日本は世界一のお産安産国と言われており、新生児の死亡率は最も少なく、妊婦死亡率を見ても10万人に5人と世界の中では出産によるリスクは非常に低いといえます。
一方で、妊産婦の死亡の原因として最も多いのが自殺であることがわかっており、日本では10~15%の母親が産後うつになるとみられています。産後うつは、自死や育児放棄、子どもへの虐待、家族関係の悪化など、さまざまな社会問題と深く関わっており、2014年より「妊娠・出産の包括支援モデル事業」として、国も産後ケア事業の支援を開始しましたが、コロナ禍以降は子育てする母親を取り巻く環境がさらに深刻化しているのが現実です。
参照)
国際貢献・国際交流に必要な準備開発途上国・地域における医療事情・特徴 (p.1154)
東洋経済ONLINE 「産後うつ」女性の不安があまりにも危ないワケ
神奈川県横浜市に、現代の女性たちのライフステージに寄りそった観点から、より良い子育て環境や社会を実現するべく、母体である「みやした助産院」をベースにさまざまな支援事業を展開するNPO法人があります。
子育てにおける母親の不安をひとつでも取り除き、スタートを伴走していくことで、健全な親子関係や子育て環境を構築するお手伝いをしています。
今回は、前編インタビューに続き、子育て支援の現実と今後の展望について、NPO法人WooMooの理事長・宮下さんと副理事長・廣木さんに話を伺いました。
小学生支援の課題と現状
ーーーインタビュー前編では、育児環境を取り巻く社会的課題について伺いました。
それらを支援するために必要な事業を拡大されていますが、運営する中で困っていることはありますか?
人材や資金的な課題もありますが、小学生の支援ではさまざまな問題に対して、専門の先生につないでいくこと、早期に適切な対策をすることが大切だと感じています。
根本的な問題に発達障害があるかもしれないというケースも多いのですが、私たちからご家族の方に専門の先生へのご相談を提案してみるにしても、心情的にすぐには受け入れられないということもあります。
例えば、子どもが癇癪をおこして暴言・暴力をしたとしても、私たちスタッフは怒ることはせずに見守り、子どもたちの感情をすべて受け止めようと心がけますが、家に帰ったらそれが発達特性によるものだとはなかなか理解されずに怒られてしまい、またここに戻ってきてしまう家庭もあるのです。
これを繰り返すだけでは子どもたちが本当に安心して過ごせる環境を作ることは難しいと思いますし、専門の先生に支援してもらえなければ本当の解決にはつながらないと考えます。
私たちとしては、子どもが根本の部分で何に困っているのかを知りたいので、専門の先生に相談して子どもの様子を把握するなどの対応はしており、先生方と密に連携を取っています。最後は家庭につないでいき、保護者にも子どもの特性を理解してもらい、多方面から子どもの成長を見守っていくことが大切だと考えています。
ーーー小学生の支援はなかなか難しそうですね。
そうですね、小学生は自分である程度のことができますし、家でのことを理解し全部話せるようになり、家庭の状況などもわかります。学年が上がれば自ら家を出ていくこともできますし、未就学の子どもたちとは支援の仕方が異なる難しさというのは常々感じているところです。
「M-HOUSE三春台」ではお母さんの支援がメインで、私たちと行政との連携もとれているので何かあっても安心して繋ぐことができています。未就学までは行政の支援も手厚いですしね。でも小学生にあがると、すべての権限が親にしかなくなります。例えば、その子に発達障害があろうがご飯を食べていなかろうが、学校も強く言えません。小学生になると教育の側面が強くなり、保育園のような周囲からのフォローができない状態になってしまうんです。
把握しているだけでもそうした子どもたちがいるので、世の中にはもっと多くの支援を必要とする親子がいると思うと、小学生へのケアがこんなに手薄で大丈夫なのだろうかと心配になります。保育園までの手厚い支援状態が小学校入学と同時に途切れてしまうのではなく、せめて…、まだまだ小さな低学年へのケアはもう少しあったらいいなというのはありますね。
WooMooが描く理想の姿とは
ーーー施設の運営において、理想の形や目指すゴールはありますか?
当初は子どもが自分で気軽に立ち寄れるような場所を作りたかったんですよね。「絆創膏ちょうだい」とか「一緒におやつ食べよう」とか。でも実際にはアレルギーやトラブルなどのさまざまなリスクから、現代で事業として行うには、どこの誰かも把握できない状態で子どもの支援に携わることができません。
困っている子どもたちが、親を介さずにここへやって来ることができないという意味では、本当に守りたい子どもたちが守れない現状はあります。それでも私たちは、私たちにできることで、支援を必要とするお母さんや子どもたちをひとりでも救いたいという想いでやっています。本当に困っている人たちはヘルプを出すということ自体が難しいと思うんです。
もっとみんなの身近に助けを求められる場所、気軽に相談できるような場所が日本中にたくさんできることが理想だと思っています。
ーーー利用者にとってはいかがでしょうか。どのあたりが出口となるのでしょうか?
どの事業においても、自立や安定が目標になるのかなと思うのですが、ここでの経過を見守っていると、年齢を問わず親子ともに落ち着きが見られたらひとつのゴールではないかと感じます。
ここに来られた方の多くは長い時間をかけて、親子で葛藤している印象を受けます。自分の手を離れて育っていく子どもの現状を受け入れられない親と、子ども自身もどんどん成長して自立していこうとすることから親子で対立が起きます。何かできることが増えたとかではなく、お互いにある葛藤を乗り越えて、親子でどうにかやっていけそうだなというところに行き着いたら、そこが出口かと思います。時間は必要ですが、すこし肩の力が抜けてくる頃には、お互いのより良い関係が見えてきているのかもしれません。
ーーースタッフの皆さんの見守りのなかで、自分たちで解決していくんですね。
産後ケアも小学生の子たちのケアも同じで、私たちが適切な方向性や正しい道筋を示すことはできません。
家族にとって何が正しくて、幸せなのかということは私たちが押し付けることではなく、自分たちで決めて生きていけるようにすることです。自立できるようにというのは一つの目標ですが、私たちのところに来たから必ず自立できるとは言えないし、ここに来たときにできる限りのサポートをしたいと考えています。
例えば子どもたちに、いくら周囲の人たちが良かれと思ってたくさんの選択肢を見せてあげたとしても、さまざまな事情で叶えられないという家庭環境にある子どももいるのです。働けるようになったら、今ある家族を養わないといけないというような子どもたちに、好きなことを見つけて夢を持ってほしいなんてきれいごとばかりは言えません。ただ目の前のことを一緒に一つひとつ乗り越えていこうと思っています。
ーーー親子で解決できる方法を早い段階から考えていきたいですね。
そうですね、困っている人ほど相談できない人が多くいます。突破口は、私たちに心を開いても大丈夫なんだと思ってもらえることです。助産院では妊娠の10か月の間にお母さんとの関わりが非常に深くなるため双方に信頼や安心感があります。子どもがある程度大きくなってから、症状や実態が深刻になってから相談に来られた場合は、まず親との関係性を深めることに時間がかかります。
さらに、子どもたちは成長とともに自分の意志もはっきりしていて、親との関係性も崩れている状態であることが多いので、なかなか手を付けられないんです。ちゃんと相談できる人がいるかいないかで全然違いますからね。すこしでも早く助けを求めてほしいですし、相談できる人や場所がもっともっとあるべきだと感じています。
ーーー今後新たな事業を始めていくとのことですが、今後の展望についてお聞かせください。
これから展開する二部制にしていく施設では、食事の支援もしていきたいと考えているのですが、実情では給食を食べるために学校に行っている子もいるそうです。命をつなぐために、学校へ通っている子たちがいるというのは驚くべき現実です。
私たちの施設には、教育委員会の方が現場を見学に来ることもあります。行政としても、2014年から開始された産後ケア事業の支援を経て、子どもたちや子育て環境の現実に課題は感じているのでしょう。これからどのように対策・支援していくのか、協力し合い解決していきたいですね。
本当は今すぐにでも救済してほしい社会問題であり、もどかしい気持ちもありますが、救える人は限られていようとも、私たちは目の前にある大切な命を、助けを求めている人を、精一杯支援していくしかないんだとあらためて感じています。
子どもの居場所「Tsubame」(つばめ)に関しては、日本財団の補助金を得て事業をしていますが必要な人への手厚い支援をしようと思うとまだまだ資金が不足している状況です。より多くの人にこの活動を知ってもらい、モデルケースを増やしていくことで、社会全体でお母さんや子どもたちを守っていきたいです。
インタビュー・前編記事はこちら➤➤➤https://minnaair.com/blog/5296/
NOP法人 WooMoo https://www.npo-woomoo.com/
理事長 宮下美代子 副理事長 廣木彩子