エアラボ通信

2021年6月28日

新型コロナウイルス感染防止対策として、室内の二酸化炭素量を1000ppm以下に抑えることが推奨されています。なぜ、「1000ppm」なのですか。(その2)

みんなエアー|2021年6月28日

呉 博士(みんな電力顧問)

昨年11月、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染拡大のリスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善するための方法について取りまとめたリーフレットを公表しました<引用 1)>。

そこには、「必要な換気量を満たしているかを確認する方法として、二酸化炭素濃度測定器を使用し、室内の二酸化炭素濃度が1000ppmを超えていないかを確認することも有効です。」との参考文が付け加えられています。なぜ1000ppmなのか、今回はこの値の根拠について考えて参ります。

 

まず前提として、室内二酸化炭素(以下CO2)濃度を1000ppmに保つために必要な

「換気量(室内空気が外気で置き換わる量)」を知る必要があります。

 

空気調和・衛生工学会は、日本人4800例の基礎代謝データから、労働強度に応じて成年男子が呼吸を通して排出する平均CO2量を算出しました。そして、人が働く室内で、CO2濃度が1000ppmを超えないために必要な、1人あたり1時間あたりの「換気量」として、30㎥を導きました<引用 2)>。

 

つまり、室内CO2濃度を1000ppmに維持するためには、1時間毎に「30㎥×人数分」に相当する外気量で室内空気を置き換えることが必要です。

(ちなみに、30㎥はおおよそ8畳部屋の体積に相当します)

 

 

これを基礎知識として、厚生労働省のロジックを辿ってまいります。

 

厚生労働省は、まず、「感染症の拡散」と「換気回数」との関係についての過去の文献を引用しています<引用 3)>。たとえば、「結核とはしかの拡散」と「換気回数(室内の空気がすべて外気と入れ替わる回数)」が毎時2回未満の診察室」との間に関連が見られたとする海外の文献<引用4)>。

また、中学校での結核集団感染において、教室の換気回数が1.61.8回と少なかったことを指摘した国内の文献<引用 5)>などです。厚生労働省はこれらの文献をふまえ、2回以上の「換気回数」が感染症拡散防止の目安となると考えました。

 

次に、厚生労働省は、「1人あたり30㎥毎時の換気」が行われた場合の、日本の標準的な職場環境における「換気回数」を、職場ごとの在室密度(1人あたりの占有面積)のデータ<引用2)>を用いて計算しました。その結果、標準的な商品売り場では毎時3.2回、標準的なオフィスでは毎時2.1の「換気回数」が得られました<引用 6)>

 

感染症拡散防止の目安となる2回以上の「換気回数」が、日本の標準的な職場環境では、「1人あたり30㎥毎時の換気」で可能となるわけですから、厚生労働省は「1人あたり必要換気量30㎥毎時という基準は、感染症を防止するための換気量として、実現可能な範囲で、一定の合理性を有する。」と結論づけた訳です<引用 3)>。

 

また、新型コロナウイルス感染症での換気量や換気回数に関する文献は少ないという前提に立ちながらも、上の基準が新型コロナウイルス感染症対策としても、矛盾するものはない、という考え方を示しています<引用 6)>。

 

 

さて、なぜ「1000ppm」なのか?もうお分かりだと思います。冒頭に書きましたように、

1人あたり30㎥毎時」という換気量は、室内CO2濃度1000ppmに相当するからです。

 

上述してきたように、厚生労働省はそれなりのロジックに基づいて、「感染症の拡散」と「換気量」とを関連づけ、それを新型コロナウイルス感染予防にも適用し、感染予防に有効な換気が行われているかどうかを一目で判断できる、ビジュアルな指標として「室内CO2濃度1000ppmを提案したわけです。

 

もちろん、この指標を満たすだけで、感染防止ができるわけではありません。密集した環境を避けることや、近距離での会話を避けるなど、基本的な感染リスク低減対策を併せて行うことを前提として、この指標があることに留意しましょう。

 

 

最後に、建築基準法における換気量ついて触れたいと思います。

 

建築基準法では「1人あたり20㎥毎時の換気量」が義務付けられます<引用 7)>。そのため、建築基準法に準拠して建てられた建物の多くが、今回、厚生労働省が採用した「1人あたり30㎥毎時の換気量」を満たしていない可能性が有ることは否定できません。従って、新しいビルだからと言ってその換気能力を過信することなく、常に室内CO2濃度を「見える化」し、必要に応じた換気対策を講じることを心掛けましょう。

 

 

<引用>

1)https://www.city.kawaguchi.lg.jp/material/files/group/89/Fuyubanokanki.pdf

 

2)http://www.shasej.org/gakkaishi/archive/pdf/SHASE19721200.pdf

 

3)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf

 

4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11085840/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3982900/

 

5)https://www.kekkaku.gr.jp/pub/Vol.85(2010)/Vol85_No7/Vol85No7P591-593.pdf

 

6)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000698849.pdf

 

7)https://www.teikihoukoku.net/kankisetsubi-kankiryou-musou/

 

 

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