空気清浄機を選ぶ際の注意点は?ウイルスの不活化に有効な原理を解説

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呉 博士(株式会社UPDATER顧問) 2021.8月執筆

 

2021年8月現在、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は、急速に増えつつある状況です。2021年8月12日に開催された第58回東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議では、職場や施設、家庭内など、多岐にわたる場面で感染が発生していると報告されています。感染収束に向けては、まさに職場や家庭などでの感染防止がカギを握る状況だといえるでしょう。

そこで、空気清浄機などの機器に採用されている、浮遊する細菌やウイルスの不活化に有効な原理について解説します。空気清浄機などの機器を選ぶ際に、注意すべきことも併せて見ていきましょう。

 

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細菌やウイルスの不活化に有効な原理

 

浮遊する細菌やウイルスによる感染を防止するために、空気清浄機などの機器を選ぶ際に最も重要なことは、細菌やウイルスの不活化に有効な原理を採用しているかどうかです。現時点で有効性が実証されている原理は限られているため、下記のいずれかを採用している製品を選ぶことが重要になります。

また、それぞれの原理には長所も短所もあります。それらをよく理解した上で、設置する環境に合った機器を選ぶことが大切です。

 

 

HEPAフィルターでの集塵

 

新型コロナウイルスの大きさは0.1μm(1,000μm=1mm)程度ですが、空気中ではより大きな飛沫核にのって浮遊します。そのため、粒径0.3μmの粒子の捕集効率が99.97%以上であるHEPAフィルターには、浮遊ウイルスに対する十分な捕捉能力があります。

ですから、ウイルスから細菌、PM2.5、花粉、ちりに至るまで、生活空間に漂うほぼすべての異物を捕集する能力がある「HEPAフィルター搭載の空気清浄機」は、手軽に行える感染防止対策として、第一の選択肢となるでしょう。

 

ただし、HEPAフィルターには、消臭機能はありません。また、HEPAフィルター表面の、カビの発生事例もあります。HEPAフィルターは5年ごとの交換が推奨されていますが、定期的に状態を確認し、異常があれば適宜交換することが必要です。

 

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紫外線の照射

 

波長の短い紫外線をUV-Cといいます。その中でも、波長250~260nm(1nm=0.001μm)の光には、遺伝子(DNA、RNA)を傷つける作用があり、強力な殺菌・ウイルス不活化効果を発揮します。この原理を応用した殺菌灯(254nmの紫外線を発光する水銀ランプ)が、古くから医療機器や、調理環境の殺菌・消毒の用途に用いられ、医療現場や食の衛生管理に貢献をしてきました。

 

近年では、室内の細菌やウイルスの不活化を目的とした紫外線照射装置も開発されています。集塵や消臭機能はありませんが、室内に浮遊する細菌やウイルスに特化した対策を行う上ではベストの選択となるでしょう。また、装置作動音がないため、静寂性を維持できるというメリットもあります。

ただし、UV-Cは人の皮膚や眼を傷つけるため、部屋の上部に照射装置を設置するなど、人への直接照射を避ける工夫が必須となります。

 

なお、人への安全性が高い、波長のより短い222nmの遠紫外線を発光するLEDの開発も進められていますが、消費者向けの販売はまだ先のようです。

 

 

高圧放電で生成するイオンの放出

 

空気中で高圧放電させると、電荷を持った水素や酸素が生成し、それらは水分子と結合して安定化されます。この状態をイオンと総称し、「プラズマクラスターイオン」「イオンクラスター」などとも呼ばれます。空間に放出されたイオン同士が結合する際に生成する物質が空気中に浮遊する細菌やウイルスを酸化し、不活化するといわれているのです。

 

このメカニズムは、学術界で十分に承認されているわけではありません。しかし、メーカー側の努力により、国内外の第三者機関による多数の検証研究が地道に積み重ねられてきました。それによって、空気中に浮遊、もしくは壁面に付着した細菌やウイルスへのイオンによる不活化効果、さらに、においやアレル物質(ダニのふんや死骸など)の低減効果を十分に証明しています。

 

イオンを放出する空気清浄機は、ファンの作動音がやや大きめですが、総合的な空気環境浄化対策として魅力的な選択肢となります。

 

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光触媒による酸化分解

 

光照射により化学反応を触発する物質を「光触媒」といい、酸化チタンはその代表的な物質です。酸化チタンに紫外線(UV)を照射すると、光触媒の表面で酸素分子や水分子との化学反応が起こり、強力な酸化力を有する活性酸素を生成します。

この原理を応用したのが光触媒空気清浄機で、LED-UV光源と酸化チタンからなる光触媒ユニットを搭載し、装置内部に空気を誘導することで、空気中の細菌やウイルス、におい成分、有機化学物質を、光触媒の強力な酸化作用により分解します。

 

光触媒空気清浄機の特徴は、いかなる物質やエネルギーも装置外部へ放出せず、光触媒表面のみで反応が起こることです。空気循環方式のため、部屋全体の空気浄化には一定の時間がかかりますが、日常の空気環境に変化を与えずに空気中の細菌やウイルスを不活化したい方には、光触媒空気清浄機はベストの選択となるでしょう。

 

なお、光触媒システムは、新千歳空港において行われた大規模な実証実験によって、実空間での有用性が検証され、空港や鉄道などの公共インフラ、病院、施設などでも採用が進んでいます。また、高機能化も日進月歩で進んでおり、建造物のダクト挿入型や、可視光応答型光触媒を用いた塗料なども開発され、さまざまな生活空間での空気環境改善への応用が進められています。

 

出典:公益社団法人におい・かおり環境協会「光触媒技術による空気浄化」(2013年5月)

 

 

オゾンによる酸化分解

 

オゾンは、酸素原子が3つ結合した物質で、強い酸化力を持つことから、殺菌やウイルスの不活化、脱臭・脱色、有機物の除去などの用途で用いられてきました。近年では、水道水の消毒にも用いられています。

こうした実績から、新型コロナウイルスへの不活化効果も期待され、いくつかの研究機関で検証実験が行われてきました。

 

例えば、奈良県立医科大学は、オゾンガス濃度が1~6ppmに調整された気密ボックス内のプレートに新型コロナウイルスを塗布し、その生存量を調べました。その結果、オゾンガス濃度6ppmでは55分で99.9~99.99%の新型コロナウイルスが不活化され、オゾンガス濃度1ppmでは60分で90~99%が不活化されることが実証されました。ただし、濃度1~6ppmのオゾンガスは人体には有害であるため、人のいない環境下での使用に限定されます。

 

人へのオゾンガスの許容濃度は、公益社団法人日本産業衛生学会が「労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度」という条件下で、オゾンガス濃度0.1ppmという上限値を定めています。また、公益社団法人日本空気清浄協会は、「オゾンを発生する器具による室内ガスの許容濃度」として、平均0.05ppm、最高0.1ppmと定めています。

そこで、藤田医科大学は、人体にも安全とされる0.05~0.1ppmの低濃度オゾンガスで、新型コロナウイルスに対する有効性を調べました。その結果、低濃度オゾンガスによる新型コロナウイルスの不活化に、一定の効果があることを、実験で明らかにしたのです。

 

まとめると、1~6ppmの高濃度オゾンガスは新型コロナウイルスの不活化に有効ですが、人体にも安全とされる0.1ppm以下の低濃度オゾンガスの効果は一定の効果はあるが、限定的であると結論づけられます。

したがって、オゾンガスを新型コロナウイルス感染症対策に用いる際には、室内のオゾンガス濃度を1ppm以上に維持できる機器を選ぶのがいいでしょう。そして、人のいない時間帯に限って運転するなど、人への影響がないようにする必要があります。

 

出典:公立大学法人奈良県立医科大学、一般社団法人MBTコンソーシアム「(世界初)オゾンによる新型コロナウイルス不活化を確認」(2020年5月)

出典:独立行政法人国民生活センター「家庭用オゾン発生器の安全性」(2009年8月)

 

藤田医科大学の実験データ

 

オゾンガス濃度0.1ppm、湿度80%の環境では、新型コロナウイルスは4時間後に73%、7時間後に87%、10時間後に95.4%が不活化されます。また、湿度55%の環境では、4時間後に47%、7時間後に54%、10時間後に68%が不活化されます。この結果から、「一定の」効果があるといえます。

しかし、数時間経っても数十%のウイルスが感染力を維持し続けていることを考えると、低濃度オゾンガスは新型コロナウイルスに対し、「十分な」不活化効果を有するとはいえないというのが正しい見方だと思います。

 

出典:藤田医科大学「本学の村田貴之教授が人体に安全な低濃度オゾンガスで新型コロナウイルスを不活性化できる事実を世界で初めて発見しました」(2020年8月)

空間の状況に応じた空気感染防止対策を

 

今回は、空気清浄機などの機器で採用されている、細菌やウイルスを不活化する原理について、長所や短所も含めて解説しました。家庭やオフィスでの空気感染防止対策の一助となれば幸いです。

 

また、空気清浄機などの機器以外にも、次亜塩素酸水などの化学物質の噴霧により、空気中の細菌やウイルスを不活化する方法もあります(人のいる環境では推奨されません)。空気中の細菌やウイルスを不活化させたい空間の状況に応じて、適切な方法を検討してみてください。

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