神奈川県厚木市にある株式会社大和ケミカルは、独自の配合技術と高度な製造技術をもつゴム製品製造・メーカーです。50年以上にわたって積み上げてきた製造ノウハウを軸に、タイとベトナムにも拠点をもち、国内からASEAN市場へと良質な製品を届けています。
経営理念にある「改革意欲」や「明朗で活発な社風」は、従業員が心身共に充実し健康に過ごせることから生まれると考えた理由から、2019年に企業としての『健康宣言』を行いました。以降、健康経営法人や健康優良企業に認定され、2021年からは経済産業省の実施する健康経営優良法人認定制度の中小企業法人部門にて「ブライト500」に4年連続で選出されています。
今回は、株式会社大和ケミカルの健康経営への思いやその取り組みについて、代表取締役社長の中村さんにお話を伺いました。
※「ブライト500」とは、健康経営優良法人の中から「最も優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。
成果を定量的に分析。大和ケミカルの健康経営への取り組みとは
―――まずは株式会社大和ケミカルの事業内容についてお聞かせください。
中村:弊社は工業・医療用のゴム製品の製造と販売を行っているメーカーです。自動車や家電、医療機器など、さまざまなところに使われているゴム製品を製造しています。部品をシールするためや振動防止など、多くの部品が製品の内部に取り付けるものなので、目に見えないところで地味に活躍しています。目にする場所にある部品で一例をあげるとすると、パソコンのキーボードの裏側に滑り止めとしてついています。
現在は国内の他にタイとベトナムにも工場を持ち、3カ国4拠点でものづくりをしております。創業は昭和47年、父の代からスタートして、私が2代目です。代替わりをして10年ほど経ちました。
―――健康経営に関する施策をはじめようと思ったきっかけはありますか。
中村:当時、商工会議所の紹介だったと思うんですが、2019年に保険会社から「健康経営」の説明を聞いたんです。初めて聞いた言葉だったので、最初は「財務健全」みたいなことかなと思っていたのですが、「健康」とは本当にそのまま、従業員の心身の健康についての話だったので驚きました。
「健康」と「経営」、紐解いてみると当社の理念にも寄りそうものですし、私自身も少し課題に感じていた部分でもあったので、ちょっとおもしろいなという感じでスタートしたのがきっかけでした。
―――取り組み始めた当時とその後、いかがでしたか。
中村:健康経営を進めている企業のみなさんは遠からず同じような気持ちがあるんじゃないかなと思うのですが、「健康経営の実践で業績が良くなった!」と明確なかたちではなかなか出てこないんですよね。そのなかで、どこまで会社としてケアをしていけるかという課題はありますし、健康経営をすすめるほど財務が健全でなくなってしまっては元も子もないので、費用面とのバランスを考えながら、それぞれの会社が工夫をし、従業員の健康のために尽くせるような活動を頑張っているというのが実状なのではないでしょうか。
しかし、私どももなんとか健康経営の成果を可視化できないかと考え、東海大学のチームと連携して分析してみたんです。
健康経営をはじめた最初の1〜2年は、会社側としては施策の社内周知を図るものの、従業員側の理解は進まないことがほとんどでした。さらに、当時はコロナウイルスの蔓延によって、みんなで集まって運動するような機会も作れない時期でしたから、周知はしていてもなかなか浸透させることができず。そういった背景もあったと思いますが、分析の結果、健康経営についての満足度はわずか30%でした。会社としては一生懸命やっているつもりでも、従業員のみんなにはほとんど実感してもらえていないということがわかりました。リアルに数値化されたことでその満足度の低さにびっくりはしたんですが、そこから諦めずに持続的に健康経営を取り組んできたことで、今では「ブライト500」にも認定されるまでになって、従業員の協力体制が確立されてきたことを感じます。従業員一人ひとり、施策の内容や目的についても理解が深まっていますね。これらの取り組みを会社側の自己満足で終わらせてはいけないですし、福利厚生などの施策も含めて従業員満足度の分析は今後も行っていきたいですね。
自分たちに適した施策の模索と持続的な取り組み
―――健康経営のため、また従業員満足度をあげていくために、まずどんなことから始めましたか。
中村:健康経営に取り組み始めた当時、コロナ禍で‟ソーシャルディスタンス“の真っただ中でしたから、みんなで集まることや運動などが難しい状況だったので、まずはできることを模索しました。健康情報に関してのリーフレット配布や社内での掲示をするなどしていましたが、それに加えて、従業員のメンタルヘルスケアのサポートが最適だと感じたんです。年に1回、全従業員対象の個別健康カウンセリングを実施することにしました。カウンセリングは従業員一人ひとりに対して行うため、人を集めなくても実施できますよね。従業員全員が保健師やカウンセラーと面談を行い、体調面の不安やストレスなどどんな内容でもいいので話すことから始めてもらいました。更に相談を希望する場合には継続サポートをしたいと考え、7回までは会社がカウンセリング費用を負担するようにもしたんです。これによって従業員がもつ不安や悩みに対して早期にケアできるようになったので、一定の成果があったと感じています。
―――メンタル不調などは本人も気付きにくいこともありますよね。定期的なそういった機会はありがたいものだと思います。他にも御社ならではのお取り組みはしてらっしゃいますか。
中村:毎朝実施する「ラジオ体操」には力を入れていて、本社は40年、タイも25年、べトナムでは10年継続実施しています!本社の従業員全員で、NHKの体操のお姉さんから指導を受けるという機会を設けたこともありまして、プロの人から直接教わったことで、姿勢や手の位置とかが劇的に変わるんですよ。なんとなく身体を動かしていた体操から、本当に身体に効く体操に変わったように思います。2023年にはラジオ体操の普及奨励に寄与した団体として、「ラジオ体操優良団体等表彰受賞者」にも選ばれました。
―――ブライト500企業になったことで、何か活動に変化はありましたか。
中村:そうですね、神奈川県内の企業さんに健康経営の実践を勧めるためのパネルディスカッションやセミナーに登壇依頼されるようになり、健康経営が企業にとって当たり前のものになっていくための推進活動に協力させてもらう機会が増えました。そういうお話があれば積極的に参加するようにしています。
内容はケースバイケースですが、健康経営をこれからはじめる企業に向けたディスカッション形式であったり、他社さんがやったことのなさそうな施策について、取り組みの幅を広げるための質問形式であったりします。参加することで、自分たちも取り組みの成果をあらためて感じることができたり、今一度見直して次の目標設定をすることができたりと良い機会になっています。
―――ブライト500企業になったことで、感じていらっしゃる効果は具体的にありますか。
中村:ブライト500の認定を受けたことによって、従業員が「自分たちの会社の健康経営は高く評価されている」という認識を深めてくれているのを感じています。「もしかしたら他の会社よりも少し良いことをやってくれているのかもしれないな…」と従業員が思ってくれていたらそれで十分ですし、その期待に応え続けていきたいと思います。
従業員の高齢化にもそなえた先行投資型「健康経営」
―――健康優良法人認定制度には多くのチェック項目がありますよね。特に難しく感じたカテゴリーなどはありますか。
中村:運動機能に関する項目は達成するのにやや苦労しましたね。今後は、自治体主催のウォーキングイベントへの参加や会社主催でハイキングの企画をするなど、みんなで集まって取り組めるような運動施策を始めようかなと思っています。
また、今年は5年ぶりに日帰りの社員旅行を企画しているんです。従業員の参加は全体の約半数程度ですが、その家族も一緒にと考えているので総勢80名くらいで実施する予定で楽しみにしているところです。その他にも、従業員満足度向上を目指すべく施策は常に検討していて、どこまで整備できるかという点は悩みどころではありますが、特に育児・介護の両立支援あたりはコストとのバランスを調整しながら真剣に考えています。
―――中小企業にとっての健康経営は金銭的な負担が大きいと感じるという声も多いですが、
改めて、御社はどのようにお考えになりますか。
中村:世の中の景気がまだ決して素晴らしく良い状態とは言えない中で、コストと感じる気持ちは共感できます。ただ同時に、社会全体で従業員の高齢化も進んでいますし、若い人の採用が難しくなるなかで定年年齢も引き上げられていくと思うんです。弊社も今年就業規則改定をして、上限を70歳に設定しました。元気で永く活躍してもらえるように会社としてもサポートは欠かせないものだと思いますし、年齢に関わらず、心身の不調が業務の支障になるリスクは高いので、予防策として健康には“投資をする”と考えています。
―――この先も見据えた、先行投資というわけですね。
最後に、さらにこれから力を入れていきたい分野、御社の展望などをぜひお聞かせください。
中村:弊社は従業員の半数近くが女性なんです。例えば、当社の工場もあるベトナムでは労働法で生理休暇や出産休暇など女性に関するさまざまな規定がしっかり定められているんですよ。女性労働者の支援やケアを国としてどのように行っているのか、日本の本社でも参考にできることがないか精査したいと考えているところです。
これから日本は更に少子高齢化社会へ向かっていく為、労働人口不足に対する工場のオートメーション化や、高年齢者が働きやすい職場環境づくり、従業員のご家族介護と仕事の両立支援等、工場の生産性と明朗活発な社風を維持する為に出来る事を身の丈に合わせ段階的に進めて行きたいと考えています。また、将来的には弊社の健康経営の活動をタイ・ベトナムの海外拠点へも水平展開し、大和グループ全体の生産性&笑顔向上につなげたいと思っています。
<プロフィール>
株式会社大和ケミカル http://yamato-chemical.co.jp/
代表取締役社長 中村英寛