新型コロナウイルス感染症の空気感染対策はどう行う?

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呉 博士(UPDATER顧問) 2021.9月執筆

 

2021年後半になっても、新型コロナウイルス感染症は世界中で猛威をふるい続け、各国の経済・社会活動と人々の生活に深刻な影響を与え続けています。

2021年9月21日の時点では、世界の感染者数は累計で2億3,000万人に迫り、死者も470万人を超えました。日本でも累計感染者数は約168万人、死者数も1万7,000人を超えています。

第5波といわれた感染拡大は落ち着きつつありますが、ブレークスルー感染のリスクが残り、いまだ3分の1近い国民がワクチン接種を終えていない中で、ご自身と身近な方々を新型コロナウイルス感染症から守るために、引き続きしっかりした感染防止対策を行うことが大切です。

この記事では、新型コロナウイルスの感染経路についての最新の知見を基に、空気を吸い込むことによって起こる空気感染が主要な感染経路として認知されてきたこと、空気感染が起こる条件と感染防止対策、冬に空気感染リスクが高まる理由、公共交通機関と建物の換気実態、そして、換気が不十分な建物内での空気感染防止対策について解説します。

 

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新型コロナウイルス感染症の感染経路と感染防止対策

 

新型コロナウイルスは、咳や会話などで人の口から発せられる飛沫を媒介にして、人から人へと運ばれます。近くにいる感染者が発出する飛沫を吸い込むことによって、または、その飛沫が目や口などの粘膜に付着することによって起こる感染を「飛沫感染」といいます。また、飛沫が物体表面に付着し、それに触れた手指で目や鼻、口に触れることによって起こる感染を「接触感染」といいます。この飛沫感染と接触感染が新型コロナウイルス感染症の主要な感染経路と考えられてきました。

 

そのため、飛沫感染防止の基本対策として、飛沫を出さないように、あるいは浴びないように、マスクを着用し、飛沫が届きにくい2m程のフィジカル・ディスタンス(ソーシャルディスタンス)の確保が推奨されてきました。同じ目的で、人と人を隔てるアクリル板などの設置も定着してきています。

また、接触感染防止の基本対策として、頻繁な手指の消毒が推奨され、今ではほとんどの施設の入り口に消毒液が置かれるようになっています。

 

また厚生労働省は、空気中に漂う極めて微細な飛沫の吸入も感染源になりうるとして、それを空気感染とは別の「マイクロ飛沫感染」と名付け、換気による感染防止対策を呼び掛けています。

 

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新型コロナウイルスの空気感染への警戒の高まり

 

2021年5月、アメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)は、最新の知識に基づいて、新型コロナウイルスの感染経路を以下のように見直しました。

 

「感染者の呼気(静かな呼吸、発声、歌唱、咳、くしゃみ)から、ウイルスを含んだ大小さまざまなサイズの飛沫が排出される。大きな飛沫は、数秒から数分で落下し、非常に微細なマイクロ飛沫や、マイクロ飛沫が急速に乾燥してできるエアロゾル粒子は数分から数時間にわたって空気中に懸濁したままで漂う。これらのさまざまなサイズの飛沫やエアロゾル粒子が感染源となる」

 

「主要な感染経路は、第1に、ウイルスを含むマイクロ飛沫やエアロゾル粒子を吐き出している感染者の近くで空気を「吸入(inhalation)」すること、第2に、咳やくしゃみなどの飛散によって、ウイルスを含んだ飛沫や粒子が目、鼻、口の粘膜へ「付着(deposition)」すること、第3に、ウイルスが付着した手指で、目、鼻、口に「触れる(touching)」こと、である」

 

さらに、第1の「吸入」については、以下の詳しい説明が加えられました。

 

「吸入による感染リスクは、感染源から1~2メートル付近で最も高くなる。その理由は、この距離でマイクロ飛沫やエアロゾル粒子の濃度が最も濃くなるからである。……感染源からの距離が2メートル以上離れた場所でも、マイクロ飛沫やエアロゾル粒子が高濃度で空間に蓄積されるような条件下では、吸入による感染事例が繰り返し報告されている」

 

エアロゾル粒子(飛沫核ともいう)の吸入で起こる感染を学術的には「空気感染」というため、アメリカ政府はCDCのこのレポートによって、一定の条件下では、新型コロナウイルス感染症は空気感染で伝搬することを公式に認めたことになります。

 

国内においても注目すべき動きがありました。

2021年8月18日、日本の研究者、感染症専門家、医療関係者ら34名の連名による「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」が、内閣官房や厚生労働省、文部科学省に提出されました。この声明では、空気感染が新型コロナウイルス感染症の「主たる感染経路と考えられるようになっている」ことが明記され、これまで考えられている以上に距離が離れていても感染リスクはあり、空気中のエアロゾルの量を減らすような対策が不可欠であるとし、それを踏まえた感染防止対策の提言がなされました。

 

このように、欧米はもちろん、日本でも、新型コロナウイルス感染症の主要な感染経路として、空気感染に対する認識が大きく変わりつつあります。

 

また、2021年9月現在主流となっている変異株(デルタ株)の場合、PCR検査の際の検体中に、従来の新型コロナウイルスやアルファ株に比べて4~64倍量のウイルスが含まれることが分かり、ちょっとした会話で出てくる飛沫にも相当量のウイルスが含まれると予想されています。したがって飛沫感染はもちろんですが、空気感染による感染拡大への一層の警戒が求められています。

 

出典:アメリカ疾病対策予防センター「Scientific Brief: SARS-CoV-2 Transmission(感染経路について)」(2021年5月)

出典:東北大学大学院理学研究科 本堂毅「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」(2021年8月)

新型コロナウイルス感染症の空気感染はどのような条件で起こるか

 

では、新型コロナウイルス感染症の空気感染は、どのような条件で起こるのでしょうか。

前述のCDCレポートは、空気感染が疑われた12の報告事例の分析を踏まえ、感染者から2メートル以上離れた場所での感染伝搬が繰り返し起こっていること、さらには、感染者が去った後に、感染者がいた空間の空気を吸入することで感染したケースがあることを指摘しています。

 

そして、そのような感染伝搬が生じた条件を、次のようにまとめています。

 

・換気や空気管理が不十分な密閉された空間にいる

・飛沫を発出する身体活動(運動、歌唱、大声を出す、叫ぶ)を行っている場所にいる

・これらの環境に長時間(典型的には15分以上)滞在する

 

つまり、ウイルスを含むマイクロ飛沫やエアロゾル粒子が滞留している、または、高濃度で浮遊している空間に滞在し、その場の空気を15分以上にわたって吸入することで空気感染リスクが高まるとしています。

 

 

新型コロナウイルス感染症の空気感染を防ぐために

 

空気感染対策の基本は、ウイルスを含むマイクロ飛沫やエアロゾル粒子を吸入しないことに尽きます。そのために、CDCは次の対策を提示しています。

 

・人との物理的な距離をとる(距離が離れるほど、マイクロ飛沫やエアロゾル粒子密度は減少する)

・十分にフィットした不織布マスクを着用する(マイクロ飛沫やエアロゾル粒子を吸入しない)

・十分な換気を行う(マイクロ飛沫やエアロゾル粒子を室内から速やかに排出する)

・混雑した室内環境は避ける(マイクロ飛沫やエアロゾル粒子が滞留していそうな空間には入らない、15分以上滞在しない)

 

これらは、これまでも新型コロナウイルス感染症防止対策の基本とされてきましたが、デルタ株の蔓延など、空気感染リスクが一段と高まる中、一層の徹底が必要になっています。

 

 

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感染を広げないためにも感染防止マナーと対策の徹底が大切

 

 

新型コロナウイルス感染症が厄介なのは、症状のない感染者が多いため、その人たちの呼吸や会話の際に発せられるウイルスの存在に、まったく気づかないことです。自分自身を守るためだけではなく、自分自身がウイルスを保持している可能性があることを自覚して、感染を広げないために、マスクの着用をはじめ、物理的距離の確保や室内換気などの感染防止マナーと対策を徹底することが大切です。

 

 

冬に新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まる

 

2020年の年末から2021年2月にかけて第3波といわれる急激な感染拡大が起こりました。2021年も、冬は感染拡大に十分な注意が必要です。その理由について、ウイルスと人の両面から説明しましょう。

 

 

ウイルスは低温・低湿度に強い

 

冬に新型コロナウイルス感染症の感染リスクが高まる理由について、ウイルスは低温・低湿度に強いということが挙げられます。

2021年4月に発表された香港大学の研究によると、溶液中の新型コロナウイルスは、37℃では2日間で感染力を失いますが、22℃では14日目まで生き延び、4℃では14日目以降でもほとんど感染力が下がらないことが示されています。つまり、今回の新型コロナウイルスは、特に低温に強いウイルスといえるのです。

 

さらに、湿度の面からも見てみましょう。空気中のインフルエンザウイルスの場合、気温20~24℃、湿度50%では、30分で感染力が半減しますが、湿度21%では、6時間経っても60%以上の感染力が維持されます。

一方、空気中の新型コロナウイルスは、気温22~23℃、湿度40%で、感染力が半減するまでに平均1.1時間、感染力がなくなるまでに約3時間を要することがわかっています。

新型コロナウイルスがインフルエンザウイルスと同様の性質を持つとすると、湿度が下がることにより、さらに数時間は感染力を維持する可能性があります。

 

 

乾燥は気管の侵入物に対する防御機能を低下させる

 

乾燥によって気管の侵入物に対する防御機能が低下することも、冬に感染リスクが高まる理由です。

 

2019年に、エール大学のマウスを用いた研究において、呼吸によって侵入する異物(ウイルスやバクテリアなど)に対する生体防御メカニズムの一端が明らかにされました。それによると、気管の粘膜繊維が重要な役割を果たしており、湿度50%では、粘膜繊維が活発に運動することにより侵入物を効率よく排除しますが、湿度10%では、気管の粘膜繊維が脱水されるため、粘膜繊維の運動性が著しく低下し、侵入物の排除が十分に行われないことが示されました。つまり、乾燥は、気管の異物侵入に対する防御機能を低下させるのです。

 

これらの研究が示すように、冬の低温・低湿度は、新型コロナウイルスの生存には好都合で、人には不利に働きます。とりわけ、気管の防御機能が低下するため、空気感染リスクが高まると考えられています。

 

出典:PNAS「Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection」(2019年5月)

 

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公共交通機関の換気実態

 

新型コロナウイルス感染症の空気感染防止の基本対策は、ウイルスで汚染された空気を速やかに室外に排出させること、すなわち、換気です。そこで、公共交通機関と建物の換気実態について見ていきます。

まずは、公共交通機関の換気実態です。

 

 

鉄道

 

生活に身近な通勤型車両の換気については、2020年10月28日に発表された公益財団法人鉄道総合技術研究所の研究報告があります。

この報告では、窓を10cm程度開けて時速70kmで走行した場合、混雑の程度によらず車内の空気は5~6分で入れ替わることが示されました。また、在来線特急と新幹線の車両は、空調装置と換気装置により、6~8分で車内の空気が入れ替わるとされています。

 

出典:公益財団法人鉄道総合技術研究所「窓開け等による車内換気効果に関する数値シミュレーション(試算)(その2)」(2020年10月)

 

 

バス

 

バスについては、国土交通省が主な観光バスと路線バスの室内換気能力をまとめています。

国土交通省の報告によると、観光バスでエアコンを外気導入モードで使用した場合、5分程で車内の空気が入れ替わるとされています。また、路線バスでは、一部の窓を開けて扇風機とフロントガラスの曇りを除去するデフロスターという装置を使用すれば、3分程で車内の空気が入れ替わります。

 

出典:国土交通省「観光バス及び路線バスの車内換気能力」(2020年6月)

 

 

タクシー

 

タクシーの場合は、スーパーコンピューター「富岳」を使った研究結果があります。

エアコンを外気導入モードで、風量を通常モード以上で使用した場合、車内空気が40秒~1分半で入れ替わり、窓を開けるよりもはるかに効果的であることが示されました。

 

出典:国土交通省「スパコン富岳を活用したタクシーの車内換気等シミュレーション」(2020年11月)

 

 

そのほかの交通機関

 

ここまでご説明してきたように、公共交通機関の換気能力は総じて高いといえます。航空機の場合も、飛行中には2~3分で機内空気が入れ替わるとされています。

しかし、感染経緯を分析した研究において、観光バス車内での空気感染を否定できない集団感染事例も報告されています。したがって、過度の安心は禁物で、常に注意が必要であることに変わりありません。

 

出典:国立感染症研究所「バスツアー関連新型コロナウイルス感染症集団感染事例、2020年10月」(2020年12月)

 

 

建物内の換気実態

 

2003年7月の建築基準法改正により、それ以降に建築された建物には、機械換気の導入により、住宅の居室では毎時0.5回以上の換気(2時間以内で室内空気が入れ替わる)、また、住宅以外の居室では毎時0.3回以上の換気(3時間以内で室内空気が入れ替わる)が義務づけられています。1人あたりの換気量で表すと、毎時20立方メートルの換気が定められています。

 

一方、厚生労働省は、2020年11月27日付け通知「冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」において、新型コロナウイルス感染症への有効な感染防止策として、1人あたり毎時30立方メートル以上の換気が必要であるとしました。

 

この値は、標準的な商品売り場やオフィスにおいて、20~30分ごとに室内空気を入れ替えることに相当し、建築基準法の法定換気量を大きく上回ります。そのため、厚生労働省は機械換気装置の運転と併せて、頻繁に窓を開け、十分な換気を行うことを強調しています。

さらに、適切な換気が行われているかどうかの指標として、室内の二酸化炭素濃度を1,000ppm以下に維持することを推奨しています。

 

このように、建築基準法に準拠した建物であっても、新型コロナウイルス感染症防止の観点からは、換気が不十分である可能性があり、ましてや、建築基準法改正(2003年)以前に建てられた建物では、ほとんどの空間(居室やオフィス、店舗、飲食店など)で、換気が不十分であると考えられます。

 

出典:厚生労働省「冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について」(2020年11月)

 

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換気が不十分な建物内での空気感染防止対策

 

今回は、新型コロナウイルス感染症の感染経路についての最新の知見に基づいて、感染者の口から発せられるマイクロ飛沫やエアロゾル粒子を含む空気を吸入することによって伝搬する「空気感染」が主要な感染経路として認知されてきたことを説明しました。さらに、冬には空気感染リスクが高まること、空気感染防止に必要な換気量が、現代の建物では必ずしも得られないことも解説しました。

 

建物内の換気量を増やすために、頻繁な窓開け、ドア開けが推奨されますが、建物の立地条件や、部屋の間取りによっては、十分な換気が行われない場合が多くあります。そのような環境では、換気以外による感染防止対策を考えなくてはなりません。

 

今回のコロナ禍を契機に、さまざまなタイプの空気清浄機が販売されています。

中には十分な有効性が認められない製品もあるため注意が必要ですが、除菌や抗ウイルスに有効な原理を採用し、かつ、しっかりとした有効性データを開示している製品であれば、空間に浮遊する細菌やウイルスを捕捉・不活化する効果が期待できます。

したがって、製品の特性や機能をよく理解した上で、適切な空気洗浄機を選択することにより、十分な換気が行われない建物内での空気感染リスクの低減が可能になるでしょう。

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