この記事は、 8 分で読めます。
介護と仕事の両立は、精神的・体力的に難しいと感じる人が多いのではないでしょうか。
高齢者人口の増加や少子化による介護者の減少などを背景として、家族の介護を理由にやむを得ず離職するケースが増え、社会問題となっています。介護離職により働き手を失う企業にとっても、離職者本人にとってもデメリットは大きく、両立支援制度のさらなる充実が求められています。
今回は厚生労働省をはじめとした公的機関の調査データをもとに、介護離職の割合や要因をまとめています。介護離職の実態を知り、離職防止対策に役立てましょう。
介護離職とは
介護離職とは、家族の介護への専念を理由に会社を辞めることを指します。従来の日本では、専業主婦が親や義両親の介護をするケースが多く見受けられていました。しかし、現代では家庭環境が多様化し、働きながら介護をする人が増えています。少子高齢化による労働需給がひっ迫するなか、介護離職での働き手の減少・人材の流出は企業としても防ぎたいものです。
国策として「介護離職ゼロ」が発表されたほか、2022年4月からは介護休業法の勤務年数の条件が撤廃されるなど、取得促進や両立支援のための改正がなされています。企業としても、仕事と介護を両立しやすい環境の整備が急務となっています。
介護を理由に離職する人の割合
厚生労働省の調査によると、2022年中の離職者数は約765.7万人。個人的な理由により退職した人は全体の7割程度で、うち約7.3万人が介護や看護によるものです。男女別でみると女性の方がやや多く(男性比+0.5%)、年齢別では男女ともに50代後半が最も多い結果となっています。
さらに総務省の調査では、就業者のうち、介護と仕事を両立している人の割合は約365万人(58%)で、過去5年で2.8ポイント上昇しています。
近年は少子高齢化だけでなく、生涯未婚率の高まりや共働き世帯の増加が顕著になっています。要介護者の周囲で介護を担える親族の数は減っていく一方、仕事をしながら介護をする人は今後も増えていくことでしょう。
介護離職の理由
介護離職に至る理由には、「要介護者が家族による在宅介護を希望した」「金銭的な理由で自宅での介護を選んだ」などがあげられます。介護者には中高年層が多く、体力的に両立が難しいと感じる人や介護者自身の健康状態にも問題が発生し、やむなく仕事を辞めることにした人もいるでしょう。身内に複数の介護者がいる場合にも、住居や仕事、家族構成などの事情で公平な分担は困難を極めます。一人に負担が集中してしまうことも多く、介護離職を後押しする要因となりがちです。
そのほか、「介護を理由に仕事を休めないため、離職に至った」というケースもあります。育児・介護休業法では「労働者から請求があれば介護のための休暇を与えなければならない」と定められています。しかし、従業員に自社の制度が知られていなかったり、社内で介護休業を使用した前例がないために使われていなかったりするのも事実です。制度を有効活用できずに離職が増えている可能性もあるでしょう。
介護離職の原因は企業にもある?
企業側が従業員の抱えている介護の実態を把握できていないことも、介護離職者を増やしてしまう要因の一つです。2020年に株式会社NTTデータ経営研究所が発表した「仕事と介護の両立等に関する実態把握の調査研究」では、次のような結果が出ています。
・家族の介護を主な理由として退職した従業員から、退職前の相談の有無については、半数以上が「退職前に離職や今後の働き方など何らかの相談を受けたことがある」と回答
・退職前の介護休業制度の利用率は2割超に留まる
・退職前に、勤務時間調整など「休業」以外の両立支援制度を活用した人は1割程度
介護休業制度が有効利用されていない理由は、勤務先に介護休業制度が整備されていなかったという企業側の課題に加え、あえて利用しなかったという人も多いことがわかります。
介護休業制度があるにもかかわらず利用率が低い原因には、「自分の仕事を代わってくれる人がいない」「介護休業制度を利用しにくい雰囲気がある」などがあげられます。特に正規雇用者においては、介護と仕事を両立する40~50代の約3人に1人が何らかの役職についており、責任や業務負担が大きいことも影響しているとみられます。また、介護離職者の多くは介護負担が必要になってから1年以上の期間を経てから離職しており、約6割が仕事と介護(手助)の両⽴が難しい職場だったことを理由としてあげていました。
この結果から、企業におけるサポートとは、従業員が抱えている介護等の実態を把握し、的確なメンタルヘルスケアやフォローを行うほか、介護と仕事を両立するための支援制度の整備と周知が求められるでしょう。さらに、安心して制度を利用できる社内風土を醸成することで、介護離職を防ぐ手立てとなるのではないでしょうか。
参考:令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書|株式会社NTTデータ経営研究所
こちらの記事もおすすめ
企業側からみた介護離職の問題点
介護離職の多くが「親の介護目的」であることから、年齢的にも40代~50代。仕事では知識や経験を十分に備え、管理職などの役職をもつようなベテランである中高年層に多く発生します。介護離職により従業員を失う問題点は次のとおりです。
- 労働力不足や生産性の低下
- 離職・採用に伴うコストの発生
- スキル・ノウハウの流出
従業員側からみた介護離職の問題点
従業員にとっても、介護離職を後悔している人が多数を占めるといわれています。ここからは従業員視点でみる介護離職の問題点について解説します。
収入がなくなる
介護に専念するためにと離職すると、まず安定した収入源が絶たれます。介護用おむつをはじめとした消耗品購入のほか、介護には実にさまざまな費用がかかり、介護保険等で賄おうとしても思ったより費用がかかるものです。生命保険文化センターの資料によると、毎月の介護費用の平均額は8.3万円。そのほか、介護ベッドの購入や自宅へ手すりをとりつけるなど、一時的にかかる費用の合計は平均74万円となっています。要介護者自身が十分な資金をもちあわせていなければ、介護者が負担する可能性もあります。
もちろん、介護を続けながら自身の生活費の捻出や老後のための貯蓄も並行して行っていく必要があるため、離職時の預貯金で賄っていくとしてもゆくゆく資金が底をつくということも考えられます。介護は育児と違って、どこまでという見通しや明確な資金計画を立てにくいという側面があります。したがって、介護が長引くほど困窮を極める結果となるのです。
参考:2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査|生命保険に関する全国実態調査|調査活動|公益財団法人 生命保険文化センター
再就職が難しい
介護離職後に再就職を検討する人は多いものの、一定のキャリアがあっても再就職が難しかったり、就職できても以前よりも収入が下がってしまったりするケースも多々見られます。比較的年齢の高い人が就職活動をするとなると条件があわず、募集企業が限られていることも理由としてあげられるでしょう。そのほか、ブランクがあるため評価が下がってしまう、介護を続けながら就職活動をすることに大きな負担があるなど、さまざまな要因が考えられます。
介護の負担がかえって増大する
仕事と介護を両立する体力的・精神的な負担から開放されたくて介護離職を選択したのに、かえって介護疲れやストレス過多を経験する人も多くいます。
介護量が増え、肉体的に疲労するケースのほか、介護に専念することで社会や他者との関わりが極端に減ってしまい、孤独を感じて精神的にも追い詰められてうつ状態になる介護者もいます。
さらに、家族の介護度が上がる、認知症がすすむ、というようなことがあれば、昼夜問わず常時介護が必要です。休む暇はおろか、自分の時間がとれず、「仕事をしているときのほうがまだよかった」と感じるかもしれません。
介護離職の現状を知り、防止策を検討しよう
現代の少子高齢化や核家族化、共働き世帯の増加などのさまざまな要因から、国や企業が積極的に環境整備をしていかない限り介護離職は今後も増えていくでしょう。
企業における仕事と介護の両立支援のポイントは、「従業員が介護できるよう手助け」をするのではなく、従業員が仕事を続け、かつ、要介護者が最適な介護サービスを受けられるよう「必要な情報提供を行う」ことです。
介護との両立のみならず、これからはますます、従業員のワーク・ライフ・バランスを実現できる社内体制づくりが大切になるでしょう。そのためには、日頃から従業員のメンタルヘルスケアを行い、定期的な1on1を実施するなど、悩みが発生したときに気軽に相談できる雰囲気づくりも大切です。
株式会社UPDATERは、パートナー企業とともに、【企業向け介護コンシェルジュサービス みんなケア】を提供しています。
介護が必要になった従業員の相談対応から、各種手続きの代行・サポートまでを引き受け、しっかりとバックアップ。いざという時も、人事担当や管理職の方がコア業務に専念できる環境をご用意いたします。 ぜひご相談ください。