株式会社日立システムズは、システムの構築や運用・監視・保守、ソフトウェア開発などを手掛けるIT企業です。強みの一つが、日立グループ各社やビジネスパートナーとの連携による事業展開にあります。また、プロフェッショナルな人財、サービスインフラを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を顧客やパートナー企業とともに推進し、時代が求めるイノベーションを追求し続けてきました。
企業理念に掲げる「真に豊かな社会の実現への貢献」の実現に向け、従業員一人ひとりが個々の能力を発揮できる職場環境を整備。社長直轄の独立した組織「健康経営推進プロジェクト」を設置し、全社をあげて健康経営を推進しています。健康経営優良法人の認定では、2018年度から8年連続で取得。さらに大規模法人部門の認定企業の中でも特に優れた上位500社に与えられる「ホワイト500」に、2023年から3年連続で選出されています。主力事業のIT技術をうまく駆使しながら健康経営に取り組んでいます。1万人強の従業員が働く日立システムズ。大きな組織の隅々まで健康経営を浸透させるべく奔走する、健康経営推進プロジェクト担当部長の佐々木幸太郎さんと人事総務本部安全衛生部主任の岩瀬朗子さんにお話を伺いました。
「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営推進のため、社長直轄の独立した組織を創設
――まず御社の事業や業務内容についてお聞かせください。
佐々木:弊社は、システムのコンサルティングから構築、運用、保守までをワンストップで提供しているITサービス企業です。強みは、さまざまな業種のお客さまとともに課題解決してきた過程を通じて、各業種の知識やノウハウを蓄積していること。また、日立グループ各社、ビジネスパートナー様との連携によって、お客さまの業務システムや社会インフラのDXも推進しています。日立グループが掲げる「サステナビリティ戦略」のもと、「環境」「社会」「企業統治」の観点を考慮した経営を推進し、真に豊かな社会の実現に貢献することをめざしています。
――そうした事業を行う中、健康経営に取り組まれていると思いますが、お二人はそれぞれどのような役割をされているのでしょうか。
佐々木:私は、人事総務本部の中にある安全衛生部に所属し、主に衛生分野を担当しています。健康診断の実施やその後のフォロー、心と体の両面からの休職者への対応などで、従業員の健康を日々見守っています。その一方で、2021年に立ち上がった社長直轄の独立した組織「健康経営推進プロジェクト」のメンバーでもあります。同プロジェクトは安全衛生部とも連携を取りながら、健康経営に取り組んでいます。
健康経営推進プロジェクト担当部長(兼)人事総務本部 安全衛生部 部長代理
佐々木幸太郎さん
岩瀬:私も佐々木と同様、安全衛生部の所属で衛生分野の担当です。部署の中にいる産業医、保健師と意見交換をしながら、従業員が生き生きと働ける施策を企画し、運用しています。
人事総務本部 安全衛生部主任 岩瀬朗子さん
――健康経営に取り組み始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
佐々木:弊社が健康経営への取り組みを本格化したのは2017年度からです。ちょうど世の中で健康経営がトレンドになってきていた頃でした。当時は、「従業員のエンゲージメントを上げることで、企業の活力を上げていこう」というところから取り組みが始まりました。企業活力向上施策「SMILE Work∞Life Action(スマイルワークライフアクション)」として、生産性向上、ブランド価値向上、健康リスクの軽減、従業員のエンゲージメント向上という4つの大きな目的を設定しました。これらの目的を達成するために何をすべきかを考えた際、挙げられたのが健康経営です。会社が従業員の健康を気づかうということはエンゲージメントが上がり、従業員の健康リスクが軽減して健康であれば生産性も上がっていくと考えました。
また、健康経営優良法人の認定に関しては、しっかりと取り組んでいることを客観的に外部から評価していただくことで、ブランド価値や従業員のエンゲージメント向上につながると考えました。実際に健康経営に取り組む中で、従業員が健康になっていくのを目の当たりにしており、従業員の健康を維持しさらなる向上を実現していこうと、認定を取得することになりました。
アプリ活用でフィジカル・メンタル双方の状態を把握
――御社で実行されている施策について、具体的に教えてください。
佐々木:取り組みの一つが、スマートフォンアプリを使った健康支援です。2種類ありまして、その一つが、健康経営推進プロジェクトの一環で実施している「Smart Oneクリニック(次世代診療所)」です。これは、フィジカル面での取り組みです。東京・大崎の「祐ホームクリニック」との提携により、スマートフォンにアプリを入れてもらうと、オンライン診療ができますし、希望すれば対面での診療も可能です。弊社の従業員の優先枠があるので、使いやすい点も特徴です。さらに、予約やクレジットでの支払い、薬の郵送・宅配も可能。診療や薬の受け取りなどの待ち時間がなく、全てオンラインで済ませられる仕組みです。弊社は本社のある大崎に全従業員の半数ほどがいるので、大崎地区で始めました。昨年12月には大阪にある医療機関とも提携し、関西支社での診療を開始しました。社長(柴原節男前社長)からの「近くに診療所が欲しい」という意見から、施策を始めました。健康経営を進めたいという社長の意識はすごく高かったと思います。あとは、当施策を弊社の商材にしていく上で、まずは社内で運用してみたこともきっかけです。
「Smart Oneクリニック」のメリットとしては、病院と産業保健スタッフが受診結果を共有できる仕組みになっていることです。以前は、従業員が定期健診や人間ドックを受けて再検査になっても、なかなか再受診をしてもらえませんでした。また、再検査の結果を教えてもらおうとしても、そのメールに対する返信は3分の1ほど。受診結果も分かりませんし、そもそも受診しているのかどうかも分からない状態でした。ですが、このシステムを使えば、本人の同意が前提ですが、産業医や保健師が受診結果を知ることができるので、その後のフォローに役立てることができています。
――情報の集約・共有という点は、さすがIT企業ですね。従業員の方にとっても受診のハードルが下がると思います。もう一つはどのような取り組みでしょうか。
佐々木:二つ目が、同じく健康経営推進プロジェクトで取り組んでいるアプリ「コンディションマネジメントシステム(CMS)」です。これはメンタル面での不調を予防したり、不調がある方へのカウンセリングにつなげたりすることを目的としています。このアプリでは、「コンケア」といって、日々の気分を「快晴」から「雷雨」までの6区分から選び、ワンクリックで登録する仕組みを設けています。この情報を積み上げていくことで、気分の落ち込みがあると、システムが検知してアプリ上にアラートが出ます。すると、委託先である東京メンタルヘルス社のカウンセラーにその情報が伝わり、カウンセラーから当事者にメールで状況を確認するという流れになっています。また、本人が希望すれば、カウンセラーに直接相談もできます。
最初は、携帯のアプリだけで実証したのですが、利用率が全く上がらなかったです。よほど意識が高い人でないと、アプリを立ち上げてクリックするというのはなかなかやってもらえません。そこで、Teamsのチャットでパソコン上に毎日自動的に「コンケア」が表示されるようにしたところ、入力率は70%ほどになりました。また、「すぐに相談したい人はこちら」というボタンもあって、こちらから直接、外部カウンセラーに相談できる機能もあります。この機能によって相談数も増えています。
女性特有の健康課題に着目した施策を重点的に展開
――お取り組みの中で、最近特に重視されているものはありますか。
佐々木:今は女性の健康サポートに力を入れています。最近では、「フェムテック」(女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決する製品やサービス)が世間の話題になっていますし、生理や更年期障害による女性の労働損失は今後の課題だと思います。具体的な取り組みの一つが、薬の費用補助です。月経困難症の低用量ピル、更年期障害のためのホルモン補充療法の費用の半額を会社が負担しています。また、昨年は搾乳室を本社3階に設置したのを皮切りに、各支社への導入を進めているところです。さらに、3月にある「女性の健康週間」に合わせて、月経や更年期障害に関するセミナーを開催しています。生理や更年期障害の時の働けない状況や効率が落ちるといった女性の状況について、私もこの仕事をするまでは知らないことばかりでした。セミナーを通じて、特に男性従業員にぜひ知ってもらいたいと思っています。
――岩瀬さんは女性の立場から企画に関わられてどうでしたか。
岩瀬:女性従業員の中には自分の体に関心を持つことなく、「お腹が痛いから薬を飲めばいいや」で済ませてしまう方も多いと思います。ですので、このような女性の健康サポート施策を実施することで、「婦人科のかかりつけ医を持ってほしい」、「ピルなどの薬に抵抗がある方も、まず先生に診ていただく習慣をつけてもらいたい」という思いがあります。女性が自分の体に関心を持つとともに、男性従業員にも知ってもらって、男女の性差への理解を深めてもらいたいと企画を進めてきました。婦人科にかかりつけ医がいると、例えば、「お腹の調子が悪い」といった症状に対しても、女性ならではの腸の仕組みを教えていただけますし、いろいろな相談にも乗ってもらえます。女性従業員には、ぜひ婦人科のかかりつけ医を持つことをおススメします。
ウォーキングイベントが大好評!歩く習慣づくりの一助に
――その他の施策についても教えてください。
佐々木:定期健診や人間ドックではオプション検査の補助を実施しています。弊社が加盟している日立健康保険組合からも補助が出ますが、それとは別に会社からの補助を出しています。健康保険組合の補助に上乗せするタイプと、健康保険組合の補助の対象外のものに補助するタイプがあります。主な例としては、癌検査や大腸カメラ、胸部CT、動脈硬化の検査費用などの補助が挙げられます。
あとは、年1回のウォーキングイベントですね。健康増進や歩く習慣をつけてもらうために始めました。個人戦と団体戦があるのですが、団体戦は職場単位でチームを作って参加します。これによって、「週末にこれだけ歩いたよ」といった、職場でのコミュニケーションを活発にするきっかけにもなっていると思います。また、参加することで健保のポイントがもらえて、いろいろな商品に交換できる特典も。なかなかの好評ぶりで、昨年10月から11月末の間には、グループ会社も含めて約3,900名が参加しました。
岩瀬:ウォーキングイベントは私たちも毎年参加しています。大会を待ち望んでいる従業員もいますし、大会が終わった後も「(次の)大会があるから歩く」と言ってそのままウォーキングを継続している従業員もいます。歩く習慣づくりにつながっていますね。
従業員評価で「安全衛生ウェルビーイング」が最高の伸び率に
――これまでの健康経営を通して、従業員の方はどのような反応をされていますか。また社内で変化したことなどはありますか。
佐々木:従業員の反応はいいですね!イベントや期初・期末の挨拶のたびに、社長(柴原節男前社長)が「健康経営」について話をしてきましたし、「ホワイト500」という社外からの評価もあり、従業員の間でも「健康を大切にする会社」というイメージはついてきたと思っています。日立グループでは毎年、従業員満足度調査を行っているのですが、昨年は「安全衛生ウェルビーイング」の項目の伸び率が最も良かったんです。具体的な数値でいいますと、2022年度の60.8%から2023年度には61.9%に上がりました。同様に、「エンゲージメント」という項目も64.7%から65.6%に伸びているので、会社の取り組みが浸透してきたということだと思います。
――最後に、これから重点的に取り組んでいきたい課題や、また将来実現したい姿について教えてください。
佐々木:メンタル対策を重点的に取り組んでいきたいと思っています。ITという業種は、他の業種と比べてもメンタル面での罹患率が高い傾向にあります。CMSをさらに活用して、メンタル面に不調のある従業員を一人でも少なくしていきたいです。
岩瀬:私もメンタル面に不調のある従業員がなかなか減らないことが課題だと感じています。もう1点は、いろいろな施策に取り組んでいるものの、そのことを知らなかったという従業員がまだいます。今後は、健康経営の取り組みを全従業員に浸透させることにも注力したいです。
<プロフィール>
株式会社日立システムズ https://www.hitachi-systems.com/index.html
健康経営推進プロジェクト 担当部長(兼)人事総務本部 安全衛生部 部長代理 佐々木幸太郎
人事総務本部 安全衛生部 主任 岩瀬朗子
※所属・肩書は取材当時のものです。