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福島の鉄道インフラを支える 菅澤建設の健康経営とは

株式会社菅澤建設は、福島県二本松市に創業した一般土木・鉄道土木事業を行う会社です。線路、橋梁などの鉄道設備の新設・補修を通して、地域の人々の暮らしを支えてきました。生活や経済活動の基盤であるインフラ整備に携わる企業として、~あなたとともに「歩む」「変わる」「未来へ」~というスローガンを掲げ、その取り組みは、5本柱の経営理念に基づき、人や環境にやさしい仕事に徹し、社会から必要とされる企業を目指して「安心」「安全」な地域社会づくりを実践しています。

また、それらの活動の根底として、従業員の「成長」「健康」「幸せ」のサポートにも注力しており、健康経営®を推進しています。2016年から始動し、2020年には健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定を初めて取得。さらに、2021年からは「ブライト500」*に5年連続で選出されるという、たゆまぬ努力を成果につなげている会社です。

今回は、株式会社菅澤建設が健康経営にチャレンジした経緯や取り組みについて、ご担当の山本さん、喜古さんにお話を伺いました。

※「ブライト500」とは、健康経営優良法人の中から「最も優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。

「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

参照:健康経営優良法人認定制度|経済産業省

 

社内の雰囲気づくりから始まった健康経営への取り組み

 

―――菅澤建設さんは鉄道関連の工事会社ということで専門的な建設業になりますね。

 

山本:技術的にも鉄道関係は専門的な工事になります。弊社の事業領域は、線路のメンテナンス・新設を行う軌道工事部門、駅のホーム、橋梁、トンネルなどに関する鉄道土木工事部門とあり、福島県内では線路などの軌道工事と鉄道土木工事の両方ができる会社は弊社だけになります。

私どもが担当するのは福島県内がメインですが、現在、北海道新幹線が延伸しているのでそちらへの出張の予定もあります。一般の土木工事部門では地域の道路工や河川工事なども手がけています。

 

―――では、お二人の健康経営に関する役割を教えていただけますか。

 

山本:健康経営に関する大きな方針は社内の安全衛生委員会で協議・決定されますが、実行・推進していくのが私たちふたりです。健康推進に関する施策を企画・立案するのは主に私が担当しておりまして、その活動を社内外にアピールする広報的な役割は喜古が担っております。

実は、10年前まで弊社の従業員数は現在の半分ほどだったんですが、増員が必要になり短期間で倍の80名くらいになったんです。従業員数が50名を超えると衛生管理者を設置する必要がありますので、元々、看護師で保健師の資格もある私が、衛生管理者として入社することになり健康経営を進めていくことになりました。

 

―――山本さんは健康に関わる専門的な知識をお持ちということですね。どんなことから健康経営に取り組むことになったのでしょうか。

 

山本:短期間で倍ほどの人数に増えたことで従業員間のコミュニケーションにすこし課題が生じたていたんです。ちょうどその頃に、社長が「会社の土台である従業員の健康づくりに力を入れていくべき」という方針を示しまして、社内の雰囲気づくりにも健康への取り組みを活かそうということになりました。

 

―――雰囲気づくりに「健康」を選んだというのはユニークですね。

 

山本:まだ健康経営という言葉も今ほど馴染みのなかった2016年あたりからスタートしまして、最初は血圧計を設置する、健康診断の結果を見直してみるなど、本当に簡単なところからの一歩でした。具体的な施策を考えていくにあたっては、まずは従業員の健康状態や職場環境のどのあたりに問題があるのかを探ることから始めました。

見えてきたのは、鉄道工事の仕事は夜間作業が多いため、どうしても生活のリズムが崩れがちになること。またそれに起因するのか、健康診断の結果から生活習慣病につながりやすい傾向にあるということもわかってきました。それで、まずは血圧計を社内に置いて、健康を意識してもらうことから始めようと考えました。血圧は誰でも簡単に測れますし分かりやすいですから。

 

従業員の意識も、企業イメージも向上させた健康経営優良法人認定

  

―――なるほど、まずは健康を意識してもらうきっかけを作ったんですね。
それにしてもその後、わずかな期間で健康経営優良法人ブライト500の認定を受けるまでになっています。

 

山本:まず、弊社の社長が健康経営をはじめSDGsに関する活動に熱心で、やるからには本気で取り組んでいこうと。 そんな社長の後押しがありましたので取り組みはスムーズでした。申請など具体的なことに関しては、担当の生命保険会社さんにご協力いただきながら進めていきました。

取り組みの第一段階としては、福島県が、健康増進に取り組む県内の企業向けに行っている「ふくしま健康経営優良事業所」の認定に動きました。そういった認定を得ることが従業員の意識を変えることに役立つと判断したんです。おかげさまで2018年に認定を受けることができまして、2020年には経済産業省の「健康経営優良法人」に認定され、2021年からは5年連続でブライト500にも入ることもできました。

こうした認定取得に向けた取り組みが、従業員の健康維持・増進に寄与したのはもちろんですが、お取引先様や地域の皆様に「菅澤建設は、しっかりとした会社」というイメージを持ってもらうことやワークエンゲージメントの向上にもつながったという実感があります。

 

中小企業でも健康食をローコストで提供できる「置き型社食」の導入

 

―――ここはこだわった、という取り組みがあれば紹介してください。

 

山本:いくつかありますが、そのひとつは課題であった生活習慣病のリスクを下げるための食の改善への取り組みですね。「オフィスおかん」という、会社向けの「置き型社食」というサービスがありまして、管理栄養士が監修した主食、主菜、副菜などの健康メニューが自販機に収められていて、従業員はそこから好きなものを選んで食事ができるというサービスです。この仕組みを弊社の事情に合うようにアレンジして利用させてもらっています。

食事と同時に飲み物の自販機のセレクトも変えまして、それまでの加糖の炭酸飲料や缶コーヒー中心から野菜ジュースなど健康的なものにしました。これが思いのほか利用が多くて、今ではもっとトクホ(特定保健用食品)飲料を入れてほしいという要望もくるようになりました。

 

―――皆さんの意識がどんどん変化していったんですね。

 

山本:導入後1年くらいした頃には、「実はあれ、砂糖がすごく入っているんだよ」とか、従業員同士の会話でも健康に関する話題が多くなりました。健康セミナーを開催しても最初は嫌々という感じだったのが、徐々に自主的に参加してくれるようになって、今では「こんなセミナーをしてほしい」と提案までしてくれるようになりました。

  

――― その他にはどんなことがありますか。

 

山本:弊社では栄養セミナーというのを定期的に開催しています。その中で好評だったのが、野菜摂取のレベルを手のひら(の皮膚表面)から測る「ベジチェック」というものがありまして、野菜不足量の目安がその場で判るというのがポイントなんです。見える化はやはりすごいですよね。“野菜のおかずを増やしてみよう”とか、“もっとサラダを食べよう!”などと、すぐに食事の改善につながる効果的なチェックだったと思います。

塩分の摂取量についてのセミナーも好評でした。たとえばお味噌汁ですが、お味噌の量を少なくしても、出汁や薬味で美味しくできるということを実際に飲み比べをしてもらったんです。その後、ずっと続けられている従業員もたくさんいるので体験型セミナーは有効だと実感しました。このような食のセミナーは、もっとやってほしいという声が多いので今後も続けていく予定です。

 

やめたい人と、応援する人のチームで取り組む禁煙チャレンジ

  

―――健康経営の担当者さんの悩みとして、喫煙対策や特定保健指導の受診率についての話がよくあがりますが、御社ではいかがですか。

 

山本:弊社では、従業員メンバーから「いいね」と好評な禁煙チャレンジがあります。禁煙の取り組みを始めるまで、実は弊社の喫煙率は80%超えという恐ろしいデータを誇っておりました(笑)。2020年の4月には、健康増進法により受動喫煙防止対策も施行されましたし、会社としても禁煙化を進めようということになったんです。

最初はセミナーを開いたり、禁煙の相談窓口を設置したりして、従業員の喫煙率は50%くらいまでは下がったんですが、そのあたりで止まってしまったんですね。それを何とか打開しようという知恵を絞りまして、禁煙する人とサポートする人をセットにしたチームで禁煙にチャレンジするという案を実施しました。

サポーターは従業員同士でも家族でもOKです。期間は約6カ月間で、成功できたら禁煙者だけではなくチームに報奨金が出るという仕組みにしました。サポーターで多かったのは奥様で、監視のプレッシャーが凄いのか、皆さん達成が早い感じでしたね(笑)。

 

―――禁煙達成者に報奨を出すと、タバコを吸わない人に対して不公平があるのではと考えましたが、チーム制ならその点も解消できて、素晴らしいアイデアですね!

 

喜古実は、いま私も禁煙チャレンジ中なんです。健康経営の担当者になったので、止めないと説得力ないですからね。サポーターは妻で24時間監視されていますからプレッシャーは半端ないです(笑)。

 

山本:特定保健指導については、従業員の仕事のひとつとして捉えていまして、勤務時間内の受診としていますので全員、つまり100%です。 ただ、やっぱり最初は大変でしたよ。勤務に支障があったり、本人に負担にかからないよう所属長と相談して日程調整をするなどしたり、会社としてしっかり取り組んだからこそ100%にできたと思います。

 

ヘルスリテラシーの定着は、体感型セミナーや普段からの声かけ

 

―――どの取り組みもスムーズに進んでいるという印象ですが、ハードルがあったということはありますか。

 

山本:禁煙以外では生活習慣の改善のところですかね。一定のレベルまでは成果を感じてきているんですが、まだ完全には定着できていません。全国の衛生週間に合わせて、会社として実施する健康集中月間の際には指標が改善するんですが、そこを過ぎるとまたなんとなく元に戻ってしまうという課題があります。

 

―――定着させていくための取り組みなどはありますか。

 

山本:ひとつは2024年度から始めている「ウォーキングチャレンジ」があります。福島県提供の歩数を記録できる「ふくしま健民アプリ」を活用して、会社の皆で半年間の歩数を競うというもので、上位3名にはチャレンジ手当が支給されます。 地域柄、クルマ社会なので、毎日たくさん歩くということがあまりないと感じています。ですから、こういうことをきっかけに習慣化してほしいと思っています。

食生活にしろ、運動にしろ、健康習慣を定着させるためには、従業員の皆さんが自主的に健康づくりに取り組めるようになるというのが一番の目標です。会社としては、ヘルスリテラシーを向上できるように情報提供を欠かさず、しっかり身に付くような体験型イベントやセミナーをどんどん実施していくつもりです。

また、健康指導で心がけていることは、できるだけ相手の話を聞くことですね。こちらから押し付けてもブロックされてしまうので、相手のことをよく聞いてから話すようにしています。それから、普段からのコミュニケーションも大切にしています。「調子はどう?」とか、「ちゃんと睡眠とれている?」とか、そういう普段からの声掛けで関心度を下げないようにしています。

 

 

離職率は業界の1/3、採用も順調。 健康経営は選ばれる会社の条件に

 

―――健康経営は企業にとって「人を活かす投資」でもあるわけですが、売上、採用、ブランディングといったところで目に見える成果は表れていますか。

 

喜古まずは現状で離職率が3. 8%となっていまして、建設業の平均約10%に比べるとかなり良い数字だと思います。いま、建設業は人手不足に悩んでいますが、弊社は新卒を含めてコンスタントに採用できていますので、そこも成果のひとつと捉えています。また、アブセンティーズムやプレゼンティーイズムという目に見えづらい課題も、取り組み前に比べて減ってきていると印象を持っています。

 

―――健康優良法人であることが採用面でプラスになっているんですね。

 

喜古間違いなく、弊社が選ばれるひとつの要素になっていると感じています。学生さんや保護者の皆さんが就職先を選ぶにあたり健康経営に取り組んでいるホワイト企業かどうかをチェックされているのではと思います。

 

自社だけで難しいことは、地域の会社と一緒にやればいい

  

―――今後さらに、力を入れていこうという取り組みがありますか。

 

山本:弊社の健康経営に対する考えは、一時的なものではなく、生涯を通して従業員の健康をサポートしていくものと捉えていますので、何よりも継続していくことが重要になります。ただ、中小企業の場合はそういった取り組みにふんだんに予算を割けるわけではありません。自社だけで難しいことは、二本松市さんの協力も得ながら地元企業がまとまって取り組み、解決していくという構想を持っています。

 

―――素晴らしいですね。地元企業さんと協力してできる取り組みとは、たとえばどんなことでしょう。 

 

山本:この地域には飲食店が少なくてお弁当の会社も多くはないので、健康的な食事を望んでも選択肢が少ないんです。健康に特化したお弁当を頼むとしても、1社からの要望ではコストや手間を考えれば、なかなか実現が難しい。でも、多くの会社が集まっての発注ならどうでしょう。お弁当会社さんや飲食会社さんも応じられるんじゃないでしょうか。

運動に関しても、地域の会社が集まってスポーツイベントを開催するとか、合同でフィットネスジムと契約するとか、できることがいろいろ考えられます。まだ私の頭の中だけの構想なんですが、今後、こういったことが実現していけたら、弊社だけでなく地域企業の健康経営のレベルも向上していくと思っています。

 

 

<プロフィール>

株式会社 菅澤建設 https://sugasawakensetsu.com/

総務部 衛生管理者 山本 桃子

総務部 総務課 喜古 弘光

 

 

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