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ビジネスや経営における「健康」の定義が変わってきています。経営者、従業員、働くすべての人の心身の満足度の向上、また今後、ますます深刻化する人手不足問題に対応し、持続的成長企業となるためにも、「健康を重視する経営」であることが求められています。
ここでは、企業として考える現代の新しい健康観について解説します。
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健康の定義
そもそも、健康とはどういう状態を示すのでしょうか。1948年の世界保健機関(WHO)憲章の前文で、健康は次のように定義されています。
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
(健康とは、完全な肉体的、精神的および社会的福祉の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない)
※1951年6月26日に条約第1号として公布された当時の定訳
この定訳には、「到達しうる最高基準の健康を享有することは、人種、宗教、政治的信念または経済的もしくは社会的条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである」と続き、格調高いものであり、表現が難しすぎるという声もありました。
まず、この世界保健機関憲章前文の解釈について考えます。
「完全な肉体的、精神的および社会的福祉の状態」とは?
世界保健機関憲章前文にある「完全な~」という部分は、読みようによっては肉体的、精神的、社会的にすべてが完璧な状態でなければ健康とは呼べないのだ、という意味にも捉えられます。それが健康の定義なら、健康を手に入れるのは、かなりハードルが高いように感じられてしまうのではないでしょうか。
ただ、「完全な」の部分は、英語の「complete」の訳です。コンプリートは完璧であるさまというだけではなく、すべてそろっている状態を表す言葉でもあります。そのことを考慮すれば、ここは「調和がとれた」といった訳でもいいでしょう。「肉体的、精神的、社会的に調和がとれた良好な状態」とすると、ニュアンスも変わってきます。
「肉体的、精神的、社会的に調和がとれた良好な状態」とは、「健康」というと、多くは肉体的な意味で捉えられがちですが、精神的・社会的観点からもしっかりと考える必要があることを意味し、その上で単に「疾病または病弱の存在しないこと」を意味するのではないと、つけ加えているのだと考えられます。
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ウェルビーイングと健康
さらに、重要な意味を持つ言葉が、前文に含まれるウェルビーイング(well-being)という言葉です。
ウェルビーイングは直訳すると「幸福」「安寧」「福利」といった意味を持ちます。前述の世界保健機関憲章前文にも、「福祉」という意味で使われています。しかし、当時は英語表現としてはあまり一般的ではない言葉だったようです。
そのこともあり、現在ではウェルビーイングという言葉が初めて健康の定義として登場したのは、この世界保健機関憲章前文であったと広く認識されています。
その後、ウェルビーイングという言葉は徐々に複合的な意味を付加されながら広まり、浸透していきます。2007年に開催された国際会議「Beyond GDP」や、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」でも、新しい時代の豊かさの指標としてウェルビーイングが言及されました。
現在では、多くの日本企業もウェルビーイングを会社の経営理念の中核に据えるようになっています。
世界保健機関憲章の解釈変動
WHOが設立された1948年は、第二次世界大戦終戦まもなくといえる時代です。WHO設立者の1人である施思明(スーミン・スー)は、当時まだ多くの感染症が猛威を振るっていた時代だったにもかかわらず、病気を定義するのではなく、あえて健康を定義することを提案して、それを前文に取り入れたといわれています。
その後、1998年の第101回WHO執行理事会では、肉体的、精神的、社会的という言葉以外に、霊的(spiritual)と動的(dynamic)を加えた新しい健康定義が検討されました。これについては賛否両論があって、WHO総会の議案となり、採択は見送られています。その結果、世界保健機関憲章は、一度も書き換えられることなく今に至っています。
しかし、定義の解釈は別でした。コンプリートやウェルビーイングといった言葉の受け取り方も含めて、世界保健機関憲章の健康定義の解釈は、時代によって少しずつ変わってきています。
冒頭の世界保健機関憲章前文の訳は、日本で1951年6月26日に条約第1号として公布された当時の定訳です。
一方、日本WHO協会では、「21世紀の市民社会にふさわしい日本語訳」を追及した結果、現在、以下の日本語訳を仮約として作成し、掲げています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」
健康の定義の変化
世界保健機関憲章における健康定義の解釈の変化は、「どこまでを健康に含めるか」という考え方が、時代によって変わってきたことを表しています。どんな考えがどのように変わって今に至るのか、そのことを知れば、企業経営や働き方と関わりの深い現在の健康観について、理解が得られるでしょう。
健康観の変遷
ウェルビーイングを含めた今日の健康に関する概念は、「病気でない状態=健康」ではなく、より「心の在り方」にシフトしたものとなっています。世界保健機関憲章による健康定義からもさらに考え方が進み、新しい健康定義が考え出されています。
そのひとつとして紹介したいのは、アメリカの微生物学者、ルネ・デュボスの著書「健康という幻想」で述べられている、下記の文章です。
「人間がいちばん望む種類の健康は、必ずしも身体的活力と健康感にあふれた状態ではないし、長寿を与えるものでもない。(略)各個人が自分のために立てた目標に到達するのにいちばん適した状態である」
自分が自分のために立てた目標に到達するために、最も適した状態にあることが「望む健康」だとルネ・デュボスは書いています。目標を持ってそこへ進むこと、自己実現へのプロセスに挑戦できること、「◯◯がしたい」と思ってそれができる状態にあることが健康な状態ということでしょう。
振り返ると、日本では次のような健康に対する価値観の変遷があったと考えられます。
<日本における健康観の変遷>
・昭和までは疾病予防や公衆衛生
文字どおり、病気を防ぐことや衛生管理をすることが健康に直結していた時代。
・平成では働き方
終身雇用・年功序列が見直され、生活とのバランスをとる働き方が健康につながり始めた時代。
・令和では感性や心の在り方
個人がみずからの感性や心の在り方を大事にすることが健康である時代。
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健康の定義が変化してきた理由
健康定義や健康への考え方が変化してきたのは、社会が変わり人の価値観が変わったからでしょう。
健康に幸福や安心という要素が加わるようになり、身体的な健康だけではなく、精神的な健康、さらに人間関係や生活、社会との関わりなどから得られる幸福感も、健康を左右するようになったからだと考えられます。
職場でも健康を重視する必要性
ウェルビーイングや経済産業省が推進する健康経営などが注目されています。健康を重視して、企業の在り方や職場環境を整えることは、従業員にはもちろん、経営者、企業自体にもメリットがあります。
ワークエンゲージメントを高められる
ワークエンゲージメントとは、働く人の、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことであり、仕事への活力や熱意につながります。
企業が健康を重視し、働きやすい環境を整えるだけでなく、経営者から従業員、また従業員同士のヒアリングやコミュニケーションを積極的に行ってお互いの考えをよく知るようになれば、意欲的に仕事に取り組むようになるでしょう。
人材の定着率と帰属意識が向上する
健康的に働けることで、従業員の定着率が向上します。多くの従業員が企業に愛着を持ち、社内の結束力や一体感も増すでしょう。離職者が少ないという実績を積み重ねていくことは企業情報としても評判が伝わることになり、新たな人材確保にもつながります。
また、昨今は働き方の多様化が進み、従業員がひとつの会社に縛られず、のびのびと社会全体に貢献できるような働き方も歓迎されています。そうした声に企業が理解を示すことで、企業への帰属意識の向上も期待でき、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。
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時代に即した健康を経営や職場にも取り入れる
健康を重視する経営は、働き方改革やリモートワークの推進ともリンクします。多様な価値観を認め、従業員の働きやすい環境を整えることが、健康かつ健全な経営のポイントとなるからです。健康の定義を今の時代にマッチするよう捉え直し、企業理念や企業経営に戦略的に組み込んでみるのもひとつでしょう。
また、オフィスの空気環境を管理して働く人々の健康を守ることも、基本的な取り組みとして重要です。株式会社UPDATER(旧社名 みんな電力株式会社)のエアテック事業「みんなエアー」では、空気環境を可視化し、データの分析・通知・アフターサポートまでを行うクラウドサービス「MADO(マド)」を提供。「MADO」は、オフィスや店舗の空気中に含まれる二酸化炭素やPM2.5、揮発性のガスといった物質を計測し、クラウドに送信。事業者のコンピューターやタブレットなどのデバイスに表示し、その空間の空気がどのような状態なのかを可視化できるため、換気やその他状況に応じた対策を行うことが可能です。
企業の健康経営の一環として、職場の空気環境改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。