群馬県藤岡市に本社を置く株式会社石井工機は、産業用機械の設計・製作を手掛けるトータルエンジニアリング企業です。工場の製造ラインの生産設備において、設計から部品製作・組み立て、試運転や設置、立ち上げまでの全ての工程を自社で対応しています。納品後の誠実なアフターフォローに定評があり、多くのお客さまから絶大な支持を得ています。
1961年の創業以来、蓄積されてきた知識や経験、技術を生かす上で、最も大切にしているのが「人間力」。従業員がその力を存分に発揮できるよう、「健康経営®」に取り組んでいます。
健康な職場環境づくりに向け、会社独自の設備の整備や取り組みを進める中、2021年度から4年連続で健康経営優良法人の認定を取得。2024年度、2025年度には2年連続で「ブライト500」※に選出されました。
また、日本マーケティングリサーチ機構が実施した産業機械メーカーについてのインターネット調査(2024年2月期)において「福利厚生が多く、働きやすそう」「社員を大切にしていると思う」の項目で「No.1」を獲得しています。健康経営による社内の変化、また取り組み始めた経緯や今後の課題について、代表取締役社長の石井安美さんにお話を伺いました。
※「ブライト500」とは、健康経営優良法人の中から「最も優れた企業」かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」として、全国上位500社に選ばれたことを指します。
「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
空きスペースを活用し、会社専用トレーニングジムを整備
―――まずは御社の事業内容についてお聞かせください。
石井:弊社では、産業用生産設備を作っています。手掛ける設備は全てオーダーメイドとなり、工場の生産ライン設備の設計から、生産の立ち上げまでをワンストップで担当します。一例としては、人の手で行う作業を自動化する機械が挙げられます。箱詰めや検査業務など、これまで人が介在してきた工程に機械を導入することで、作業の省力化や無人化を進めるお手伝いをしています。
―――健康経営に取り組み始めたきっかけは何だったのでしょうか。
石井:弊社の強みはものづくりにおける高い技術力にあると自負していますが、それ以上に「人間力」を最も大切にしています。その想いは会社のロゴマークにも「人」の漢字を入れることで表現しました。「人間力」を強みとしていく上で、まずは人を大切にする環境が必要と考え、2017年から健康経営に取り組んでいます。
当時、私は常務でしたが、日頃から健康管理を気にしつつも、忙しさで運動をする時間を作れずにいました。これではまずいと、毎朝4時半に起き、5時から1時間のウォーキングを4、5カ月ほど行ったところ、体がすごく元気になったんです。従業員の皆にもぜひやってほしいと思いましたが、毎日早起きを続けるのが大変ですし、スポーツジムに通おうとしてもお金も時間もかかります。
そこで、工場の空いている部屋をトレーニングジムに改装し、1週間のうち2時間は、業務中に使用してもよいというルールにしました。こうすることで、日々運動をする習慣づけができるだろうと考えました。最初のうちはほとんど利用されず、健康への意識向上の難しさを痛感しました(笑)。その後、ジムの使用に対するポイント制度を採り入れるなど工夫を重ね、着実に利用率が上がってきています。
心身のケアで、欠勤・残業・離職を減らして過去最高益を達成
―――ホームページを拝見すると、さまざまな「健康」に関する取り組みを実践されていますね。
石井:私が2020年に代表取締役に就任して以降、特に人材育成に力を入れており、健康経営もその一つになります。特徴的な取り組みが、「ココカラ(ココロとカラダのキャリアサポート)」です。フィジカル面の体調不良の要因が実はメンタル面にもあるという点に着目し、両面からケアができるよう、作業療法士とキャリアコンサルタントの両方の資格を持つ方を講師にお招きして、毎月、研修を行っています。テーマは、「睡眠」、「腰痛」、「肩こり」、「休み方」など多岐に渡ります。また研修以外にも、従業員の個別相談を実施しています。守秘義務のある専門の講師の方に依頼をすることで心理的な安全性が担保され、相談しやすい環境が整いました。
もう一つが、2023年11月に始めた体質改善プログラム「後楽奄(こうらくえん)」です。これは、「後」々の人生が「楽」しく、「楽」になるために必要な体の機能を大きく伸ばしていく(※「奄」には大いに伸ばすという意味がある)ことを目的とした取り組みです。毎月、柔道整復師の方をお招きして、希望者が施術を受けられます。施術だけでなく、体のゆがみをチェックしたり、普段心掛けるべき姿勢などについても指導をしていただきます。毎回痛みと体の状態を1~5の段階で評価していただくのですが、診断結果次第では、施術院での施術も受けることができます。状態が4段階以上であれば、就業時間中に通ってもOKとしています。
後楽奄は取り組み開始から1年が経ち、希望する全従業員が参加しました。自覚症状がなくても体が動きにくかったり、痛みが出た従業員などもいましたね。そうした中、柔道整復師の方に体をほぐしてもらい、適切な運動やストレッチを行なうことで、体がすごく楽になり、仕事のパフォーマンス向上にも繋がっています。
そして、後楽奄、施術院のどちらも、会社が100%費用を負担していますが、実はそれ以上の効果が出ているんです。まず、突発的な体調不良による欠勤日数が、2024年度(3月から9月の7カ月間)の集計では、欠勤ゼロの人の割合が前年比13%増加し、逆に6日以上欠勤した人の割合は3.2%減少しました。また、家庭の事情などのケースを除き、2019年12月を最後に、ネガティブな理由での離職者はゼロの状態が5年間以上継続しています。
残業時間も大幅に減少しました。ピークだった2018年には、1カ月当たりの残業時間が35時間になる月があり、年間の平均でも25時間ほどでした。今は平均10.6時間なので半分以下になり、全体的には約3分の1に減っています。さらに、2023年は売上高と利益が過去最高益を更新し、労働生産性は創業以来初めて1000万円を超えることができました。残業時間が減りながらも利益が出ているのは、日中のパフォーマンスが上がっている証拠だと思っています。
「国の認定」というお墨付きで新卒採用に好評価
―――健康経営優良法人認定制度にチャレンジされたきっかけを教えてください。
石井:弊社が契約している保険代理店の方に勧められて、2020年に申請し、2021年度に初めて認定されました。申請書を作成してみると、ギリギリで要件を満たしている項目が意外に多くて…。しっかり取り組んでいるつもりでも、まだまだ足りていないことを実感しました。そこから毎年少しずつ改善を重ね、2021年から4年連続での認定を達成、また2023年度には「ブライト500」にもチャレンジをし、2024年度と2025年度に連続して認定を受けています。
―――認定の取得による効果はありましたか。
石井:採用面に効果がありました。弊社では健康経営優良法人の認定とともに、2022年度にユースエール認定(若者雇用促進法に基づく認定)も取得しています。これは、健康に取り組んでいること、人を大切にする企業であることに対して、「国の認定」という第三者のお墨付きが得られたことになります。2021年から毎年2名の新卒採用を行っていますが、初めて高校生を採用した時、親御さんも内定式に来ていただき、社内を見学をしてもらったんです。そこで、親御さんから「健康に配慮してくれる会社であることを評価している」とおっしゃっていただきました。初めての就職先に送り出す親御さんにとっての安心材料になったと感じています。
―――健康経営に対する従業員の反応はいかがですか。
石井:ポジティブな意見が多くある一方で、ネガティブな意見も一部ではあります。労働者の健康管理に関して、従業員は「元気に休まずに会社に来て仕事ができている」ということで自己保険義務を果たしているので、さらに「健康に」というのは過干渉だという意見がありました。また、「病院に行くように」とか「運動をしましょう」などを言い過ぎてしまうと、従業員のストレスになってしまい、健康ハラスメントにつながる可能性もあります。健康に対する考え方には個人差があるので、そのあたりが今後の課題だと感じています。
メンタル面の対策を強化し、群馬一の働きやすい会社を目指す
―――今後、どのような取り組みを計画されていますか。
石井:弊社では、適切なワークライフバランスを実現するために、特別な場合を除き、有給休暇をほぼ100%取得できる体制にしており、有給取得率は93%(2024年度実績)です。ですが、有給を使うタイミングは、例えば、「子どもの行事があるから」といった、何か理由がないと取ってはいけないイメージがあるかと思います。
そこで、体調を整えるために休みが取れるよう、「PCM(フィジカルコンディショニングマネジメント)休暇制度」を創設することにしました。従来の有給休暇とは別に、事前に申請することで年間5日取得ができます。体調不良で有給を取ると、どうしても事後申請になりますが、例えば、体の不調や疲れたがたまっていると感じた時にあらかじめ申請することで、体を休める日が確保できるというわけです。この制度の発案者は、実は地元の高校生なんです。弊社では、地元の高校の総合学習「探求」授業の一環として、高校生の受け入れを実施しています。その中の「企業の課題解決」のプログラムでフィールドワークを行った際、参加した高校生が提案したものを採用しました。
この制度は、会社にもメリットがあります。体調不良による急な欠勤があると、上司は仕事を調整する必要が生じ、出社している従業員にも負担が出ます。また休んだ従業員も心苦しく思ってしまうような、ネガティブな連鎖になります。ですが、事前の申請であれば、前もって仕事の段取りが組め、休んだ従業員も「しっかり休めました」と気持ちよく出社をすることができ、プラスの連鎖につながります。
―――最後に、これから御社の健康経営が目指すものをお聞かせください。
石井:メンタル面の対策を強化したいと考えています。弊社では、「ココカラ」の作業療法士や「後楽奄」の柔道整復師をはじめ、産業医、キャリアコンサルタント専任の方、総務部長と私で「石井工機メディカルチーム」を組織し、毎月、ミーティングを行っています。その際、健康のリスクが高い従業員のケアについては、どのようなアプローチが最適なのか、専門家の皆さんの意見を聞きながら対策を検討しています。また、メンタル面については産業医と従業員での面談も実施しています。
今後は、心理カウンセラーや公認心理士の方にお願いして、メンタルダウンした従業員の話を聞く窓口を開設したり、会社に知らせずに受診ができるカウンセリングサービスの導入を検討しています。メンタルダウンを未然に防ぎ、早期発見できる体制を整えていきたいと考えています。
また、経営理念に掲げている「社員とその家族の夢と幸せの実現」のため、2030年までに「群馬で一番働きやすい会社になる」ことを目標としています。従業員の皆さんが、月曜日の朝ワクワクしながら出社できる環境つくりに引き続き取り組んでまいります。
<プロフィール>
株式会社石井工機 https://www.ishii-kouki.co.jp/
代表取締役社長 石井 安美