「備えあれば憂いなし」を実践。従業員ファーストの制度づくりを進めるアルナの健康経営
埼玉県川口市に本社を置く株式会社アルナは、額縁の企画・製造を行う企業です。鹿児島県薩摩川市に自社工場を構え、1枚から大量生産まで顧客のニーズに合わせた生産体制を構築。アルミ製の額を中心に、油彩、デッサン、ポスターからユニフォーム、バット、レコードなどの特注額まで、生活を彩るさまざまな額を提案しています。
また、「グッドデザイン賞」や「DFA Design for Asia」、「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」などで数々の賞を受賞するとともに、経営面では「ホワイト企業認定(プラチナ)」や「健康経営優良法人認定」も取得。さまざまな業界から注目されている企業でもあります。*株式会社アルナ(受賞歴)
今回は、「従業員第一」を実践する株式会社アルナによる健康経営への取り組みについて、代表取締役社長の雪山大(ゆきやま たけし)さんにお話しを伺いました。
「従業員満足度」からスタートした取り組みは、いつしか「従業員の誇り」に
―――御社の事業について教えていただけますか。
雪山:弊社は額縁の製造業をしております。最近ではインテリアショップや量販店などで手頃な価格で販売されている額縁もたくさんありますが、弊社は自社工場を構えていることもあり、価格追求というよりはひとつひとつ手づくりしたオーダーメイドの額縁をメインに扱っています。
一般的に「額縁」というと絵や写真を飾るものというイメージが強いかもしれませんが、それ以外にもユニフォームやボールなど、立体的なものも飾れる額縁も多く製造しており、お客さまのさまざまなニーズに柔軟に対応しております。
また、2019年から外部のデザイナーと組んで、「デザイン」という付加価値をつけた額縁を製造・販売しているのも弊社の特徴ではないかと思います。優秀なデザイナーさんのおかげもあり、取り組みを始めた2019年度からグッドデザイン賞やアジアのデザイン賞など、国内外のさまざまな賞を受賞することができています。その影響もあってか、弊社の商品は業界の中では比較的お値段が高い方ではあるのですが、企業様を中心に多くのご注文をいただいています。
従業員数は30名ほどですが、埼玉の本社には営業や事務などのメンバー5名と私が、その他のメンバーは鹿児島県にある工場で勤務しています。鹿児島の工場では、額縁の主な素材となるアルミ竿のラッピングや組み立てをはじめ、検品や発送までを一貫して行っています。
―――健康経営優良法人認定を目指された理由やきっかけを教えてください。
雪山:従業員満足度を高めたいというのが一番の理由です。もともと「ホワイト企業認定」や「日本で一番大切にしたい会社大賞」など、健康経営に関係する認定や顕彰には取り組んでいたのですが、それらを取得・受賞したことがきっかけとなって第三者からも認められることで、「自分たちの会社はしっかりとした取り組みをしている」と従業員が多少なりとも誇りに思ってもらえていると感じました。
そんななかで、国が推進している「健康経営優良法人認定制度」は、よりネームバリューもありますし、チャレンジしてみようと思いました 。
―――実際、従業員の皆様の反応はどうですか?
雪山:健康経営優良法人認定制度は一般的にも認知度が高く、特に官公庁や大手企業などでは広まっている制度ですので、弊社の従業員がお客様と会話をする際や役所で手続きをする際などに「健康経営」の話になることもあります。そういった時に、改めて自分の勤める会社がこの認定を取得しているということの価値を認識したり、実感したりしてくれているようです。
―――従業員満足度の向上のために、具体的にどんなことをしていますか。
雪山:年に1回、社内アンケートをとって従業員からの率直な意見を吸い上げつつ、5段階のフィードバックをしてもらっており、それを踏まえた取り組みを行っています。
営業と工場では働き方が違うので対応の仕方は異なりますが、営業に関してはリモートでの勤務や休暇の取得について柔軟に対応しています。鹿児島の工場には小さなお子さんがいる方も多いので、休暇の取りやすさはもちろんですが、地域の病児保育が可能な保育園と提携して、お子さんの突然の発熱などがあった際などに預けられる体制も整えています。ただ、活用されているかというとまだまだというのが現状ですが、先回りして準備しておけば安心して働いてもらえる要素になると考えています。
―――たしかに。制度があるということが心強く、安心に繋がりますよね。
ツールやプロの手も借りて、従業員の健康意識を向上
―――健康経営を推進したいけれど、現場との温度差があるケースをよく耳にするのですが、そのあたりは苦労されましたか。
雪山:当社の健康経営推進では、例えば、コロナ禍以前よりWEB会議等は実施していたので、リモートなどの働き方の柔軟性はすぐに導入できましたし、本社では血管年齢や脳年齢などの健康チェックをしたり、工場でのラジオ体操は毎朝欠かさず行ってきたことなど、これまでのさまざまな取り組みがベースにあったので、それほど温度差はなかったように思います。本社に関しては人数も少ないですし私が主体となってまとめつつ、鹿児島の工場の方は副工場長がリーダーシップをとって推進してくれています。素直に受け入れ、協力してくれる従業員ばかりなのでとてもありがたく思っています。
―――健康施策の具体例などはありますか。
雪山:従業員の健康診断が終わったタイミングで地域の保険局の方に来ていただき、健康診断の項目や数字について解説してもらうという取り組みを行っています。それを受けて栄養バランスに気を配ったり、食品を選ぶ際もラベルもきちんと見たりするなどの一人ひとり健康的な食事に対する意識づけができるようにと考えています。
また、生命保険会社さんが提供してくれている“野菜の摂取量を見える化”するというサービスを本社の従業員は利用しています。野菜をきちんと摂れているかがわかりやすく数値化されるので、野菜不足解消に役立っているのではないでしょうか。
快適で魅力のある環境から、“いいもの”は生まれる
―――御社の本社オフィスはとても洗練されていてお洒落な空間だなと感じました。このあたりも従業員に向けた働きやすさや環境づくりといったこだわりがあるのでしょうか。
雪山:ありがとうございます。そうですね、我々は「額縁」というアートの一部を取り扱っておりますので、そういう感覚を大事にしたいですし、そういった感覚を養える環境づくりも大切だと考えています。
加えて、採用面接を受けに来た方がこのオフィスを見てとても気に入ってくれたということも聞いていますし、やはり環境を整える必要性は大きいと思っています。
―――近年の気候変動の影響もあり、夏場の工場では熱中症になってしまう人が多いというお話もよく聞きますが、御社の鹿児島工場の環境はいかがでしょうか。
雪山:熱中症対策としてファン付きのジャケットなども試してみましたが、エアコンの性能を良くするというのが一番だろうということになり、2024年2月に総取り替えをしました。
あとはまだ5年10年先にはなると思いますが、鹿児島工場ができてから30数年経って老朽化も進んでいるのでリニューアル計画も進めています。
このリニューアルに関しては、ただ新しい建物を作るということではなく、きちんとデザイナーさんと手を組んで空間をつくり上げつつ、工場見学を受け入れられるようにしたり、地域の学校の美術部の作品を展示できるようなスペースを設けたりすることなども考えています。せっかくご縁あって鹿児島に工場があるので、長く愛されるような場所にしていきたいですね。
―――鹿児島工場のリニューアルに向けての想いやアイディアをお伺いしましたが、そういったものはどこから生まれているのでしょうか。
雪山:いろいろな勉強会や工場見学に足を運んでいるのですが、そのなかで北陸にある錫物メーカーさんの工場見学はとても印象深く、意識が大きく変わったきっかけとなりました。そちらは製品のデザインに力を入れている会社さんなのですが、工場自体もデザインの力で大きく生まれ変わって、工場のイメージとして連想されがちないわゆる「3K」を完全に払拭していらっしゃいました。
そんな空間自体に魅力がある工場で働いている従業員の方って目の輝きが違って見えますし、やはりそれもデザインの力が大きいのではないかと考えるようになりました。
そして私自身がそうだったように、工場の環境が素敵だと感じると、企業の方はもちろん一般のお客様も「ここで作ってほしい」「ここで作られたものはきっといいものだ」と感覚的に捉えてもらえるのではないかと感じます。
私たちの工場もそんな風に思っていただけるように、リニューアルを進めていきたいと思っています。
製品の価値を高めることは、健全な労働環境づくりにも繋がる
―――デザインが持つ力への信頼とこだわりを感じます。ただ、デザインにこだわることで経営面への負荷は大きくなってしまわないのでしょうか。
雪山:そうですね。どれだけ安く、どれだけたくさん作るかで売り上げを確保するという時代もありましたが、やはりそのやり方では限界があります。じゃあどう差別化するかと考えた時に、やはりデザインかなと。一時的には売り上げは減りましたが、優れたデザインのものを作って賞を受賞したら、価格が高くても売れるようになりましたし、製品そのものの価値を高めることもできました。
また、従業員の意識も変わってきて、自分たちが作っているものの価値を実感して自信につながり、以前のような安易な値引きもなくなっていきました。
―――そういった面も従業員の方々の働きやすさにつながっているのでしょうか。
雪山:値段勝負だった時には、ある程度売り上げを確保できたとしても利益は確保できない状態でしたし、「もっと安くして」「これだけ買うんだから納期を早めて」などといった、今で言うカスタマーハラスメントのようなものも多く、営業が疲弊する場面も少なくありませんでした。
今は、もちろんできるところは協力しますが、理不尽な要望やお取引に関してはお断りしています。
そういうことができるようになったので、売り上げが減っても逆に利益は確保できていますし、従業員の精神衛生にも良かったと思います。また、一時的に売り上げが減ったとしても、新規の取引でしっかりと挽回できるという経験を従業員がしてきているので、そういったところでも良い流れができています。
―――経営者として取引を断るというのはとても勇気がいることだと思いますが、従業員ファーストの姿勢を貫くところに絆を感じます。従業員の方は勤続が長い方が多いのでしょうか。
雪山:十数年前は従業員の入れ替わりが頻繁にあって大変だった時期もありましたが、今はもうほとんどないですね。
それこそ、デザイン賞の受賞やホワイト企業の認定など健康経営を推進し始めた頃から離職率がぐんと少なくなっていったように思います。
また、本社の社員を採用するにあたって、とてもありがたいことに求人募集をかけずに応募いただけているのですが、その面接には若手の営業も面接官として参加してもらっています。応募してくださる方々は皆さん熱意もやる気もある素晴らしい方々なのですが、枠が限られているため応募者全員を採用するわけにはいきません。そんななかで従業員自身が面接官という役割や経験を通して色々と考え、悩みながら、改めて自分にできることを思案し、ここで働くことの喜びや意味、仕事への誇りなどをつかみ取りながら成長している様子を見て取れるのです。そういったところも従業員のモチベーションアップの要因となり、離職率の低下に繋がっているのではないでしょうか。
―――歯車がうまく噛み合い、好循環が生み出されていっているのですね。
メンタルヘルスの問題は誰にでも起こりうるもの。だからこそ起こる前に体制づくりを
―――最後に、今後重点的に取り組んでいきたい健康経営のテーマを教えていただけますか。
雪山:今後重点的に取り組みたい健康経営のテーマとしては、「メンタルヘルス」が挙げられます。
幸いなことに現時点で弊社内にメンタルヘルスに不調を訴える従業員はいませんが、メンタルヘルスの問題というのは 誰にでも・いつでも 起こりうるものですし、常に可能性を考えておかなければならないものだと思います。
今は2か月に1回のペースで面談を実施していますが、これからも心身ともに健康な状態で働いてもらえる環境や制度の整備・管理への努力は絶えず続けていきたいと思っています。
また、気軽に話し合いや相談ができる関係を築くことで、何か問題になりそうな芽があったとしても、少しでも小さなうちに取り除けるようにすることも大切ではないかと考えています。
―――「起きてから対処」ではなく、起きるかもしれない「かも」に対して時間や労力、お金をかけることで、従業員が不安なく働けるように心を配っている姿勢がとても印象的です。
1967年の創業以来58年、社員やその家族の頑張りのお陰で、額縁を作るメーカーとして多くのお客様から信頼と信用を得てきました。弊社の目標は「300年企業」。「300年企業」になるためには常に変化し続ける必要があります。変化が必要なのは商品ラインナップや得意先のみならず、社内制度もしかりです。常に時代にあった取り組みを実施し、社員が誇りを持って働き、その成果を世界へ発信できる企業に成長させていきます。
<プロフィール>
株式会社アルナ https://aluna.co.jp/
代表取締役社長 雪山 大