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新型コロナウイルス感染症拡大によって、世の中の生活や仕事は大きな影響を受けました。感染対策は当たり前になり、働き方も変わってきています。放送業界も、もちろん例外ではありません。ラジオ局でも感染対策を行いながらの放送を余儀なくされました。
ラジオの収録スタジオは決して広いスペースではありません。また、換気こそなされているものの、不要な音が入らないように部屋はしっかりと密閉されています。
数多くあるラジオ局の中でも、TBSラジオはいち早く空気環境対策を始めました。扉を開けて収録したり、入念に消毒を行ったりする基本的な対策はもちろん、空気環境の見える化など、さまざまな取り組みを行っています。
ここでは、TBSラジオの空気環境に対する考えと取り組みについて、株式会社TBSラジオUXデザイン局メディアテクノロジー部長の、塩山雅昭さんにお話を伺いました。
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ラジオはテレビ以上にコロナの影響が大きかった
――UXデザイン局メディアテクノロジー部は、どのような業務を行っているのでしょうか?
塩山:UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)というのはユーザー体験ですね。それをデザインしていこうというのがUXデザイン局です。私たちにとってUXをデザインするということは、ユーザーであるリスナーやスポンサーなど、顧客にとっての価値を提供し、すべての方にストレスのない満足がいく体験をしていただこうということです。その中のメディアテクノロジー部は、TBSラジオにおける技術に関する業務をすべて行っている部署になります。
空気環境対策についてのソリューション導入も、メディアテクノロジー部の仕事です。
――コロナ禍になって、業務はどのような影響を受けたのでしょうか?
塩山:新型コロナウイルス感染症拡大の影響は、ラジオ局にとって非常に大きなものでした。テレビ局の場合はスタジオも広いですし、出演者も横並びになることが多いですよね。
一方、ラジオのスタジオは決して広くありません。さらに、出演者は近い距離で向かい合って話すので、飛沫感染が起こりやすくなる環境です。
――確かにラジオは密閉されたスタジオにこもって収録するイメージがあります。密閉した状態が続くと換気しにくく、空気環境が気になりますね。
塩山:スタジオは密閉されていますが、実は元々換気はしっかりできているんですよ。スタジオでは窓を開けて換気するのではなく、機械換気で空気を入れ換えています。
ただし、換気しているとはいっても、コロナ禍においては以前のままで十分とはいえません。ですから、現在は収録中でもスタジオの扉を開け放すようにしています。また、「みんなエアー」のDXサービス「MADO(マド)」を導入して空気環境を可視化し、出演者の方々に安心していただけるよう取り組んでいます。
以前からスタジオの空気環境に課題を感じていた
――スタジオに入る際、扉のところに置かれた「MADO」の端末でスタジオ内の空気環境がわかるのは安心ですね。
塩山:そうですね。こうした対策については、TBSラジオはかなり早期から取り組んできました。例えば、飛沫感染対策として出演者のあいだに置くアクリル板については、日本で最初に導入したラジオ局だと自負しています。2020年の2月頃に、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルス感染症の感染者が出たことが話題になっていましたが、そのときにはもうアクリル板の準備を進めていました。放送設備の保守をお願いしているスタッフに手描きのイメージ図を渡すと、ありものでアクリル板を製作してくれました。
2020年3月には、「赤江珠緒たまむすび」という番組の中で、火曜パートナーの山里亮太さんがスタジオにアクリル板が導入されたという話をしていました。番組のTwitterにも画像がアップされていたので、それをきっかけに、他局にもアクリル板の導入が広がっていったと記憶しています。
――コロナ禍の初期から感染対策を行っていたのですね。なぜそんなに早く対策を打てたのでしょうか?
塩山:スタジオの空気環境について、コロナ禍以前から課題を感じていたことが大きかったと思います。例えば、スタジオは冬になると非常に乾燥するんですよ。静電気が原因のノイズの対策のために、加湿器を導入するなど、空気環境を改善する施策は以前から実行していたんです。空気環境について元々意識していたこともあり、コロナ禍でも早く対策を行うことができました。
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目に見えない空気環境を可視化すると対策がわかる
――空気環境対策の効果については、どのように実感されていますか?
塩山:大きな効果として感じているのは、これまで目に見えなかったスタジオの空気状況が可視化できたことです。可視化できれば、それに対して何をすればいいのかがわかりますからね。
空気環境の可視化は、そのまま新型コロナウイルス感染症対策にもつながります。狭いスタジオで収録を続けていると、だんだん空気が悪くなってくるんですよ。これまでは感覚的なものでしたが、具体的にCO2濃度など数値で可視化できれば、「そろそろ扉を開けて換気しないとダメだね」と誰もが気づけるようになります。「この番組は出演者が多くて空気環境が悪くなりやすいから、ゲストはリモート中継で出演してもらおう」といった対策もとれるのです。
――空気環境が可視化されたことで、誰もが対策できるようになったのですね。
塩山:博物館や美術館などは、外とは違った「空気感」がありますよね。ラジオを収録するスタジオにも、各社各様の独特の空気感があるんですよ。「TBSラジオ」も独特の空気感があると思っていましたが、それも空気環境のひとつだと思うんです。
その質感や空気感のようなものを何が生み出しているのかまではわかりませんが、スタジオのCO2濃度などが可視化され、TBSラジオの空気感が可視化できつつあるようにも感じています。
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空気環境対策でラジオの「音」も変わる
――ラジオに携わる方々は音のプロフェッショナルだと思いますが、アクリル板の設置や扉の開放などの対策をした結果、音質に影響が出ることはないのでしょうか?
塩山:スタジオの空気感の話をしましたが、環境が変われば確かに音は変わります。例えば、アクリル板を導入したとき、出演者には嫌がられるんじゃないかと思いました。自分の話した声がアクリル板に反射し、少し遅れて音が跳ね返ってきますし、相手の声が聞きにくくなるという方もいました。それに、スタジオの扉を開放して収録していると、どうしても外の音が入ってきてしまいます。笑い声や会議の声が入ってしまうのは、さすがに困りますね。
とはいえ、今は空気環境対策、新型コロナウイルス感染症対策を優先しなければいけない時期です。コロナ禍はずっと続くわけではないと思っていますし、今はしっかりと対策を行い、収束したら以前のスタイルに戻してもいいのです。スタッフも出演者も対策の重要性を理解してくれていると信じています。
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空気環境の可視化とコロナ対策でスタッフの感染者ゼロ
――こうした対策を行っていることを、出演者の方などにアピールされているのでしょうか?
塩山:特にアピールしているわけではありませんが、各番組のプロデューサーが出演者の方に説明することはあると思います。
やはり、しっかりと空気環境対策を行っていることを知って、安心していただきたいですから。社内や協力会社のスタッフ向けにはメーリングリストなどで周知しています。
――ほかに、空気環境対策や新型コロナウイルス感染症対策として実施していることはありますか?
塩山:そうですね、特に「マスター」という主調整室では念入りに対策を行っています。スタジオはいくつかありますが、マスターは1つしかないので、もしマスターで感染者が出て閉鎖することになったら放送が続けられません。
具体的には仕切りを設けて、元々マスターで作業をする人と、外から入ってくる人がいる場所を、明確に分けるようにしています。また、スタジオのテーブルやアクリル板などの拭き取り用に高濃度の除菌用アルコールを購入したり、濃度が変えられるように次亜塩素酸ナトリウム水溶液を自分たちで調合して作ったり、万一に備えて防護服を用意したりもしましたね。
――さまざまな空気環境対策を行うことで、関係者の方々も安心できますね。
塩山:中でも、空気環境をしっかり可視化することは、とても大切なことだと思っています。それによって必要な対策がわかりますし、実際にTBSラジオ社員の中から、これまでに新型コロナウイルスの感染者が出たことはありません(2021年8月現在)。こうした対策を行っていることが、出演者の方の安心感につながってくれたらと思います。
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<プロフィール>
塩山雅昭
通信社やケーブルテレビ局で記者、ニュース編集長、BSデジタル放送局の開局業務を経て、デジタル放送やニュース配信フォーマットの規格化などに従事。2004年にTBSラジオに入社、デジタル音声放送の規格化やインターネットラジオ局の開局、音声コンテンツの有料配信、ショッピング番組やイベントプロデューサーの後、2013年に技術部へ異動。ワイドFMの放送設備設計や、災害発生時に威力を発揮する、スマートフォンでFMラジオが聞けるラジスマ端末の開発を担当。
2019年6月から現職。