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株式会社ドクタートラストは、企業ではたらく人の健康管理を専門に受託している会社です。具体的には、産業医や保健師などの医療資格者が企業に訪問し、健康診断結果に基づく健康指導や過重労働者面談を行います。また、ストレスチェックの分析や従業員向け外部相談窓口の受託、さらには健康管理システム・アプリや健康経営セミナーの提供などで「はたらく人の健康」をトータルサポートし、健康経営を進める企業を支援しています。
一企業としても、健康優良企業「金の認定」をはじめ、従業員の健康や働き方、女性の活躍推進などに関する数々の認定を取得。2024年に経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人認定制度」の中小規模法人部門にて、通算3度目となる「ブライト500」に選出されました。
「ブライト500」とは、健康経営優良法人の中から「優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。 参照:健康経営優良法人認定制度|経済産業省
今回は、企業の健康管理のプロである、株式会社ドクタートラストの健康経営の秘訣や具体的な施策について、常務取締役の須田さんに話を伺いました。
時代に応じて進化を。 ドクタートラストの取り組みとは
ーーー 株式会社ドクタートラストの事業内容についてお聞かせください。
須田:「健康で楽しく元気にはたらく人を増やす」という企業理念を掲げ、健康経営に取り組む企業のお手伝いをしています。産業医のご紹介による健康経営の体制構築支援のほか、面談、セミナーの実施など企業の健康管理全般を担っていることから、日々さまざまなご相談をいただきます。
今年で創立20周年になりますが、この20年で企業の健康に関する課題が大きく変化していることを実感しています。制度改正や社会情勢の影響も受け、ストレスチェックの実施やハラスメントの防止といった幅広い分野にもサービス展開をしているところです。
ーーー 須田さんはどのような業務を担当されているのでしょうか。
須田:人事部門として労働環境や衛生全般の推進と管理を担っています。会社全体の課題や実際の制度・法律、社内の健康管理や安全衛生といった観点でどのような落とし込みをしていくかを検討しています。
弊社の健康経営の推進体制としては、代表取締役の高橋をトップに、産業医の先生を含めた衛生委員会を設置、これとは別に一般社員で編成された健康経営委員会という組織を設けています。双方を連携させながら、さまざまな施策に取り組んでいます。
ーーー 健康経営優良法人認定を取得しようと思われたきっかけについてお聞かせください。
須田:健康経営優良法人認定は、2016年度に経済産業省が創設した制度ですが、弊社は「健康経営」というワードが世間に浸透する以前から、「はたらく人たちがどうしたら健康でいられるか」を考え続ける立場にありました。企業さまに従業員の健康管理や健康増進のアドバイスをしていくために、実際に自分たちの現場でトライアンドエラーを繰り返してきたのです。健康経営が注目されている今、企業により良い支援を提供していくうえでも、「まずは自社で取り組まねば」という思いから健康経営優良法人の認定を取得しました。
施策選び。大切なのは 「自社の従業員への必要性」
ーーー 認定制度にもさまざまなものがありますよね。 御社は多くの認定を取得されていますが、どのような基準で挑戦するものを決めていますか。
須田:健康や安全衛生に関する認定は、確かに多く取得しています。健康経営優良法人のほか、健康優良企業「金の認定」、えるぼし認定、くるみん認定などが挙げられます。取得の基準は、何よりも従業員への必要性です。健康経営優良法人に関しては会社全体で取り組むべきことでしたし、従業員の8割が女性ということもあり、女性の活躍推進や子育て支援に関する認定も取得しました。
企業ブランディングのために健康経営を実施するうえで、こうした認定の取得を目指すのは有効的だと思います。ただ個人的には、認定の取得だけが目的になってしまわないように、自分たちの会社にとって必要な施策を見極め、認定の項目も取捨選択するのが良いのではないかと考えています。自分たちにとって本当に良いものは、企業によって異なりますし、従業員に対する会社の姿勢としても継続が何より重要ですので、弊社でもあまり無理をせずその時の最適な施策を立てられるように試行錯誤しています。
たとえば「ブライト500」についても、事業として企業さまにアドバイスや推進していく側として取得しておくべきではあるものの、設問項目ありきで無理に推し進めるのではなく、着実に進めています。
ーーー 実際に、健康経営優良法人の認定取得に取り組まれてみて実感したことはありますか。
須田:今まで真摯に取り組んできたことが「健康経営優良法人」という形で評価された点に意義を感じています。また、「みんなで一緒に取り組んでいるものがある」という感覚は、健康経営の大きなメリットだと思っています。売り上げ向上といった業績目標以外に共通で目指すべきところがあるのは、特に今の時代、貴重なことではないでしょうか。
ーーー こういった取り組みでは、現場と経営層の間でのハレーションを感じることはありませんか。
須田:弊社は従業員の意識が比較的高く、たとえば、健康診断も受診率100%で推移しています。ただ、平均年齢が若いというのもあって、健康診断の結果自体あまり問題がない中で、プラスアルファの取り組みをすることに対して必要性を感じていないという人はもちろんいます。それこそ「個人の健康に対して会社からとやかく言われたくない」といった声もないわけではありません。
しかし、それでも‟組織の健康“を作っていくためには、一人ひとりの健康に対してしっかりバックアップをし、会社が一丸となって取り組んでいく必要があると感じています。日々の活動のなかで理解してもらい、組織風土として根付いてほしいと願っているところです。
従業員への健康配慮とさまざまな環境づくり
ーーー 今、特に力を入れて取り組んでいることやこれから取り組んでいきたいカテゴリはありますか。
須田:1つは健康診断の結果活用です。弊社では、現時点の結果の良し悪しだけでなく、数年後の将来的な視点も踏まえて専門職が分析を行うようにしています。具体的には数年後にリスクが上がってくる可能性が高いとされる「脂質」の項目について、改善・予防に取り組んでいます。
また弊社には、保健師と管理栄養士が正社員として多数在籍し、取引先さまでのセミナーや特定保健指導、面談指導などを担っています。社内でも従業員向けセミナーなどを開催してくれていることから、私どもも最新の情報に触れる機会が多く、健康意識も自然と高まっているように感じます。
もう1つ取り組んでいることとしては「朝食の欠食率改善」が挙げられます。従業員の平均年齢が若いこともあってか、朝食の欠食率が結構高いという課題があり、社内セミナーなどの機会を通じて朝食の重要性を伝えてきました。
加えて、出社時や残業時間に、朝食代わり、おやつ代わりにカップラーメンや菓子パンなどを食べている人が社内で見られました。本来であれば、繁忙期など大変なときこそ、栄養バランスの取れた食事を取るのが理想ですが、仕事を終えて帰宅してからわざわざ食事を作るのは余裕がないと難しいことです。会社としては、そうしたなかでも手軽に栄養バランスの考えられたものを口にしてもらえるような環境を提供したく「食べる環境を作る」という観点から、社内に福利厚生サービスとして「オフィスでやさい」を導入しました。多様な商品ラインナップのなかから、お菓子のようなものよりも、朝食の代わりになるようなものを多めに選んでいます。
それから、これはちょっとコアな話かもしれませんが、「タンパク質」にも着目しています。タンパク質は、健康的なカラダを維持していくために欠かせない栄養素です。将来思考の点からは、病気の予防にとどまらず、「いつまでも生き生きと働けること」「楽しく生きていけること」が大切ですので、若いうちからタンパク質を意識的に摂取してもらおうという観点での新しい施策を始めています。具体的には、高タンパク低カロリーのお弁当を食べられる、福利厚生サービス「筋肉食堂Office」を導入しています。社内では非常に人気が高いです。
ーーー 健康経営はコストとして見られがちですが、御社ではどのように考えていますか。
須田:弊社でも最初はコストをかけずに、やれることから取り組んできました。先ほど申し上げたように、健康経営という言葉が世の中に普及する前からさまざまな施策を進めてきましたが、「筋肉食堂Office」などの食事補助を導入したのは昨年のことです。健康経営を目指すうえで、まず第一歩はコストをかけずに、会社としてどこを目指すかというのを話し合うところから始めるのがおすすめです。
仕事の生産性を高めるには、より良い関係の構築から
ーーー 御社らしいさまざまな施策がありますね。‟労働生産性“を高めるためには、どのような取り組みをされていますか。
須田:ここ最近で新たに取り組み出したこととしては、「お昼寝タイム(パワーナップ)」が」が挙げられます。13時45分から14時までの15分間は全社で電気を消して、お昼寝を推奨しています。パワーナップは仕事の効率や質の向上はもちろん、従業員の健康管理への意識向上も期待できるといわれており、日本でも注目が高まっています。
また週に1度は「ノー残業デー」を設けています。もともと平均残業時間が極めて少ない会社ではあるものの、あらためて「ノー残業デー」を設けることで、定時で帰宅するというものをみんなで体感し、習慣化できることを目的に実施しています。
変わり種としては、2017年に提唱された「プレミアムフライデー」を弊社では継続実施し、8年目に突入しました。毎月第2金曜日は15時終業にしています。 生産性向上のためには「残業しないで短い時間でやり切りましょう!」というだけではなく、社内の関係づくりも必要だと考えています。みんなが15時に終われば、普段は家庭の事情でなかなか外出できない方でも、定時の18時までは一緒にコミュニケーションを取れる機会にできます。
昔で言うところの「同じ釜の飯を食う」ではありませんが、「筋肉食堂Office」の感想を言い合ったりして交流が深まっているように感じています。こうした小さな取り組み1つひとつが、社内コミュニケーションを生み、生産性向上にも寄与すると考えており、今後も力を入れていきたいところではあります。
健康経営は持続的に! 真の取り組みを
ーーー 企業が健康経営を進めるうえでのトップダウンとボトムアップ、効果的な方法はありますか。
須田:はじめはトップが必要性を感じて、本気でやろうとしているかどうかが問われてくるのではないでしょうか。そこで、舵を切って動きだした時に、現場を巻き込むボトムアップの流れをどう作っていくかは、タイミングと方法が重要だと思っています。
規模の大きな企業では、独立部署として「健康推進室」などが置かれていますが、そうした専門部署だけがどんなに頑張っても、全体にまではなかなか波及していかないという例も多々あるようです。
いかに健康に関する取り組みの主体である従業員からの意見を吸い上げられるか、その仕組みを作ること、そして意識を社内全体に浸透させることが重要ではないかと思っています。
ーーー 最後に、健康経営がうまくいく企業といかない企業の違いについて、御社のお考えをお聞かせください。
須田:先ほどとも重複しますが、健康経営優良法人の「認定取得」を最終目標とするのは、真の健康経営とは異なるように感じています。
「健康」も「経営」も持続した先に、何か見えてくるものがあると思いますので、会社の「目指す先」を明確に持てているのか、そこに向けたトライアンドエラーをし続けているかどうかが重要だと考えています。弊社としても、自社の進化し続ける健康経営の実践と共に、健康経営の実現を目指す企業さまをしっかりとサポートしていきたいです。
<プロフィール>
株式会社ドクタートラスト https://doctor-trust.co.jp/
常務取締役 人事部部長 エール本部部長
須田敦子