エアラボ通信

2021年6月16日

新型コロナウイルス感染防止対策として、室内の二酸化炭素量を1000ppm以下に抑えることが推奨されています。なぜ、「1000ppm」なのですか。(その1)

みんなエアー|2021年6月16日

呉 博士(みんな電力顧問)

前回書きましたように、室内の(CO2)濃度は、三密(「密閉」、「密集」、「密接」)のうちの二密、「密閉度」と「密集度」を知る指標となります。そのため、厚生労働省は商業施設等のCO2濃度を1000ppm以下に抑えるように喚起しています<引用 1)>。なぜ、1000ppm以下なのでしょうか。その疑問に答える前提として、今回は建物におけるCO2濃度管理の考え方をご説明いたします。CO2濃度管理には、コロナ対策に止まらない、より一般的な意味があることをご理解いただけると思います。

 

室内CO2濃度を1000ppm以下に抑えるという管理基準は、1970年に公布された「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(建築物衛生法)に基づいて定められた「建築物環境衛生管理基準」<引用 2)>に遡ります。建築物衛生法は、百貨店、映画館、ホテル、学校、オフィスビルなど、建物を利用する不特定多数の人々の安全と健康を確保するための管理基準を定めた法律です。同様の法律は各国にあり、ほとんどの国で、建物内のCO2管理基準は、1000ppm以下と定められています。

 

この値は、世界保健機構(WHO)の報告書を参考に設定されたと考えられています<引用 3)>。しかし、当時はそのエビデンスが十分では無かったため、その後も各国で研究が継続され、今日では、CO2の健康に対する影響や、室内CO2濃度を1000ppm以下に管理することの根拠が明確になっています。

 

公益社団法人「空気調和・衛生工学会」は、2016年にCO2の健康影響に関する国内外の研究を総ざらいしていますが<引用 4)>、それを参考にしつつ、また、他の情報も引用しながら、以下にCO2の人への影響を具体的に見て参りましょう。

 

  • 身体に明確な影響が出るCO2濃度

CO2は濃度が増加しても自覚症状が出にくい物質ですが、1%(10000ppm、管理基準の10)付近から、血中のpHが低下し、ヘモグロビンから酸素が離れやすくなり、呼吸数が増加します<引用4)>。さらに濃度が増えると、3%付近から頭痛やめまいが現れ、8%以上で、昏倒、失神が起こります。人間が耐えうる最大濃度は9%とされ、25%以上では即死すると言われます<引用 5)>。

 

  • シックビルディング症候群(SBS)とCO2との関係

シックビルディング症候群(SBS)とは、ビルの中にいる人の多くが、同時期にからだの不調を訴える現象で、1980年代に欧米諸国を中心に社会問題となりました(日本では、「シックハウス症候群」という和製造語が用いられます)。

 

CO2SBSとの関係を調べた2つの研究レポートを紹介します。ハーバード大学公衆衛生部門は、一般ビルとグリーンビル(エネルギーや水使用量の削減、施設の緑化など、建物全体の環境性能が高まるよう最大限配慮して設計された建築物)にて勤務する24人の健康状態に関する研究を行いました。その結果、グリーンビルで働く人々は明らかに良好な健康状態を示しました。しかし、CO2濃度が1000ppmに上がると、気道・目・皮膚症状や頭痛などのSBS特有の症状が有意に増加し、心拍数の上昇も認められました<引用 6)>。また、台湾のオフィスワーカー111人を対象に行われた調査では、800ppm以上のCO2に暴露された場合に、眼刺激または上気道症状が報告される確率が高いことが示されました<引用 7)>。

 

  • CO2の人の知的活動への影響

1000ppm程度のCO2環境で仕事をした場合、上記の様な身体症状のみならず、知的活動(問題解決能力や意思決定能力)にも影響が出ることが分かりました。ハーバード大学公衆衛生部門の研究グループは、オフィスワーカーの日常的な業務課題への対応能力を、戦略マネジメントシミュレーションと呼ばれるテストプログラムを用いて、CO2濃度600ppm1000ppm2500ppmの3条件で調べました。その結果、1000ppm以上では、9のテスト項目のうちの7項目で、有意に課題対応能力が低下することが示されました<引用 8)>。また、立命館大学の学生を対象として行われたタイピング実験において、1500ppmCO2濃度では、タイピング誤入力率が有意に増加することが示されました<引用 9)>。

 

これら以外にも、国内外の多くの研究レポートが1000ppm前後のCO2濃度を境に、身体症状や知的活動へ影響が現れることを証明しており、このことから、公益社団法人「空気調和・衛生工学会」は、他の汚染物質との複合汚染の可能性の検討が必要であるとしつつも、「建物の室内CO2濃度を1000ppm以下に抑えることで、健康への影響を防止できる」と明確に結論づけています<引用 4)>。

 

まとめますと、「室内のCO2濃度を1000ppm以下に抑える」ことは、人々が心身ともに健康で、快適に、効率良く仕事したり学んだりするための必要条件であると言えます。この点が分かると、室内CO2濃度を「見える化」し、それを指標に室内空気質を管理することの大切さがご理解いただけると思います。

 

では、「CO2濃度1000ppm」と、新型コロナウイルス感染防止対策はどのように結びついたのでしょうか。次回は、この点についての厚生労働省のロジックをご紹介いたします。

 

 

<引用>

1)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000698849.pdf

 

2)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

 

3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/siej/21/2/21_113/_pdf/-char/en

 

4)https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000771220.pdf

 

5)http://maruyamaexcell.co.jp/0021/05fire/pdf/CO2.pdf

 

6)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0360132316301639

 

7)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22530709/

 

8)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3548274/

 

9)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2018.8/0/2018.8_169/_pdf/-char/ja

 

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