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)。手掛ける事業はゲーム開発に始まり、ライブコミュニティ、スポーツ・スマートシティ、ヘルスケア・メディカルなど、エンタメから社会課題解決まで多岐に渡ります。プロ野球の横浜DeNAベイスターズやプロバスケットボールB.LEAGUEの川崎ブレイブサンダースといったプロスポーツチームも経営し、幅広いファン層を持つユニークな企業とも言えます。
本社は渋谷のスクランブルスクエアにあり、まさに日本のカルチャーの中心地で成長を続けながら、多様化する従業員のライフステージやバックグラウンドに柔軟に対応した健康経営®を実施しています。
今回はヒューマンリソース本部 チーフヘルスオフィサー室の副室長である植田くるみさんに、自社の取り組みや課題についてお話を伺いました。
「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
取り組みを始めた当初は、若い企業特有の働き方の改善が課題だった
――まず、植田さんの健康経営に関する業務内容を教えていただけますか?
植田:私が所属しているのはDeNAの健康経営を推進するチーフヘルスオフィサー室(以下、CHO室)という部署で、パフォーマンスアップやウェルビーイングの視点から従業員の心身の健康サポートを専門としており、2016年に発足しました。
私はその1年後からジョインしていて、施策の分析結果や従業員の声をもとにメンバーと共に方針を決めたり、睡眠、食事といった健康にまつわる様々な領域の取り組みを取りまとめて推進していく立場にあります。
ヒューマンリソース本部 CHO室 副室長 植田くるみさん
――CHO室が発足した当時は、健康経営に関して会社の課題などはあったのでしょうか?
植田:今では社会的にも労働時間をちゃんと守ることは徹底されていると思いますが、当時はそういった点も社会全体で浸透しきっていない中で、弊社は平均年齢が30歳前後という状況でした。ほぼ全員若手のベンチャー企業として始まっていたので、リリースしたサービスに障害が起きれば昼も夜もなく働くなど、自分の体のことは二の次にして仕事に没頭してしまう従業員が多かったんですね。その結果、例えば座りすぎで腰痛を悪化させてしまったり、睡眠不足であったり、食事を片手間で済ませて常に胃腸の調子が悪いといったメンバーが目についたのです。
その時は若いから熱意でなんとか乗り越えられても、中長期で見たときにこのままだと優秀なメンバーが体調などを崩してパフォーマンスが思うように発揮できなくなるのではないのか、ということがまず起点になりました。ちょうどアメリカでも健康経営が注目されて、日本も経済産業省が取り上げ始めた時期で、弊社の課題とマッチする考え方だったのです。また弊社がヘルスケア事業にも着手し始めたタイミングでもあり、一緒に働く仲間が、いつでも健康で笑いながらプロの仕事をしてほしいな、という思いから立ち上げることになりました。
その後、会社の規模も拡大し事業も多角化してきたため、今では多様な従業員が在籍しており、子供が生まれたりご両親の介護など、発足当時にはなかった課題が出てきているなと感じています。
健康経営優良法人の認定は、自分たちの活動の答え合わせでもある
――9年連続で「健康経営優良法人ホワイト500」を認定されているそうですが、取得されようと思った理由やきっかけについて教えていただけますか?
植田:当時はまだ取り組む企業も、関連した情報を発信している企業も少なかったこともあり、認定制度を通して自分たちの活動の答え合わせをするような部分もありました。調査票の中に入っていることは社会が求めている取り組みでもあるので、それらを通して得た知見は、社会課題に対する企業の姿勢として、世の中に発信したいと思っています。
この認定制度で、私たちの健康経営が社会に発信され今回の取材のように声をかけていただいて、それが皆さんに届くことも一つの認定制度の活用法だなと感じています。
先ほどお話したような育児や介護といったワードも、私達が取り組みを始めた当時は健康経営と結びついていませんでしたが、今の健康経営の認定制度の中には、その二つやダイバーシティ関連のことも織り交ぜていくように位置づけられています。調査票を通して、そういったトレンドを知ったり、広義の意味で自分たちがやるべきことや対応の仕方などの知識を得たりしていますね。
他社との意見交換やモニター参加で、健康へのリテラシー向上に繋げる
――健康経営に関して、他の会社と情報交換のような場を設けたりすることもあるのでしょうか。
植田:健康経営の取り組みをしている企業が実施されているコンソーシアムなどにお声掛けいただいて意見交換をしたり、自社の事例を発表する機会は月に1回くらいのペースでありますし、イベントを一緒にやることもありますね。
あとは年に数回、他社さんがやっているイベントに弊社が実証プログラムのような形でご一緒させていただいて、その企業の商品やサービスを弊社の従業員が体験して、その結果を発表するなど、門戸を広げていろいろとコラボレーションを行っています。
――最近だと腸活プログラムというのがあったとホームページに記載がありますが、なんだか楽しそうですね!皆さん、どのような形で参加されるのですか?
植田:プログラムへの参加は任意で希望者を募るのですが、その前にサービスの根幹となるセミナーを実施し、リテラシーを上げた上で参加してみたいと手を挙げてくれた方に、意見付きのプログラムに参加してもらいます。モニターを兼ねているので、積極的にアンケートに答えたり、フィードバックを送るなどしてもらっています。最近では腸活プログラムの他に、睡眠の質を高めるという成分の入ったお菓子のモニターなども行いました。
モニターという形で、サービスや商品の開発過程に関わって意見を言うことが好きな従業員が多いと感じます。社内でもサービスをリリースする際に、ベータ版などを実際にプレイして意見を出す機会もありますし、商品作りに関わるということが業務と非常に親和性が高くて、健康のためということよりも面白そうということで参加してくれる従業員も多いようです。
コロナ禍を境に、オンラインとオフラインのハイブリッド型の運動施策を実施
――働き方も多様化してきているなかで、他にはどのようなお取り組みをされていますか?
植田:コロナ禍後は、働き方がオンラインに切り替わった人も多いので、オンラインとオフラインのハイブリッド型の施策に変わってきています。代表事例としては、「Fit Festa Online」という、SNSを使った社内向けオンライン運動会を開催しました。
「Fit Festa Online」イベント告知ビジュアル
「Fit Festa Online」では開催期間中にいくつかの企画を行いましたが、最も参加者が多かったのは「みんなで歩活」というヘルスケアエンターテインメントアプリを使った1ヶ月間のウォーキングイベントです。「みんなで歩活」では、開催期間に合わせて2人以上の同僚グループで集まってチーム戦でランキングを競います。他にも、散歩でもボウリングでも何でもいいのですが自分たちで企画から実施まで行い、その実施レポートを「Fit Festa Online」のSlackチャンネルに投稿すると、補助費用が出るという特徴づけを行いました。
同じ日に大人数で集まって何かをやることがなかなか難しくなったので、都合の良いタイミングで集まって取り組めること、さらに補助が受け取れるということが従業員からは好評でした。
きっかけとしては、2021年頃、コロナ禍でなかなか外に出られず同僚にも会えないなか、そんなときこそ自社のグループがやっているアプリを社員にも導入して、オンラインでもコミュニケーションをとりながら運動ができる施策をやってみようというのが始まりでした。これまで4回開催していますが、だんだん外出もしやすくなってきたので、オフラインの要素も増やしていったりとかしながら継続しています。
「みんなで歩活」実施イメージ
――オンラインとオフラインを巧みに組み合わせているのですね。
植田:オフラインの要素を増やすという点では、猪苗代でワーケーションも行いました。希望者は金〜土曜日と参加して、金曜日は仕事も交えた宿泊、土曜日はトレッキングをしたりそば打ち体験をしたりするなど、横の繋がりの活性化と運動を交えたものです。どうしてもリモートワークが中心の働き方をしていてオフラインで会って交流する機会が持てないメンバーも多いので、何かしら健康的な取り組みをコミュニケーションと掛け合わせるように注力しています。
また、できるだけ参加のハードルを下げるという目的で、活動への補助を積極的に行なっています。例えば歩いてちょっと遠出のランチをしに行く場合のランチ代や、仕事終わりのボルダリング代など、従業員それぞれの楽しみ方に応じて補助をしています。
条件は参加レポートをSlackのチャンネルに投稿することとしており、それを見て周りも楽しそうだなとか自分も使ってみようかなと思ってもらえるよう、宣伝効果も含めてサポートする仕組みです。こういうことでもいいんだとか、こんなことあるんだ、といった投稿にはやはりリアクションスタンプが多くつきますね。Slackはスタンプで反応できるので盛り上がりが一目瞭然で、ちょっとしたお知らせよりもリアクションが良いです。
企画を通じて自然と行動変容に繋がっている
――従業員の方からの具体的な反応はいかがでしたでしょうか?
植田:取り組みに参加してくれた人のアンケートコメントでは、会社が従業員の健康に配慮していると感じる、いい会社だと思ったなど、とてもポジティブな受け止められ方をしています。
CHO室はなるべくハードルが低くて、楽しいとかお得だとか美味しいといった、健康以外のことを体感してもらうことを大事にしています。健康への関心の有無に関係なく、例えば腸活のセミナーで紹介されたもち麦をそれ以来ずっと食べていますというように、自然と行動変容につながったという話を参加者から聞くことも非常に多くなりました。一緒に参加した私は何もしていないのに、他のメンバーには響いていたんだと、とても嬉しく思いますね(笑)。
――自然と行動変容って、いいワードですね。強制ではなく日常の楽しい取り組みで、結果、健康やメンタル向上に繋がっている印象です。これに関連して、数値的な面で何か変化はありますでしょうか?
植田:「やりがい」や仕事のワークエンゲージメントについて、毎月全従業員に人事よりアンケート調査を行なっており、コロナ禍を境に一度ガクッと落ちたと聞きましたが、新しい働き方の中で向上したようです。
コロナ禍の最初の頃は仕事のやり方もそうですし、自分の生活全般のリズムであったり健康面も含めて不安が多かった中で、時間をかけて新しい環境の中で自分なりの働き方だったり健康法であったりリズムもできてきたのだと思います。
またCHO室が独自に実施している年1回のライフスタイルアンケートというのもあり、その中でプレゼンティズムを測っています。弊社だと「生産性発揮割合」という呼び方をしていますが、生産性の数値も徐々に上がってきていることが見受けられます。
社員がそれぞれの環境の中で、コンディショニングができるようにサポートしていく
――最後に、ウェルビーイングの実現に向けて、重点的に取り組んでいきたい課題や、実現されたい姿についてお話いただけますでしょうか?
植田:従業員一人ひとりが前向きにパフォーマンスが発揮できるようなメンタルヘルスのサポートをしていくことを昨年度から、重点に置いています。
毎年何をやるかということについては柔軟に決めるようにしており、そのときに合わせて必要だと判断したり、今の会社の雰囲気だったらこういったメンタルセミナーの方が合うんじゃないか、みんなのニーズが高いんじゃないかなど、タイミングや実施する内容とかも含めて都度変えています。
基本的にはメンタルも含めて、このハイブリッドの働き方に合わせてそれぞれ異なる環境やライフステージにいると思うのですが、そういう状況にいても自分でセルフケアができるようなってもらいたいですね。それぞれ自分の環境の中で、コンディショニングができるようになるのがベストだと思うので、先ほど申し上げた行動変容が起きたり、リテラシーの向上に繋がることをサポートしていくのが大事だと思っています。
株式会社ディー・エヌ・エー https://dena.com/jp/
ヒューマンリソース本部 CHO室 副室長 植田 くるみ